爆発侍 尾之壱・爆発刀 三七

 それは、驚きであり、屈辱であり、嫌悪であり、恐怖であり、そしてそれら全てを乗り越え、塗りつぶす程の強烈な怒りの衝動であった。

 爆発する憤怒が、口蓋から言葉にならない絶叫を迸らせる。

 おのれ。人間め。
 おのれ。武士め。
 おのれ。源氏め。
 おのれ。
 おのれ。
 おのれ。
 おのれ。
 おのれ。
 全周囲から襲い来る刀と槍の襲撃を、金切り音を上げながら残りの主脚で迎え撃つ。

 それが全て鋼の煌めきに弾き返される。
 己が人間に滅ぼされる。
 己が。
 たかが、人間に。
 その屈辱が、鋼の斬突という実感となって、全身を刺し貫こうとする。

 その瞬間。

 この場を、名状しがたき妖気が支配した。

 周りの人間共も、その異様さに気づいたらしい。一斉にそちらを見上げた。
 自らも顔を上げ、思わず呆然と見上げる。
 その一点に、それはいた。
 
 九つの尾を優雅になびかせた、金色の大狐。
 
 あれは、あれは、確か――、
 その名が脳裏に浮かびかかったその時、九尾の大狐から発せられた尋常ではない妖気の衝撃波が、周りの人間を木っ端のように吹き飛ばした。
 そして、それは踏み留まろうとする己の七本の脚をも浮き上がらせる。
 最後に見上げるその先で、真紅に輝く大狐の眼が――。
 
 大狐の眼が――。
 
 眼が――。
 
「宮部殿」
 襖の向こうからかけられる声に、宮部伊三郎の意識は現実に引き戻された。

 どうやら、眠っていたようだ。

 土蜘蛛としての本体に比べ、人間の身体は、その姿でいるだけで妖力が常に消費される。

 封妖石の力を借りれば化身を維持する事に問題は無いものの、妖力の消耗によって蓄積される疲労を「定期的に眠る」事で解消する必要が生じてしまった。

 一日に一度、一定時間眠る。それそのものは人としては、「当たり前」であり、むしろ睡眠は宮部自身が怪妖である事を悟られない為に役立ってはいるものの、本来眠る必要の無い怪妖の土蜘蛛にとっては、「時間の無駄」以外のなにものでも無い。

 それに加えて……夢、とか言ったか。

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剣の道一本で生きてきた浪人が、ある日助けた女が九尾の狐だった。 九尾の狐は奪われてしまった尾を奪還するため、最後に残った尾を一振りの刀に変…

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