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【読書感想】容疑者Xの献身/人は誰でも、誰かを愛したくて生きている

容疑者Xの献身/東野圭吾

 

<著者紹介>2023年現在、「好きな作家ランキング」9年連続1位を更新中。

本作は、第134回直木賞受賞作品の本格ミステリー。
日本国内だけでなく、海外でも映画化されている人気作品。

有名な作品ですが、まだ読んでいない方のために、なるべく「ネタバレなし」で書いてみます。

 ※この記事は約4500文字、だいたい9分で読めます。


〇率直な感想

この記事は、読み終えた直後に書いている。そのため、頭の中で考えがまとまっていない。
それでも、まずは書いてみようと思わせる、強烈なインパクトを感じたことだけは間違いない。

何と言ったらいいのか。
特に、ラストの数ページ……。

たぶん作者は、ここが書きたくて300ページ以上、書いてきたのだな。
そう感じさせる、怒涛の展開。

感情が追いつかず、「え!ちょ、待ってよ!」と思いながらもページをめくる手が止まらない。
気持ちは高ぶっているのに、頭の中は意外と冷静。

内容を理解しようと夢中で文字を追いかける。
まるで、ジェットコースターに振り落とされまいと必死にしがみついているように。

気がついたら全身に力が入っていた。

「本当に、これで、よかったのか……」

読み終えた直後の正直な感想は、これだった。

 

 

〇結末に賛否両論

この結末には、賛否両論、二手に分かれると思う。

ひとつは、トリックについて。

「こんなトリックを思いつくなんて!」という、
読者の思考の枠をはるかに超える、ぶっ飛んだトリックに対する感嘆。
実際の事件ではなく、あくまで「エンタメ」としてみれば、「実に面白いトリック」だ。

しかし、それと同時に、
「いくらそれを思いついたからって、本当にそれをやるのか?」という
「容疑者」に対する嫌悪感も湧いてくる。

 

もうひとつは、容疑者Xの「献身」をどうとらえるか。

この本のタイトルは、はじめ、「容疑者X」として雑誌に掲載された。
後に書籍として発売するときに「容疑者Xの献身」と「献身」をつけ加えて発売されることになった。

なぜ「献身」が付け加えられたのか。

それは、「容疑者」がやったことは献身、つまり「愛」であると言いたかったのではないか。

しかし残念ながら、最初わたしには、「愛」というより「我欲」のような気がしてならなかった。

彼が愛していたのは「数学」と「花岡母娘」だけである。
その両方を永遠に自分のものにできるたった一つの方法が、彼が考え出したトリックだった。

そう考えたからだ。

 

 

〇石神哲哉

「感情の問題ではない。殺人によって苦痛から逃れようとするのは合理的ではないからだ。(略)石神はそんな愚かなことはしない。逆に、論理的でありさえすれば、どんな残酷なことでも成し遂げられる人間だ

<引用>※太字は筆者

「論理的」で「合理的」。
天才的な数学者である彼の思考は、一貫している。

ホームレス男性の命に、思いを馳せる。
教え子たちの心のダメージを、思いやる。
そんなことはしない。

あのような残酷なトリックを実行するには、
多少は思い悩んだり、気持ちが揺れ動いたりするものなんだろうけど、
そのような描写は、一切ない。
そこをあえて描かないことで、彼の「人間性」を際立たせている。

「目的」のためには「手段」を択ばない彼を
「天才」ととるか、「冷徹な人間」ととるかは、人それぞれでいい。

うおううおううおうーーー
獣の咆哮(ほうこう)のような叫び声を彼はあげた。絶望と混乱の入り混じった悲鳴でもあった。

<引用>

彼はきっと、彼なりに花岡靖子を愛していたのだろう。
何の見返りも求めず、ただ彼女に幸せになってもらいたかった。
それだけだったのだろう。

それなのに、
彼女はそれを受け取らなかった。受け取ってもらえなかった。
そう感じたから、石神は混乱し、絶望したのだ。

物語のラストで、彼は初めて人間らしい感情を表してくれた。

やっと人間性を取り戻したのだと思った。

 

 

〇花岡靖子

中学生の娘を育てながら、お弁当屋さんで働いている。
決して裕福ではないが、娘の幸せを願い、日々一生懸命生きている。
そんな、どこにでもいそうな、ふつうの女性。

前半は、弱くはかない部分が強調されていて、
清く正しく美しい……だけの女性かと思っていた。
正直、少しばかり女性を母親を、美化しすぎじゃないか、とすら感じていた。
それが、物語が進むにつれて、彼女のしたたかな一面が徐々に出てくる。

 

彼は自分のことをどうするつもりなのだろう、と靖子は不安になった。(略)今後は彼女の生活を支配するつもりなのだろうか。彼女がほかの男性と結婚することはおろか、付き合うことさえも許さないということか。

