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【井戸尻考古館】ミニ特別展示「境小学校縄文土器展」を見に行く

はじめに

 富士見町の井戸尻考古館のホームページをふと見ると「境小学校6年生の力作展示中」とありました。実際に足を運び見てみると、なんとも素晴らしい出来栄えでした。指導した学芸員も絶賛する縄文人の生活と心に迫った総合的な学習の成果であり「境小学校縄文土器展」の名に違わぬ展示でした。
 また、土器をつくることは児童たちからの自然発生的に出たことだと伺いまた驚きました。これはぜひ紹介したいと思い、担当学芸員の許可のもと、個人情報は加工し掲載いたしました。

遅い春の到来を待つ井戸尻考古館

 ミニ企画展示「富士見町の香炉形土器」(2023.1.24~3.31)も引き続き開催中でした。

総合的な学習

 この「境小学校縄文土器展」(2023.3.1~3.14)は、井戸尻考古館のお膝元である境小学校の6年生20人と先生が総合的な学習の時間で1年を通して、富士見町の縄文時代について学習を重ねた成果を展示したものです。

メッセージボードとリアクションシールも上々の反応

 境小学校へ出向いて縄文時代に関する授業と土器づくりの指導を行ったS学芸員にお話しを伺いました。以下、伺った内容です。
 総合的な学習のテーマとして富士見町の縄文時代を扱ったのは今年度が初めてとのこと。境小学校の周辺は有名な縄文遺跡が多数ある地域です。縄文時代を学ぶというところから始まりましたが、縄文土器を作るところまでに至ることは当初の計画にはなかったそうです。
 それでも、S学芸員は土器作りをひそかに期待はしていたものの、提案や薦めたことはなく、児童たちから自発的に声が上がり土器を作って見ようということになったのです。
 もともと境小学校にはクラブ活動として縄文クラブがあります。S学芸員は縄文クラブの指導をしています。クラブ活動では児童たちにやりたいことを聞いて行うことが中心であり、弓あてをしたり、石斧で木を切ったりといった具合です。
 一方、総合的な学習なると縄文時代やその頃の生活ついて授業として生活の様子から学習します。さらには井戸尻考古館も見学して、土器や石器の使用目的についても学習し理解しました。そして土器は鍋であり、火にかけて煮炊きをする生活の「道具」であるということを理解したそうです。もちろん文様や形状に込められた思いというものも知ったことでしょう。
 そうした理解や下調べがあってこそ、出来上がった児童たちの土器はまさしく縄文土器なのです。

井戸尻考古館会場

 土器を井戸尻考古館にて展示することも、考古館側では考えていなかったそうです。児童、学校からの要望により「ミニ特別展示」として展示されることとなりました。展示期間は2023.3.1~3.12と短期間でありますが、場所は国の重要文化財の土偶「始祖女神像」の展示ケースのすぐ後ろです。
 井戸尻考古館のほかに、最寄りの駅である信濃境駅、図書館などが入る富士見町コミュニティープラザの3会場でそれぞれ展示されています。

普段とレイアウトを変えて、境小学校の「縄文土器」を展示しています

 しっかり土器づくりの手順とコツが書いてあります。また野焼きの経験がある人でなければ分からないことも書いてあります。まとめもすばらしいです。

土器づくりを体験した者こそ知り得る内容がびっしり
土器は生活の道具と分かっている、さすが
粘土の説明が絶妙、焼き方もいい

 土器づくりのほかにも「縄文クッキング」として縄文シチューを作ったリポートもあります。材料はヒエと干しきのこ、干し野菜などです。
 鹿肉など狩りで得る材料でなく日常の採取で得られる材料で作っているところに現実味があります。

縄文シチューのレシピとヒエの展示

 S学芸員は次のように作品を講評しています。

 丹念な下調べに、自分が思う縄文土器を重ね合わせて作った土器は、本物と見間違えるほどの出来です。

出典 : 井戸尻考古館公式HP

 その理由として①模様の付け方、②模様の違い、③模様の理解、を挙げて、これら理解している児童たちの作品はでピカイチだといいます。
 本質を理解していないと、いい土器は作れないといいますが、その本質を小学生でも理解するとこれだけの作品になると体現しているのです。

6人の縄文土器を展示
蛇の文様、右のシンプルな土器は丹念な出来
顔面取っ手がついてます、小さな立体物はみづちでしょうか

信濃境駅会場

 ほかの作品も気になりましたので、信濃境駅に向かいました。

ご存じ信濃境駅

 下りホームに面した、事務室のホームに面した出窓のようなスペースに飾られています。普段は地元の愛好家の方たちが制作したものが展示されていますが、その中の前列に6人の児童の作品があります。

事務室の裏の出窓のようなスペース

 大型の土器は普段ある愛好家の作品ですが、一瞬分からないくらい特徴をとらえた土器に仕上がっています。

説明ボードもグループで内容が変えてありました、手前は愛好家製作の朝顔形土器
蛙が描かれている土器も
蛇や顔面取っ手も


富士見町コミュニティープラザ会場

 最後は図書館などが入った、富士見駅の裏側にある町の文化施設です。こちらではエントランスロビーに飾られています。

富士見駅の裏側にある富士見町コミュニティープラザ
さわりたくなるけれど我慢

 こちらには8人の児童の作品があります。図書館という場所柄、この会場が一番人の目にはふれるようです。
 考古館にもありましたが、粘土が残ったのでしょうか。一般的には抽象文されるみづち(想像上の水棲動物)を立体的で作る発想は大人にはないです。
 共通のポイントは押さえながら、でも少しずつ個性が見えるんです。縄文人も個性を出して作ったのでしょう。ちゃんと煮炊きに使うことを意識して作られていることも分かります。

個性的な取っ手付きも、浅鉢は難易度高い
どれもバランスよくできています

 いいものを見せてもらいました。将来の井戸尻考古館の学芸員がこの中から出ることを期待すると、学芸員にいわしめるのも無理はありません。

井戸尻史跡公園の梅

 さて、井戸尻遺跡にある史跡公園にも梅の木があります。まだ開花は少ないのですが、少しずつ紅梅も色づいてきているのが分かります。春は着実に向かってきています。

復元住居の前の広場
大賀蓮などがある池の近く

おわりに

 「発掘された日本列島2022」として、埼玉県立歴史と民俗の博物館をかわきりに全国を巡回した土器が帰ってきておりました。しかし、すべてが展示室へは戻されていないとのこと。留守の間に別の土器に居場所を奪われて、収蔵庫入りした土器もあるのです。逸品ですらうかうかできないほど、この展示室の「争い」は熾烈なのでした。

土器に囲まれたいつもの展示室
展示室の中でも一番冷えると言われる場所

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