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優しいハロウィン

早いもので、気がつけば10月も最終日。待ちに待ったハロウィン当日ですね。

実を言うと、今までハロウィンに関するイベントはほとんどスルーして生きてきました。理由は簡単。怖いから。何がって?ハロウィンそのものが。

一般的にハロウィンと言うと、仮装した子供たちが「トリックオアトリート!」と家々を回ってお菓子をもらうイメージが主流かと思います。でも、私のハロウィンに対するイメージはちょっと違ってて。何と言うか...言葉を選ばないなら、何だか不気味なイメージがありました。

そのイメージの原点になったのが、幼い頃に見たハロウィンの置き物。当時うちの近所にイベント好きな家があり、お正月やクリスマスなどイベント毎にちょっとした置き物を庭先に飾っていました。季節毎に変わる置き物が楽しくて、それをチェックするのが幼い私の密かな楽しみ。でも、その年のハロウィンは今までとちょっと趣向が違いました。

ある秋の日の朝、その家の前を通りかかると庭先でおばさんが何か作業をしていました。覗いてみると、それまで飾ってた可愛らしい兎の置き物を片付けてる真っ最中。

「また新しい置き物を飾るのかな?」

その年の秋はお月見をイメージした飾り付けで、可愛い兎の置き物とススキで愛らしいレイアウトとなっていました。

「次はどんな飾り付けなんだろう?」

考えると、ワクワクが止まりませんでした。今度もまた、可愛いのだったらいいな。

「そうだ!帰りにもう一度、この道を通ろう。そしたら、新しい飾り付けを見れるかもしれない。」

楽しみができた私は、軽い足取りで学校へ向かったのでした。

そして待ちに待った帰り道。その家の前を通ってみて驚きました。夕方の薄暗い庭先に飾られているジャックランタンは良いとして、問題はその隣。そこに居たのは妙にリアルな死神の置き物でした。

全身を覆う黒いマントに、ムンクみたいな仮面。手には鎌。まさに死神。時間帯も悪く、仄暗い闇の中で静かに佇む死神は何とも言えない不気味な雰囲気に包まれていました。

「怖い...!」

そう感じた瞬間、私は駆け出していました。少しでも死神から離れようと必死の全力疾走。そうしないと、死神にどこかへ連れて行かれそうな気がしたから。

家に帰っても動悸はなかなか治まらず。暗闇に浮かぶ、黒い死神。子供心に薄ら寒い気持ちになったのを覚えています。その日からずっと、ハロウィンに対して不気味なイメージを抱いてきました。

そんなハロウィンへのイメージが変わったのは、大人になってから。きっかけは、友人からのちょっとした提案でした。

「ねぇ。もう少しでハロウィンだし、仮装パーティーをしようよ。みんなでお菓子を持ち寄ってさ。」

ハロウィンへの不気味なイメージを払拭できていなかった私は、正直この提案を聞いた時ゲンナリしてしまいました。

「なんてことを提案してくれたんだ...。」

そんな私をよそに、盛り上がる友人たち。かくして、ハロウィンの仮装パーティーが催されることになったのでした。

そうして迎えたパーティー当日。重い足取りで友人宅へ向かうと、そこにはすでに仮装をした友人たちの姿がありました。仮装と言っても、そんな大層なものじゃありません。せいぜい悪魔の耳飾りをつけたり魔女の帽子を被る程度の、簡単お手軽なものばかり。

「はい!じゃあこれ着てね!」

と友人からの手渡されたのは、フード付きの黒いマント。

「よりによって死神かぁ...。」

と内心思ってみたり。後から聞くと、その衣装は友人曰く「魔法使い」のコスチュームだったらしい。だけど、その時の私にはどこからどう見ても死神のコスチュームにしか見えませんでした。

言われるがままマントを羽織る私。今まで仮装なんかした事がない上、よりによって死神の衣装(と思い込んでる)。幼い頃の記憶が蘇ってくるようで、内心ドキドキが止まりませんでした。

