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【勝沼トンネルワインカーヴ】廃線トンネルを利用したワイン貯蔵庫

はじめに

 甲州市の勝沼ぶどう郷駅の東側では、トンネルが3つ並ぶ光景が見られます。2つのトンネルは現役の中央本線のトンネルで、端にある古いレンガ積みのトンネルは役目を終えたトンネルで、観光向けの遊歩道に転用されている大日影おおひかげトンネルです。旧大日影トンネルの先には旧深沢トンネルがあります。こちらはワインカーヴ(貯蔵庫)に転用されています。

勝沼と中央本線

 明治36年の中央本線の開通とその後の勝沼駅の開設は、山梨のぶどうとワインの輸送手段を大きく変えました。それまでは、馬の背に積み甲州街道を東京まで数日かけて運搬していました。中央本線の開通により東京まで半日で到着できるようになりました。また、鮮度が保てるようになったことで、市場には多様なぶどうの品種を出荷できるようになり、勝沼はぶどうの産地として多くの人に知られるようになります。勝沼はぶどうの産地として作付け面積は飛躍的に拡大していきました。
 こうした歴史的背景を担ったトンネルでもあります。勝沼町(現甲州市)が旧トンネルを無償でもらい受けた理由もここにあったのではないでしょうか。

最大の難所笹子トンネルの大月方(明治36年)
あとから設置された勝沼駅(大正5年)

深沢トンネル

 深沢トンネル(1106メートル)は大日影トンネルと同じ明治36年の中央本線甲府開業に合わせて作られました。
 1997年(平成9年)、新たな下り線用として新大日影第2トンネルが作られたことで、大日影トンネル(1367.8メートル)とともに役目を終えました
 2005年(平成17年)、ふたつのトンネルは勝沼町(現甲州市)に無償譲渡されました。まず、2005年(平成17年)にワインカーヴがオープンして、2007年(平成19年)にトンネル遊歩道が整備されました。

完成直後の深沢トンネル入口(明治34年)

深沢川の河川トンネル

 大日影トンネルと深沢トンネルの間には深沢川が流れています。鉄橋の上から下をのぞき込むと川は煉瓦積みの河川トンネルの中を通っています。

大日影トンネルから見た深沢トンネル

 もともと深沢川は谷でしたが、トンネル工事で出た土砂を処分するため埋め立られました。川は通さなければならないため河川用トンネルを作り、川を通しているのです。河川用ですが、アーチ状のトンネルで鉄道と同じ煉瓦を使いイギリス積みの工法で作られています。

下に見える深沢川の河川トンネル

勝沼トンネルワインカーヴ

 深沢トンネルを再利用した、勝沼トンネルワインカーヴは、ワイナリーや個人オーナからワインを有料で預かり保管しています。こちらは遊歩道とは異なり、通り抜けは出来ません。反対側の入口は山中にあり塞がれています。
 そもそも、ワインセラーもワインカーヴも同じ貯蔵庫という意味です。ワイン(英語)+セラー(英語)に対してワイン(英語)+カーヴ(仏語)です。
 トンネル内部の気温は、年間通じて12度~13度です。湿度のほうは45~65%になるように調整して保たれています。ぶどうとワインの町の勝沼らしいトンネルの利用法です。

旧深沢トンネルと管理董

 駅の方から大日影トンネル遊歩道を歩いてここまで来ましたが、国道20号線からここへ入ってくることができます。そして公衆トイレを兼ねた管理棟と駐車場があります。管理棟は「ワインカーブ駅舎」と看板があります。
 トイレだけは開いてましたが管理棟は施錠されていて職員は留守のようでした。観光案内所を兼ねていたはずですが、現在は業務を縮小したのかワインカーブのオーナーの受付だけしているようです。

管理棟
国道20号へ続く道
銘板は「勝沼トンネルワインカーヴ」

 ワインカーヴの内部は無料で見学できます。ただし立ち入れるのは、入口から数十メートルまでです。そこから奥はワインを預けているオーナーでないと入れません。

鉄製の思い扉を開けて入る

 中は無人で、見学受付票に記載して中に進みます。防犯カメラがついています。

ワイン樽を使った受付台がある

 フォークリフトが2台止めてあります。フォークリフトは預かったワインをラックから出し入れするためのものですが、狭いトンネル内を移動に合わせて横向きのまま走行できるよう改良されているといます。

貯蔵室へ向かい進みます

 この先はワインのラックが並びますが立ち入り禁止です。
 入口に近い辺りは個人オーナーの区画でその奥が企業用になっているといいます。個人オーナーの区画は希望が多く、空き待ちが続いているそうです。

まっすぐに続くトンネル

 ワインを収納しているラックが延々と続いています。このワインカーブ全体でおよそ70万本のワインを貯蔵することができるといいます。
 ラックは少しずつ高さがずれているので、奥に向かって上り勾配になっていることが分かります。つまり先ほど歩いてきた大日影トンネル遊歩道と同じ1000分の25という勾配の上にあります。

ラックが延々と続く

おわりに

 「勝沼トンネルワインカーブ」に転用されたトンネルの紹介でした。見学はできるものの、入り口部分までのため、見る場所はほとんどありません。 ワインを目にできないので、預かっているイメージがつかみにくいです。もしも、しいたけ栽培をしていると言われれば、そう思ってしまいそうです。せめて案内所を再開して、お土産用のワインを置いてもよいのではと思います。
 それでも、トンネルを利用したワインカーブは他になく、規模も最大なので、遊歩道を歩いててきたついでに中をのぞいてみるだけでも、価値はあります。



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