体験スケッチヘッダ

パルシステム(生協の宅配)の体験スケッチ① ~揺らぎをうけとめリズムをつくる、バンドのベース的存在としての美しさ~

食べることが好き。料理することが好き。
思春期突入してすぐ、「自分で自分のお弁当を作ることが自立の一歩だ」そう考えるくらい、私の人生には「料理すること」「食べること」が密接に紐づいています。
料理人になったりするような腕前では、決してないけれど、ね。

体験スケッチでは、まずそんな料理と食べることが好きな自分の生活を支えている、パルシステムという生協の宅配サービスの「体験」を扱います。主観的な「体験」から、サービスの特徴や美しさを、抽象化して捉えていきます。

1:「パルシステム」の体験をスケッチする

まず前提として、パスシステムの体験スケッチにあたっては「①パルシステムを生活の一部にする」と、「②毎日の生活にパルシステムを活かす」の大きなステージの違いがあると捉えています。

①パルシステムを生活の一部にする
・新しい仕組みを、生活の中で習慣化するフェーズ

②毎日の生活にパルシステムを活かす
・習慣化した仕組みを、生活の変化と併せて運用していくフェーズ

今回はまずは①部分について書いていきます!(②は次回。)


2:体験スケッチ① パルシステムを生活の一部にする

体験スケッチボード1



1:新生活での課題を漠然と感じる

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・新婚で、同居して1年未満の状況。
・平日細々3回程度、週末1回まとめて買うスタイル。
・買い物するときに米(3-5kg)やペットボトルを運ぶのがめんどくさい。夫もめんどくさそうだ。雨の日に重いものを運ぶのはさらにめんどうくさい。
・でもスーパーに行くのは好き!スーパーで色々な食材を見て料理を考えるのが好き。

サービス検討のシーンとしては、「新生活がはじまって、新しい習慣を手探りで模索しているとき」ですね。
私は、他家の文化を背負った「夫」と暮らし始めたことが該当します。「朝飯作るの作らないの」「買い物誰が行くの?」から組み立てる必要がありますからね…。


2:生活スタイルの検討

・夫が会社の取引先からパルシステムを紹介してもらい、私に相談
・「実家でも生協(店舗)使ってたからいいかも」と思うが「そうはいっても平日帰りが21時をまわるような生活で、宅配ってできるの?」と気になる
・留守でも大丈夫という仕組み(ボックスを玄関前においてくれる)と、それを示すチラシ ※ をみて安心する

ここで、パルシステムという「サービス」と出会ったことで、顧客である「私」のペイン(メリット・恩恵)とゲイン(障害・リスク)が浮き出てきているように感じました。
※ペインとゲインについては、バリュー・プロポジション・デザイン 顧客が欲しがる製品やサービスを創る の本がおすすめ!顧客目線でサービス考える時のステップがわかりやすいのです。

…逆にいうと。思考を呼び覚ますための目に見える形(=サービスとか何か目に見えるもの)がないと、漠然としていて言語化や思考はそんなには巡らしていないんですね。「顧客は課題を言語化できる」ではないと改めて実感。

そして私のペインとゲインをより深掘りするとこんなかんじ。

【ペイン(メリット・恩恵)】
・実家で生協使ってて、おいしかったから私も使えたらいいな
・安全、安心感がある。自分が信頼できるところから、社会にとっていい消費をできているという実感があるのは安心。
・夫が納得してるなら、あとは私がゴーだせば進みそうだ

【ゲイン(障害・リスク)】
・21時をまわるような生活の私でも受け取れるのだろうか。受取れないとか、盗まれるとかあったらやだなー
・ほかのサービスで夫が納得しなかったらやだなあ。がんこだからなー

ぶっちゃけ、結婚式の場所決めるにもテンションたいして上がらず、「どこでもいいよー」という割に、全然どこでもよくなさそうな夫の態度というストーリーがこの時期ありました。
結婚式場合意形成するのマジ大変だったのです orz あー。。

そんなわけで、私は新婚早々「ノーモア、家庭内ハイレベル合意形成!!!」という気分でいっぱいでした。
なので「夫が前向きなら、よーしこの波にのっちゃえ、ゴー!」でいきたかったのです。他の生協も一応比較しましたが、(相当な障害がないかぎり)落としどころは夫が推めてきたパルシステムと決めていました。

正直、家庭なり組織なり、そういう気運があるときに、その波にのっちゃったほうが、組織導入速いじゃないですか。タイミングまじ大事。

※ちなみに、「留守でも大丈夫」というチラシは、セキュリティ対策のチラシ。10年前なのでもう持ってはないけど、まさにこの「シール」「商品カバー」について触れられていました。

