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【新小説】靄が晴れるその日まで②

人は一人一人の世界観でこの世界を観ている。私もその一人である。この物語は他者の世界観を不思議な力で感じとれるようになった主人公の正田 観月(しょうだ みづき)の物語。

人の物心がつく年齢は、3歳ぐらいから始まるらしい。物心とは、世の中のことや人の感情を理解する心のことだ。

私はちょうど、その時期に初めての母親の顔に靄のようなものが見える不思議な体験をした。

その日から、少しだけ私の観える世界が変わった。

「おはよう!」

日向先生が、バスのドアから降りて太陽のような笑顔で挨拶してきた。

「おはようございます!」

私も笑顔で挨拶を返している。そんな陽気な朝から始まり、いつも通り保育園のバスに乗って通学した。

保育園に着くと、いろんな保育園の先生が出迎えてくれる。あれ?一人だけ顔に靄がかかっているのが見えた。

昨日、私が見た母親と同じ靄だった。

私はその先生に話しかけてみた。

「影山先生、おはようございます!」

影山先生は笑うピエロの仮面のような笑顔で、挨拶を返してくれた。

「おはよう、観月ちゃん」

そのときの私は、少しいつもと違うことを気にも止めず、影山先生と会話を続けた。でも、靄がかかっていることは確かだった。

「先生、今日なんか変じゃない?」

子どもは正直になんでも言ってしまう。すると影山先生は一瞬、名探偵に真相を当てられた犯人のように驚いた表情を見せた。

「観月ちゃん、すごいな〜。なんでわかったの?実は昨日あんまり寝れなくて寝不足なんだよね。」

と仮面を被った笑顔で応えていた。私は子どもなりにも、それは嘘だと直感していた。

私は、何か特別な靄が見えることを実感してきていた。

つづく

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