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【‘‘私たちの働き方と文化的な営みについて考える’’】

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』という本について、以前から本書の感想を書こう書こうと思っていたのですが、社会人としての自分が何故、学生の頃と比べると本が読めなくなってしまったのかということを本書から痛感させられることが多くて様々な理由が当てはまって、自分の中で言葉として咀嚼しきれないものがあったからだと感じています。

本書でも指摘されている通り、‘‘本を読む時間はあるのに、スマホを見てしまう’’ という項目は現状の私自身と重なるものがありました。
確かに、スマホを開くとSNSをチェックしたり、YouTubeの面白そうな動画をひたすら見たりと時間を無為に過ごしてしまいます。
会社で働きながら、本や映画の感想を書くことはかなり難しいことだと思いますし、両立させながら自分の好きなことに没頭することはかなり困難だなと何度も直面することがありました。
こうした原因として考えられる理由として、本書では本を読む余裕のない社会が悪いということが述べられています。
社会人になってから、本が読めなくなってしまったのは自分だけではなく、社会人であった三宅さん自身もそうであり、労働と文化の両立に困難を抱えながら生きるということは幸せなことではないなと考えさせられることがありました。
興味や関心事、生活から生まれる文化があるからこそ、仕事を頑張ろうと思える活力が生まれるものであると思いますし、‘‘あなたの「文化」は、「労働」に搾取されている’’という一文は、強く胸に突き刺さるものがありました。
近代以降の労働史と読書史を俯瞰することによって、私たちはどのように働きながら本を読んできたのか、そして私たちの読書生活はどのようにして難しいものへと変わってしまったのかということを考えるきっかけにもなりました。
本書が最も目指すテーマというのは、働きながら本を読める社会をどのように作りだす必要があるのか。
働きながら、労働と文化を両立させる方法、この二点こそが重要視しなければいけないことだと思います。
私が特に、注目して興味をそそられた箇所は、稲田豊史さんが記された『映画を早送りで観る人たちーファスト映画・ネタバレーコンテンツ消費の現在形』から芸術性のある映画に関しては集中的に鑑賞モードに入り、娯楽映画に関しては消費物として捉え、情報収集モードに入るということであります。
こうした理論を本書に当てはめると以下の通りになります。 

読書…ノイズ込みの知識を得るもの。
情報…ノイズ抜きの知識を得るもの。

映画にみる、情報収集術ではYouTubeなどで解説レビュー動画を見たり、ネタバレありの感想を誰でも書き込めるサイトを閲覧したり、読書では速読術やスキミングを使えば容易に誰しもスキルを身に付ければ実現可能であります。
ノイズを含む知識を得ることこそが本物の教養を得ることだと感じている私にとって、社会人の私たちは映画を早送りで見たり、解説レビューの動画を見たり、速読やスキミングを使って読了数を増やして知識をたくさん得ようとしたりと、時間の限られた中で常に何かに追われてしまって文化的な営みを楽しめなくなってしまっているのではないかと考えられます。
読書について考える時、本書でも記されていますが、読書とは自分から離れた文脈に触れることこそが読書の意義であり、私自身も感心させられるものがありました。
‘‘ノイズ’’という言葉を考える時に、私たちはノイズをどうしても否定的な言葉であると捉えがちだと思いました。
ノイズがあるからこそ、小説や映画を読んだり、見たりする時に楽しみ方が拡がり、あのセリフはどういう意味なのだろうかとか、あのシーンとあのシーンの切り替えにどういう意図が込められているのかといった考察も出来るし、作品の解釈における可能性や深掘りも出来て楽しむ要素もまた増えるものだと考えさせられることがありました。
本書で働きながら読書を両立させるコツは最終章で述べられています。
それは、‘‘全身全霊で働くのではなく、半身で働くということ’’であります。
私たちは、働なければ生活することは出来ませんし、趣味の読書や映画鑑賞に費やす為のお金が必要になってくるので、働くということは必然的なことだということは自覚しています。
ただ、それは働き方の問題についてであり、労働時間を増やして高い給料を得る、上司や部下の人たちとの交流の輪を広げたり、働くこと自体が美化されるような社会を形成することは文化的な営みを阻害させてしまう大きな問題点なのではないかと考えさせられました。
半身で働くということは、給料も減り、好きなことに費やすお金が足らなくなることもありますが、何よりも趣味に費やす時間が増えることになります。
労働と文化を両立させる為の唯一の方法、それは自分の働きに見合ったバランスを取ることにあり、現代人の私たちはバランスを取ることを苦手にしているところがあり、自分の幸せを自らの手で奪ってしまっているのではないかと感じました。
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、社会人の皆さんに一人でも多く手に取ってもらいたい必読書だと思いました。


【参考文献】
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅香帆 集英社新書

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