セキュリティ対策

配送・手数料|生協(コープ/COOP)の宅配パルシステム


3:少数から始める

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・米(無洗米)、野菜から注文をはじめてみる
・米と野菜に加えて、豚バラ、パンなど、一緒に注文していったもので、自分のお気に入りを見つけていく
・グリーンボックス(そのシーズンの旬の野菜の詰め合わせ、事前に内容はわからない)の珍しい野菜が届く。どう食べようかワクワクする。

まずは「重いもの(=米、野菜)」から試していったのですが、そこから色々なものへ広がるのに時間はかかりませんでした。
とにかく野菜も、お米も、安定しておいしかったのです。

体験スケッチをふりかえると。
私にとって、「おいしい米が、すぐに食べられる状況である」というのは、実は生活に欠かすことのできない大事な要素だったのだと気づきました。
おいしいお米は、自由に楽しくおかずをつくることを促すから。

実家では、お米は父方の祖父母から毎年おいしいコシヒカリが送られてきていました。私は毎年、その届いた米をわくわくしながら見つめていました。

米は、祖父母や叔父叔母が、自分たちを思っていてくれるという形。
そのお米があることで、おいしい料理をつくるぞという気持ちになれるワクワク感。何をあわせようか、何をつくろうか。

米の味が悪いと、キロ単位でかう分「あのお米、また食べるのかあ」という毎日のがっかり感が続くし、「次買うお米、おいしくなかったらやだなあ、何をえらぼうかな」という漠然とした不安が毎日つきまとうのです。

パルシステム導入により達成されたのは、「つながっている誰かがいると思えることで、自分の毎日の自由が支えられる価値」そして「自分そして相手が大事にしたいことをふまえた、共同生活の土台を構築できる価値」に他なりませんでした。


4:生活になじんでくる

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・コチュジャンやハバネロなど、使うけれどもパルシステムでは買えないものがわかってくる
・基盤(米や野菜、肉など)以外で物足りないものがあると気づくが、そうしたものはスーパーや輸入食材店で買うなどして折り合いをつける
・届く曜日を中心としたリズムができる
・引っ越しをすることになり、続けるかどうか判断が必要になる。続ける判断をする。

半年~1年すると、生活の中でパルシステムがなじんでくると同時に、限界も見えてくる時期でした。
具体的には。(私は激辛が大好きなのですが)コチュジャンやハバネロ、にんにくボトルのような嗜好品がパルシステムでは売っていないのです。たまに売っていても、少量すぎてすぐ使い切ってしまう。

ただ、こうした限界が見えつつも、「引っ越し先でもつづけよう」と判断したのは。
「自分そして相手が大事にしたいことをふまえた、共同生活の土台を構築できる価値」が、米・野菜というタッチポイントで達成できていたという点がとても大きかったです。

ちなみに、この「達成できていた」という評価については、夫の態度が判断指標になっていました。
夫は「うまいうまい」と料理を食べ続けてくれて、毎日「うまいうまい」といってくれてたのです。(この態度は結婚10年後の今も変わらず、毎日表現してくれいます。本当にすごいことだと思っています。)

3:パルシステムという「サービス」の特徴 ~新しい「自分と社会」「自分と組織」の関係づくりを支える、バンドのベース的な美しさ~

では、パルシステムというサービスの特徴は、どんなところにあるのでしょうか?
ここでは、サービスデザインの教科書(武山.2017)から、サービスデザインの6つの特徴のキーワードをベースに、「①パルシステムを生活の一部にする」段階でのパルシステムのサービスの特徴を捉えていきます。

【①サービスの文脈】
・新しい「生活」を組み立てていきたい意思がある文脈

【②サービスの期待成果】
・食を通じて、社会と自分のつながりを感じられること
・食を通じて、自分の自由を支え、家族の新しい生活の習慣を構築できること

【③サービスの共創戦略】
・負担系滅:米や野菜等の重いものを買って運ぶ手間
・新しい活動の機会付与:食べたことがない野菜で料理し、家族と楽しむこと

【④サービスの共創体験】
・支障なく流れる体験に必要なこと:
セキュリティ対策としてのボックス、シール、商品カバー、おいしい食材、必ず1週間に1回届くカタログ

・体験のピーク:
料理するときのワクワク感、家族と「おいしい」をシェアして楽しめること

・体験のエンド:
頼んだ食材がなくなってきたとき、引っ越しなど環境が大きく変わり契約形態を見直すとき

【⑤サービスの舞台裏】
・フロントステージ:
商品受け取りの配達員、カタログ、商品の中に入っている商品の解説
・バックステージ:配達トラック、配達センター、物流を支える組織、生産者

【⑥サービスの生態系】
・持続可能な生産と消費を実現できる「ライフスタイル」と「ライフスタイルを支える食の物流モデル」の構築

こうやってふりかえると。

新しい生活をつくるときは、新しく社会と自分の接点をつくりなおす時期でもあり、精神的にも肉体的にも大変な時期でもあります。
私の場合は結婚という事象でしたが、出産や家族が増えるというタイミングもあるし、家族の成長、もしかしたら離別というシーンもあるかもしれません。

