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工業製品から"形態素"を精製する。 ―製造過程で付与された形質に着目した廃棄物の再生について―

明け方の街を歩いている。見渡す限りが、誰かによって寸法を決められたものばかりだ。この景色の中で一番古いものはどれだろうか。せいぜい50年前の住宅の壁なのであれば、そのくらいの年数で目の前にあるものすべてが廃棄されていることになる。粗大ごみ置き場に、3つの植木鉢が捨てられている。量産品であろう古びた素焼きの鉢の寸法はきれいに揃っていて、3段に積み重ねられている。

工業化社会において、自然環境から採取された天然資源は、精製されることで均質な素材となる。この素材に寸法を与え、加工することで製品がかたち作られている。製品は、大量生産され消費される。消費された製品は廃棄されたり再資源化されたりする。

廃棄されるとき、製品は製造の過程で付与されてきた機能、属性を、砕く、燃やすなどして取り除き、出来る限り自然環境と同化できるように処理される。
ここで、理想的な廃棄とは、製品を元の自然に還すことである。しかしながら、工業が付与した属性は完全には取り除かれず、時に予期せず環境問題を引き起こす。(マイクロプラスチック、公害病etc..)

再資源化では、製品は天然資源と同等の資源を取り出せる部分ごとに分解され素材となる。
ここで、理想的な再資源化とは、製品を原料となった素材の段階まで戻すことである。しかし、製品化の過程で付与された属性―例えば、紙に印刷されたインクや樹脂に混ぜられた機能性向上のための薬品―を完全に取り除くことは困難であり、製品は元の素材には戻らない。

再製造(リマニュファクチャリング)という方法もある。再製造では、製品は部品のレベルまで分解され、洗浄、補修された後、また同じ製品に組み立てられる。
理想的な再製造とは、製品を定められた部品にまで何度でも戻せるようにすることである。しかし、設計は変更されるものである。新製品でもその部品を使いたいとは限らず、部品の汎用性には限界がある。

廃棄物をどこまで分解すれば、循環に乗せられるのかと言う観点から整理するのであれば、要となるのは廃棄物自身の素材力である。製品を再素材化するのがリサイクルで、製品を再部品化するのがリマニュファクチャリングだとしたら、製品化されることによって生まれた元の素材や部品にはない形質を素材的、部品的に利用するという方法がある。例えば量産された500mlペットボトルの同一径の胴、JIS B 1180の六角ボルトのねじ山、標準化された鉄骨造のコンビニ店舗のフレーム。私はこの廃棄物に潜む均質な形質を"形態素"と名付けたい。この均質さは、工業規格から生まれる。自然が作り出したテクスチャと、人間が作り出した幾何学を単語と文法にして大量に作られた製品という文章には、あらたな言葉を紡ぐための形態素が眠っている。

自然環境から採取した原料を素材に精製する過程のように、大量廃棄された同種の製品群から、原料とは異なる属性を残すように新たな精製を行う。近年盛んに作られているアップサイクル品は、形態素化と言う過程を経て新たな製品に生まれ変わったものということになる。
理想的な形態素化とは、製品を新たな資源に読み替えることである。形態素化は、大量生産・大量消費社会が生み出した量産品の群れを、再び狩猟し、皮を剥ぎ、鞣すことで、物質とかたちを多様化の方向へと開いていく。形態素は人新世が作り出した天然資源である。


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