ビジョンを描く立場から見た、スペキュラティヴ・デザイン
「ビジョンを描いたその先にあるものはなんだろう?」
ビジョンデザインに注目が集まっている昨今、ビジョン創出のプロジェクトに関わるたびに、常に抱え続けてきたこの問い。
ビジョン創出のプロジェクトに関わり始めた3年前は「絵に描いたこと」を「実現すること」だと捉えていました。
けれど。3年間ビジョン創出の様々な場に関わることで見えてきた「ビジョンを描いたその先」は、「荒れ狂う波の中で、身体いっぱいに環境を捉えながら、行きたい方向性を常に見定め、軌道修正し続けて航海する」という行為でした。
結果的にたどり着いた目的地は、思い描いていたものを大きく違うのです。
西回り航路でコロンブスが「インド」としてたどり着いた場所が、実はアメリカ大陸だったように。
だけど、その思ってもなかった違いこそが、新たな世界を開く。
そんなことを「スペキュラティヴ・デザイン」の本を読みながらつらつら考えたので、ちょっと自分が関わったビジョン創出のプロジェクトを参照しながら記していきます。
↑ビジョンデザインに関わる人におすすめ♡
前提:そもそも「スペキュラティヴ」なデザインって何?
「スペキュラティヴ」という言葉自体、聞きなれませんね。
「スペキュラティヴ・デザイン」の本では以下のように記載されています。
「Speculative」とは『批評的で議論を呼び起こすことを通じて問題を発見し、問いを立てる。デザインを社会サービスにおけるメディアとして捉える。世界がどうなりえるのかを示すことで、その世界に自らを適合させていく。それは社会的に機能するフィクションであり、実現していない現実としてのもう一つの平行世界でもある。何かを作る側ではなく、消費する側からの視点を暗示し、人をユーモアと共に挑発する。まさにコンセプチュアルなデザインであり、市民としての私達に、倫理や権利について考えさせる表現である。』
うーん、難解!
私は最初読んだ時にぱっと頭に入らなかったので思わず図解しながら読み解いてしまいました(笑)
私はスペキュラティヴ・デザインは「社会の新たな一歩を切り開くプロセス」と捉えました。読み解いて感じたプロセスは以下。
①デザイナーが形でもって、平行世界を示す。
※形は、建築やプロダクト、環境等様々だが、いずれも新たな意味を提示するためにある。
※平行世界は、「おこりそう・おこってもおかしくない望ましい未来」である。←そこがアートとの違い。
②受け手は、今の世界と、平行世界を比較する。それぞれの世界と、その中での意味を読み解く。
③読み解いたものから、人が考え、思索し、議論し、新たな何かを生みだしていくプロセスを創出する
※プロセスを創出しない場合もあるけど、受け手を信じるスタンス
既存の消費社会の中でのデザインの在り方と対比する、スペキュラティヴ・デザインのスタンスは、この本のカバーに端的に示されていますね。
実際の社会での活用例:未来洞察のアプローチと事業戦略から見えたこと
じゃあスペキュラティヴ・デザインって実際の社会で、どんな風に活かされているのでしょうか。
この本では、様々な事例が掲載されているので、ぜひそこはご覧いただくとして。(明和電機のオタマトーンも事例の一つで掲載されていたよ!)
私はビジョン創出のプロジェクト、特に未来の機会領域を探る「未来洞察」のアプローチとつなげた、事業戦略創出で活かされているなと感じています。
例えば、実際に私が参画したパナソニックラボラトリー東京さんのプロジェクト。私は「平行世界を示す」描き手(ビジュアルファシリテーター)としてプロジェクトに参画しました。
このプロジェクトを通じて思ったのは、『「①デザイナーが形でもって、平行世界を示す。」だけじゃ足りねえーーー!!!』ということでした。
実際に本当に社会のために関わろうと思ったら
②受け手は、今の世界と、平行世界を比較する。それぞれの世界と、その中での意味を読み解く。
③読み解いたものから、人が考え、思索し、議論し、新たな何かを生みだしていくプロセスを創出する
この②③こそが肝になるんじゃないかと思ったのです。
ゆえにこのプロジェクトでも、私は視覚化手法を用いた②③の支援を行っています(詳しくは上記グラグリッドの記事に記載していますのでご参照ください!)
