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有閑少女の展覧会

8月のある日、ライターの鈴木のもとに封筒が届いた。
差出人の名前は書かれていない。
封筒には蜜蝋で封がしてあり、手で持つと少し重量がある。
軽く振ると、中からは金属が触れ合うような音がした。
こういう凝った真似をする知り合いは1人しかいない。

3年前、上司から紹介された洋館の少女だ。
明らかに年下なのだが、自分のことを「ユーさん」と呼ぶことを強要している。
莫大な資産を元手に上質なネタをくれるが、可愛げのない性格をしている。

意を決して、鈴木は封をカッターナイフで剥がした。
床の上にコロコロと金属が転がる。
封筒の中には金・銀・銅の色違いの硬貨が3枚、それと手紙が一枚入っていた。
手紙にはQRコードが印刷されており、「スキャンしてね!」という言葉が添えられている。
メールでリンクを貼ってくれれば済む話なのだが、敢えての趣向なのだろう。
ため息を吐きながら、スマフォでQRコードを読み取る。

「21世紀・近代アート展」と書かれたホームページに飛ばされた。
毒々しい色をした文字が画面いっぱいに広がっている。
常人ではまず選ばない配色センスだ。
無駄に凝ったトップ画面をスクロールすると「プレオープンのご案内」と書いてある。
どうやら、関係者へ向けた招待状らしい。
あえて案内を出すということは、ユーさんも作品も出しているのかもしれない。
カネとヒマを持て余した少女は、どのような作品を作るだろうか。
鈴木は自分の中から好奇心が湧くのを感じた。
すぐに氏名・生年月日の欄に記入し、参加ボタンをタップする。
お盆で帰省の予定だったが、優先順位は変更だ。
ライターである以上、知的好奇心を眠らせてはならない。

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