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すべてを受け止め吐き出す女神は怖いらしい

女神は私たちに必要か?

女性の姿として表象された女神は神話や宗教の中で長きにわたり多く存在しています。自然や豊穣、愛や慈悲のシンボルとして、また月や太陽などの偶像として。皆さんは女神にどのようなイメージをお持ちでしょうか?
若く美しいだけでなく、強く、頼もしく、味方であり、しかも慈悲深い…良い所どりの憧れの像が多いです。でもそれって誰にとっての憧れ?
女性はこうあるべき、これが理想だと決めつけて故意につくられてるのではない?
私は若桑みどり著「お姫様とジェンダー」※1を拝読後、「女神」も同様な思い込みがあるではないかと思い、女神の意義を調べてみると国や時代をまたいで女神が社会の変化と同様に変わる様が興味深く、現在のジェンダー格差は長い歴史の中で作られた女神の経緯からも知る事ができるのではと、女神の中でもアルテミスに注目し、今回作品を制作しました。

エフェソスのアルテミス

アルテミスはギリシャ神話に出てくる狩猟、山野、月の女神です。(ローマ時代だとでディアナという名前)。動きやすいミニスカートに狩の道具を携え、鹿やニンフを従えた気の強い処女神のイメージがありますが、私が惹かれているのはそれより以前から信仰されていたとされるエフェソスのアルテミスです。エフェソスのアルテミスはギリシャ文化以前の旧石器時代以来の大母神からその後小アジアの大地母神キュベレの影響が強く残っているといわれている女神だそう。
アルテミスの名前はギリシア語として語源を分析するのは不可能で、ギリシア文化以前にさかのぼる可能性が高い※2そうでかなり古い女神の可能性が大きいのです。

グロテスクな大地母神

私のいたずら描きですみません。こんな感じです。
こんなんわかんねーよという方はネットで検索するとすぐ出てくるのでみてください。

エフェソスのアルテミスのすごいところはその風貌
胸から腹にあたりに乳房のようなたくさんの謎の丸いものを身につけ、(乳房、牛の睾丸または蜂の巣などと諸説あるが生贄のために使われた牛の睾丸が現在有力)、下半身には動物や蜂などの生き物をぎっちりと従え(または動物達が彼女から生産されている様な感じにも見えます)、手を広げた自信に満ちた姿はまるで全ての大地を受け止めた山の如く。
たいへんグロテスクです。
私は「女神」と呼べる表象って本当はこんな感じなんじゃないかなと思います。苦しみ醜さ恐怖などネガティブな生のすべてを受け入れ吐き出す超越したちょっぴり怖い見た目の女神(性も超えたようにも見えます)。
美や処女性を強調した古代ギリシアのアルテミスとは全く違います。
古代ギリシア以降のアルテミスは自然が持つ恐ろしさ醜さ強さは削ぎ落とされ、男性が望む「女性らしさ」の女神へと変更されていきます。
その時代の都合のよいストーリーに変えられていくのです。

生きることは楽しいだけではないし、女性はいつまでも処女でも若くも美しくもない。だから上っ面の都合のよい女神なんていらないなと思います。

自分に合った生き方を探す

社会(国家や宗教)に見合う人間をどう形成するか(どう生きるかでなない)はその時代や文化によって変化します。
当時の宗教や神話の中にはそうすべきてある、ならなければいけないという思想が刷り込まれていて、時代遅れなイデオロギーであっても伝統だから慣例だからと正しいのだと思い込んでいる節があるように感じます。
それに気づいて「個」としての生き方を探り、発見する事が幸せに生きるヒントじゃないかなと思います。
私はエフェソスのアルテミスの様に苦しいことや醜いものも全て受け止める覚悟で生きたいなあ。

古代ギリシャではすでにジェンダーが格差があった記録がたくさん残っています。もっと前のグロテスクなエフェソスのアルテミスが信仰されていた時代のジェンダーはどうだったのでしょうか?気になります。
現在はその時代と比べ、男でも女でもない「個」として生きやすい時代へと変化できているのでしょうか?

今も昔も性に左右されていたとしても、どのみち私たちは必ず死へと向かっています。そこだけは誰にとっても公平です。

アルテミス 
綿サテンに手刺繍 2023  53cmx39cm

もうちょっと怖い風貌でもよかったかな。生も死も司る女神のイメージで作りました。さりげなくエフェソスのアルテミスのシンボル、マルハナバチもはいってます。
もう何シリーズか作ってみたい。


参考図書
※1若桑みどり著「お姫様とジェンダー」

ディズニーのアニメを題材に、昔話にはどんな意味が隠されているかを読み解く。いつの間にか思い込まされている「男らしさ」「女らしさ」の呪縛から、男も女も自由になり、真の男女共同参画社会を目ざした本。
大学授業の内容なのでその時の生徒の感想などもあり、読みやすく興味深い内容です。

※2『女神誕生 処女母神の神話学 (講談社学術文庫)』松村一男著


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