そうした新しく社会と自分の接点をつくりなおす時期には、人間はとても揺らぎます。
気持ちも、そして身体も。ポジティブにも、時にネガティブにも。
そんな揺らぎの中で、「自分と社会」「自分と組織(主に家庭)」を機能的にも、情緒的にもつないでくれる(パルシステムのような)サービスは、新しい挑戦をする身体や気持ちをつくる基盤となってくれるのではないかな、と感じています。

例えるなら、即興演奏のバンドにおけるベース的な美しさ
バンドのすべての揺らぎをうけとめて、後方からリズムをつくりだし、音楽を観客に届けていく土台となる役割です。

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(多様な個性やリズム、前へいく動きも、時にぐだぐだも、すべて受けとめて、リズムと美しさをつくりだすバンドのベース。すごいと思う。)



4:新しい「自分と社会」「自分と組織」の関係づくりを支えるために、必要な「つながり方」

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さてさて。新しい「自分と社会」「自分と組織」の関係づくりを支えるためには、大事なつながり方があるとも気づきました。

・変化する日常の中で、定期的に接点を持てること
→例:定期的(1週間に1回)の商品とカタログの配達

・ビジョン、ミッションが存在して、それが投影されたものがあること
→例:パルシステムは、ずっと生産者や環境に配慮した、エシカルな消費を掲げてきていました。カタログ内での生産と環境保護についての説明、webサイトでの掲載等。

・これからおきる変化を全ては読み切れないけど、変化に応じた商品をいつでも選べる自由があると感じられること
→例:カタログの種類を選べること、オンラインのみでも購入できるものがあること。里芋、生もかうことができるし、冷凍での皮をむいてゆでた状態も選ぶことができるなど。

・「人」がタッチポイントの向こう側にいる温度感が感じられること
→例:カタログに記載されている生産者の声や、グリーンボックスや野菜についている名前

特に、パルシステムで素敵だと思うのは「情緒的価値」と、「機能的価値」のバランスをとりやすい「つながり方」を持っている点です。

例えば、里芋について。
日曜日、時間があるときに、里芋の皮をむいて料理しておこうと思い立ちます。里芋を見て、「佐原の〇山さんが作ったものなのかあ」と、気づきます。

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里芋は、洗って、皮をむく工程がとてもめんどくさいです。
しかも肌がかゆくなる。料理好きな私でも、あまり楽しい作業ではありません。

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でも、作ってくれた人の顔をふと思うと、なんか、土を落とすところから楽しい気持ちになるのです。
土を落として、端を切って、レンジで軽くチンして皮をむきやすくして、じっくり皮を包丁でむく。そうした手間をかける時間を全体を、なんだかいっそう、楽しくすごすことができるのです。

そうして手間をかけた時間を過ごした後、おいしい里芋料理を食べると、「あーおいしー、つくってよかったなー」と思います。
生の里芋という食べ物は、実は、料理の手間がかかる分、ずっと情緒的価値が高いタッチポイントなのかもしれません。

他方、冷凍の里芋も大好きです。そのまま味噌汁につっこめばすぐにおいしい里芋汁完成!煮物もすぐできる!ってやっぱり便利だもの。帰宅して10分で飯をたべたいときには大活躍の機能的価値をもっています。
冷凍だけども、コープの商品なので、安心して食べることができます。

さといも

どっちか片方だけだと息苦しいけど、自分にあった好きなバランスを、自分で好きな時にとることができる。そうした提供方法は、やはり美しいなと思うのです。

また、定期的な接点があることで、自然と生活にリズムが生まれてきます。
そうしたリズム感があるというのも、生活を新しくつくっていく際に、ひとつの欠かせない動きとなるのだと考えています。

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こんなかんじで、今度は「パルシステム ②毎日の生活にパルシステムを活かす」についても書いていきます。
「美しさ」の言語化って、大変ですね。日常で、何気なくひそんでいるものならなおさら。
でも、こうした体験というストーリーの中から、美しさをひとつずつ、丁寧に観察して発見していきたいなーと思うのでした!

▼今度書こうと思っているサービス
・パルシステム②
・クックパッドマート
・里親猫カフェと動物病院
・不妊治療病院(合計150万以上使ってるよ!)
・コーヒーカップを選んでコーヒーを飲める喫茶店
・パーソナルトレーニング

▼書くスタンス
・サービスから美しさを見出す書き物で、私が使ってみて心にとまったものをかいていくので、基本的にはポジティブです。
・いち顧客としての主観的な美しさをかいていくので、基本は全力で主観です。具体的な課題や改善策をかくというものではありません。
・こうした美しさを見定める目線が、サービスをつくるときの要件の議論にいかしていきたいなーと思うのです。

▼この記事を書くのに参考にした本
プロのUXリサーチャー,サービスデザイナーを目指す方におすすめな2冊。







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