「読み解く」「考える」「思索する」「議論する」プロセスをうみだすために
とはいえ!!「読み解く」からの一連の行為って、ハードルが高いのです。
特に、入り口の「読み解く」は、受け手の思考力をめっちゃ使う。
だから形を提示されて「自由に考えていいよ」といわれても、とっかかりがなさすぎて、あるものを見て通り過ぎてしまうこともしばしばなのです。
夏休みに、「読書感想文を書きましょう」といわれた小学生の気持ちが近いかもしれない…。
だから、もし社会のために、他の人と何かをしていくため、まきこんでいくためには「読み解く」のちょうどいいとっかかりが必要だと私は考えています。
問いを生みだすためのヒント、なのかな。
スペキュラティヴ・デザインのプロセスの「②受け手は、今の世界と、平行世界を比較する。それぞれの世界と、その中での意味を読み解く。」を細分化すると、以下があると考えています。
└②-1:形として平行世界を示したもののちょっとした解説をきく
└②-2:そこから平行世界のイメージを自分なりに広げる、身体的な行為を行う。
実際に上記記事のプロジェクトでも、「②-1」で平行世界(戦略)解説をきいた後に、「②-2」として、私たちはそのイメージを参加者一人一人が「描く」方法を提案し実施しました。
↑実際にきいた平行世界をもとに、一人一人がその平行世界をよみとき、「描く」行為を通じてイメージを広げていったプロセスの写真。
※画像は記事より引用)
特に、読み解きでのポイントは、身体を使うという点。
多様な情報が流れてただでさえ取捨選択が難しい時代。ただ解説をきくだけでは、受け手は頭で受け取って「ふーんそうなのね」で終わってしまうこともしばしばです。
それじゃスペキュラティヴ・デザインのやりたかった「問い」なんてうまれなーーーい!!
頭で受け取るだけじゃなくて。
受け手もまた、身体を通じて表現することで、イメージをより広げて、考え、思索し、読み解きを深化させていくことができるのではないかと思うのです。
その自分の中での読み解きの土台があってこそ、人との議論、そして新たな何かをうみだすプロセスは生まれるのではないでしょうか。
そのプロセスを経てうまれるものは、デザイナーが示した平行世界とはまた別の形のものとなるでしょう。
多様な人が関わったことに加え、常に揺れ動く先行き見えない不透明な社会でフィットして、形は常に変わっていくのです。
でも、新たに提示された意味、発せられた問い、生まれた議論が社会にもたらすものは計り知れないとも思うのです。
スペキュラティヴ・デザインが示す、デザイナーとしての生き方
正解をよみとくのではなく、今と提示された平行世界を比較し、そこからよりよい未来を思索し形作るスペキュラティヴ・デザイン。
「スペキュラティヴ・デザイン」本書では、デザイナーの生き方としての意味にも言及していた点にしびれました。
もちろん、この種のデザイン活動は資金調達がかなり難しく、機会も限られているとは思うが、必要であることは確かだ。(中略)
またビジネスだけでなく、社会全般に目を向ける組織をパートナーと組むこともできるだろう。建築家と同じように、デザイナーは時間の一部を市民運動的な目的に費やすことで、こうした活動をひとつの職業的役割として引き受けることができる。
「じゃあ、プロダクトもグラフィック等の専門性がない私は、何のデザイナーなんだろう?何を形で示すのだろう?」
そう思うと、私は事業やサービス、プロジェクトのデザインなんだろうなーと思います。そこは20歳の時、ワークキャンプでのプロジェクトリーダーに失敗したことからファシリテーションを学び始めたときから、38歳の現在まで、まったくぶれていません。
そして、中間成果物として、絵や言語をハイブリッドに使って、視覚化し、形を示すことができる。
このスペキュラティヴ・デザインの考え方は、仕事でも、そして自分の活きるフィールドで一歩ずつ実践していけたらな、と思っています。
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