<引用>

ウソいつわりのない、彼女の正直な本音だろう。

がっかりしたのではない。むしろその逆だ。
人間味が感じられ、かえって好感を持った。

人は誰でも、弱い部分、ズルい考えをもっている。

彼女だって、母親である前に一人の女性である。
精神的に、経済的に、
誰かに頼りたいと思ってしまっても、誰も責めることはできないと思う。

だからこそ、最後の最後で彼女がとった行動には心を動かされた。

彼女は、清く正しく美しいだけのお人形さんではない。
ズルくて弱くて打算的な部分もあわせ持つ、ひとりの血の通った生身の人間なのだ。
自分の心にウソをつかず、正しくあろうとする彼女のまっすぐな決断は、
石神の固く閉ざされた心を解きほぐしたに違いない。
そう思っている。

 

 

〇現代日本の貧困パターン

石神は学生時代、湯川と並び称される“天才”と言われた「数学者」だった。
将来を期待されていたにもかかわらず、いつのまにか大学を去ったのは、
高齢で持病がある両親の面倒を見なければならなくなったからだ。
その後は、私立高校で数学教師として教壇に立つことになる。
生きていくために、仕方なく選んだ教職だ。

あまり成績が良くなく、勉強にも熱心でない生徒たちを前に、
石神の熱意もしだいに冷めていく。

人生を悲観し、生きていくことに区切りをつけようとしたとき、

目の前に現れたのが「花岡靖子」だった。

その花岡靖子も、女性の典型的な貧困にあてはまる。

職業経験が乏しいまま結婚、出産し、離婚によって貧困になるケースだ。

優秀な研究者に見合ったポストがない“ポスドク問題”
親の介護がきっかけの“介護離職問題”
離婚で経済的に困窮する“ひとり親家庭問題”

現代日本の日の当たりにくいところに落ちてしまったふたり。

そんなふたりが、都会の片隅の、安いアパートの隣人として出会ってしまったのは、
もしかしたら必然だったのかもしれない。

 

 

〇希望は絶望の中から生まれる

物語の結末には、明るい未来を予感させる「「ハッピーエンド」と、
その逆の「アンハッピーエンド」。

さらに絶望や不安を感じる「バッドエンド」がある。
この物語は、どれに当たるのだろう。

読み終えてすぐのときは、なんだか救いのない終わり方だなと思った。

登場人物が誰ひとり、幸せにならない結末だと思ったからだ。

 

しばらくして、別の考えが浮かんだ。
「本当に救いのない結末なのか」と。

確かに、物語の上っ面だけ掬い取ると、救いがない話にしか思えない。

石神は、何の希望もない人生を終わらせる代わりに、
人生をかけた一か八かの大勝負に打って出た、と考えれば、
彼は大博打に勝ったのだ。

それなのに、花岡靖子の行動ですべてが台無しになってしまった。

なぜだ!
なぜわかってくれない!!
自分の思いは届かなかったのか!

怒り。悲しみ。絶望…。

……しかし。

石神が生涯でただひとり愛した女性。花岡靖子。

彼女が、

「ラッキー!これであたしは晴れて自由の身♪」

と、
真相を知りながら、なんの罪悪感も覚えず、のほほんと残りの人生を生きていく。

そんなこと、できるわけがない。
それは、当の石神自身がいちばんわかっていたはずだ。

そんなことができない人だからこそ、
どんなことをしてでも守らなければならないと思ったのだから。

 

花岡靖子が、人としてまっとうな生き方を選んだこと。
石神哲哉が、人間らしい感情を取り戻したこと。

本当の希望は、絶望の中にある。
とんでもないバッドエンドに思えた結末。
わたしは、「小さく か細い、希望の光」を見たような気がした。

 

※※※※※

 

結局、石神の計算通りにはいかなかった。

それでよかった。

完璧だと思われた計画の、唯一にして最大のミスは、
この計画を思いついたのが「天才数学者 石神哲哉」だったからかもしれない。

 

 

〇愛さなくていいから…

わざわざ紹介するまでもないことだけど、
この作品は2008年に映画化されている。

この時の映画の主題歌「最愛」のサビの部分の歌詞。

「愛さなくていいから…」

石神も靖子も、
自分が愛されたいとは思っていなかった。

愛する人を、守りたい。

それだけ。
ただそれだけ。

タイトルに込められた「献身」の二文字の重さを
しみじみとかみしめた。

 

 

 

 

容疑者Xの献身/東野圭吾

 

 

生きづらさを解消し
本来の自分を取り戻すためには、

1)なによりもまず自分を深く理解すること。
2)自分を理解するために、他人の人生を知ること。

この両方が必要不可欠なのではないのでしょうか。

生きづらさを解消するために、
もっと他人の人生を知ってください。

「経験」「気づき」「考え」「学び」「生き方」

ほかの人の人生から学べることは、
思った以上にたくさんあります。

「コンプレックス」「黒歴史」「恥ずかしいこと」「失敗談」

みんな抱えて生きています。

そんな素振りを見せないで、平気な顔をしているから
わからないだけ。知らないだけ。

傷つくことが怖くて、人と深く関わってこなかった人こそ、
他人の人生を知ってもらいたい。

わたしの人生にも同じようなことあったかも。
似たような境遇なのに、どうやって乗り越えたんだろう。

対話するように本を読む。
自分事として本を読む。

わたしたちは、もっと人生を楽しんでいいんです!!

 

 

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ひとりでも多くの人が「 生きづらさ 」の原因に気づき、
自分の人生を歩き出すきっかけになってくれれば いいなぁと思い、
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