仮装ができたら、みんなで持ち寄ったお菓子をテーブルに広げて。友人の遊び心でちょっとしたハロウィンの置き物も所々に設置。と、ここである事に気がつきました。

「あれ?ハロウィンの置き物ってこんなに可愛かったっけ?」

そう、置き物が可愛かったのです。しかも、とてつもなく。

それまで私の中でハロウィンと言えば、幼い頃に見た薄暗闇の中で静かに佇む死神のような。何とも言えない不気味なイメージ。でも、目の前にある置き物たちにはそんな不気味さが一切ありませんでした。むしろ可愛さ満点。

魔女の帽子を被った黒猫はとっても可愛らしいし、ジャックランタンの表情にはどこか愛嬌がある。何より彩りが鮮やかで、そこにはあるのは愛らしさのみ。

しかし、可愛いのは置き物だけじゃありませんでした。かぼちゃのプリンにジャックランタン型のクッキー。可愛い形のスイートポテトたち。市販のお菓子も定番のものから期間限定のものまで、これら全てがハロウィン仕様で統一されていました。

初めて参加したハロウィンパーティー。それは私にとって、とても不思議な時間でした。みんなで簡単な仮装をして、いつもとは少し違った雰囲気を楽しむ。それは今まで経験したことがない不思議な、だけど心の底から楽しいと思える素敵な時間でした。

「なんだ。ハロウィンって不気味なイベントじゃなかったんだ。」

パーティーが終わる頃には、そう思えるようにまでなっていました。それまでずっと倦厭してきたのが嘘のよう。いつの間にか私の中でハロウィンは不気味な存在から楽しいイベントへと姿を変えていました。

それから数日後。ハロウィンパーティーを主催してくれた友人に改めてお礼を言う機会を持つことが出来ました。

「この前はありがとう。仮装してのハロウィンパーティー、楽しかった。」

私がそう言うと、友人はいたずらっ子のようにニヤニヤと笑い出しました。何事かと思っていると、友人が一言。

「ハロウィン嫌いは克服できた?」

その言葉を聞いて、私は驚きました。何で私がハロウィンが苦手だったのを知ってるんだろう?

話を聞くと、どうやら以前自分からハロウィンが苦手だと話してたみたいです。私自身は全く覚えていなかったけど...。

「ハロウィンが苦手って、何だか勿体ないと思ってたんだよね。で、せっかくなら楽しい思い出で上書きしちゃえば良いかなーと思ってさ。」

そう言うと友人は「作戦成功!」と言って楽しそうに笑ってました。私はと言うと、驚きの余り呆然。ただの気まぐれかと思っていたのに、まさか仕組まれていたなんて...。

でも、それ以上に嬉しかった。私ですらも忘れていた些細な会話をずっと覚えていてくれたこと。さらには私のハロウィンに対する不気味なイメージを、素敵な思い出で上書きしてくれたこと。その全てが狂おしいほどに嬉しかった。

あの日から、私にとってハロウィンは特別な存在になりました。張り切って何かをするわけじゃない。けど、その時期が近づくと目につく場所にジャックランタンの置き物を飾るようになりました。愛嬌のある顔。その表情を見ていると、あの日私にハロウィンの楽しさを教えてくれた彼女の笑顔を思い出します。

私のことを少しでも気にかけてくれる人がいる。そう思うだけで、何だか頑張れる気がする。

私にとってハロウィンは不気味な存在で、それまでずっと目を背けてきました。でも今はハロウィンが近づくとふんわり心が温かくなります。それはあの日、彼女がハロウィンの優しさを教えてくれたから。

今年もまた、ジャックランタンの置き物を飾っています。愛嬌のある顔。その表情に彼女の面影を重ねつつ、温かい気持ちで今年もハロウィンを迎えたいと思います。


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こちらの企画に参加させていただきました。

あおはるさん、ハロウィン仕様の楽しい企画をありがとうございました。


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