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バーチャル世界で美少女に受肉したい ――バーチャルな肉体での学習と癒し

■はじめに

 本稿は「バーチャル世界で美少女に受肉したい(バ美肉)」サークルメンバーの島人と、同じサークルのとりの対談を収録したものです。
 多くの人にとっては、バ美肉というよりは、キズナアイをはじめとしたVtuberの方がなじみがあるかも知れません。バ美肉はVtuberの用に動画を投稿しなくてもなりえるもので、Vtuberより広い範囲を指します。VRのチャットなども盛んになっています。
 「受肉する」というのは宗教用語ですが、「バ美肉」は特定の宗教に結びつけられた言葉ではありません。しかし、バーチャル世界での「肉体」とリアル側の自身の「魂」を分けて考えるとき、どこかしら神秘主義的な要素を感じるのかも知れません。
 バ美肉にはキャラクターの描写として2Dと3Dのものがあります。様々な事柄で話題になっているキズナアイは3Dです。3Dのキャラクターは3DCGとして作成されたものを、モーションキャプターなどの技術を使って動かします。2DのキャラクターLive2Dというソフトがよく使われます。Live2Dはレイヤー分けされたイラストに動きを付けるもので、ゲームなどでよく使われています。表情を読み取るFaceRigというソフトを組み合わせる事によってキャラクターの表情と使用者の表情をシンクロさせることができます。3Dモデルとモーションキャプチャーより、2Dイラストと表情読み取りの方が段違いで敷居が低くなっています。
 バ美肉でキャラクターと共に重要なのがボイスチェンジャーです。ソフトウェアで音声を加工する場合、ハードウェアで音声を加工する場合、その双方を利用する場合があります。チコちゃんに叱られる!のチコちゃんが男性の声をボイスチェンジャーで加工した声です。フリーソフトで有名なのは「恋声」というもので、操作自体の難しさがあまり無いものの、自分の声にあった設定を探るのと、うまく変換される声を出す工夫に難しさがあるように思います。
 本稿の執筆時、島人(男性)はFaceRigとボイスチェンジャーを使って簡単なゲーム実況動画を作るところまで「バ美肉」を進めています。なお、Live2Dで動かすオリジナルキャラクターを知人に頼み描いて貰い、技術的な面が安定次第動かしていこうという段階です。

note有料記事化においての追記

この記事は2019/10/20に開催された文学フリマ福岡で頒布開始された同人誌「バーチャル世界で美少女に受肉したい バーチャルな肉体での学習と癒し」のnote有料記事版です。
同人誌版と有料記事版の大きな違いは、紙の本かweb上の記事かといった明確な違いの他、note版は注釈が入っていません。
また、同人誌版は「藍月あんこという“私”」がうまれる前に書かれたものです。ご存じの読者も多いとは思いますが「私」である「藍月あんこ」は現在、VRChatを主に活動(?)生息(?)をしています。実際にVRChatをやってみてはじめてわかった事もたくさんあるのですが、VRChatを触れる直前になにを考えていたのかが出ているのはもちろん、自己の推論として語っている部分がかなり的中しています。
本記事は「私」のバ美肉について語っているもので、「こうあるべきだ」ではありません。「『藍月あんこ』はこういう考えなんだ」という一例として読んで頂ければと思います。そして、共感してもらえる部分もあるかもしれません。

■バ美肉と義体への憧れ

とり:バ美肉についてですが、どこが一番のポイントなのかなあ、と。割と語れられてることが多岐に渡ってる感じがあるのですよ。
島人:うちのサークルの評論でやりたいなと思ったのが、なぜ、美少女になりたがるのかと、「バーチャルな美少女」って、リアルの「性別:女性」とは別概念なんじゃないかなと。
とり:それは、受肉している男性にとって、ということです?
島人:受肉先の肉体が、謎性別というか、架空の女性というか……。
とり:岡田育さんのお話とかだと、なぜ美少女なのか、というお話は、見る側の欲望から出てきているお話ですが、受肉する側にとっては、ちょっと違う、みたいな? 見ている人にとっても女性ではないって話になると、ちょっと扱いが難しいかなあ、とは思います。とはいえ、言い方的には、見ている側も中の人がオッサンという意識で見ている、みたいなお話です?
島人:データベース論的な記号の集まりとしての「女の子」かなと
とり:あ、気になっているのは、視点の問題かなあ、と。そのお話だと、現実の女性も女性という記号のパターンで女性として認識されている、という論もあり得るのでは?
島人:そこですよね
とり:なので、一旦、どっち側から語るか、かな、と。
島人:「架空の女性性」みたいな話をメイドカフェに勤めているフォロワーさんに話したら、「仕事中そんな感じです」みたいな事も言われました。
とり:うーん。架空の女性性を感じているって人は結構日常的にいるんじゃなかろうかと。この架空の女性性で悩まなくて良いのが男性というカテゴリーな気がするんですよね。それが自分がマイノリティだと思っていない男性にとっても辛いという意味で。マッチョになれよ、ってのに乗れないけれども性で悩めないという抑圧はあり得るのではなかろうかと。言い過ぎかもだけれど、僕らが日常的に性別にまつわることとして語っていることの大半が架空なんじゃなかろうかと思うんですよね。どの架空を選ぶかは自由だけれど、大半の人は架空のものを選んでるっていう実感がないような感じかなあ。
島人:自分自身の問題として、ホモソーシャルに入れなかったり(入らなかったり)、マッチョになりきれなかったり。具体的なひとつとして、年収が平均よりかなり低いってのもありますね。
とり:うーん。前提として、バ美肉はそういう社会の男性に対する抑圧からの解放感があるってところは肯定していきたいってのがあるんですかね? そこなら、なんとなく、今回の趣旨が見えてきた感じがあります。
島人:自己分析的なところがあって、自分は昔から、ロールプレイングゲームのプレイヤーキャラクターに女性キャラを選ぶのが多いんですよ。自分が一番熱心にやっていたMMOである、FF11で女の子のタルタルを選んでました。ネカマか? って聞かれると、ちょっと感覚違って、自分の中でのロールプレイの面白さだったつもりなんですよね。
とり:そこは分からなくもないです。僕自身は全く女性キャラやらないですが。
島人:FF11をやっているときは深く考えていなかったのだけど、森岡正博氏の「感じない男」という本を読んで、「ああ、自分の体を愛せていないのだな」と思い至るようになって。かといって、自分が男性であることについて違和感はないんですよ。性的な対象も女性だし。
とり:男性が自分自身の身体を愛するための方法がマッチョ的な何かに迎合することっていう文脈があって。何かを愛するってのに道筋はないはずなんだけれども、男性が自分自身の身体を肯定するルートはマッチョ道が異様なほど「正しいルート」みたいなところがあって(少なくとも、今よりは昔の方がその手のルートの正当性がキッツかったと思う)、で、そのルートに乗っかれないとキッツいっていうのがある、と。で、キッツい時に救いになったのが、RPGとかだったりした、と。そんな感じでしょうか?
島人:強くなければならないとか、上下関係だったりとか、養える能力とか、そういう物差しが嫌いというか、そういう測られ方するとマイナス値が出ちゃうというか。自分が最初にFF11に求めたのは「ロールプレイングのゲーム」で、まあ、有り体に言えばTRPGなんですよ。
とり:まあ、MMOに求めるのはそれですよね。
島人:TRPGをやっていたのは10代で、その頃は言葉を持ち合わせていなかったけど、「戦闘に勝つだけが勝利条件じゃない」って面が好きだったなと。
とり:そういうことかな、と思うんですよね
島人:初代ドラゴンクエストって、パラメーターガンガン上げていって強くなって、強くなった結果、姫と地位を手に入れるという、ある意味マッチョなんですよ。
とり:男性であるってこととか昔のRPGとかは、いくつかの数値が高いことが良いことで、それらを合成した結果がマッチョであるってことなのかな、と。学校はかなり初代ドラゴンクエスト的だったと思います。
島人:学校はドラクエ系のCRPG的ですね。経験値を稼いでテストの点数を上げていくのが唯一の勝利条件に思わされしまう。
とり:ああ、そんな感じですよ。学校。だから、学校でゲームをやっても意味がないって言われた時にいつも反発してました。
島人:今思いだしたけど、フォーチュンクエストは、あえて、パラメーター的に強くないキャラクターを活躍させていたなぁと。
とり:ああ。そうですね。フォーチュンクエストはそんな感じですね。
島人:いつかとりさんに「パラメーター化する危険性を孕んでいる」みたいな指摘はありましたが。
とり:何についてでしたっけ、そのパラメータ化するってやつ。
島人:たしか、作中で「レベルアップする」って表現が出てきた初期の作品なんですよ。
とり:ああー。そこら辺の怖さがありました。フォーチュンクエスト自体はパラメータ化してしまうことはなくても、フォーチュンクエストをフォローする作品がパラメータ化を肯定することになりかねん、みたいな懸念だと思われます。現実、見てると、パラメータはパラメータ外の要素で勝つための逆説表現として使われてる感じはします。ラノベでは。
島人:ちょっと話が飛躍するんですが、今のラノベ、「オレつえー」系が人気もあったりするけど
とり:オレつえー系ですね。あれ、パラメータとは違うところで戦う感は出してますね。
島人:リゼロとか、このすばとか。
とり:いや、俺つえー系って、基本的には、戦闘パラメータとは違うところで戦う感じがありました。
島人:単純にチート的にパラメーター上げた感じのが多いイメージを持ってました
とり:うーん。評価されてる作品は、パラメータ外のところなのかな、と。戦闘パラメータも高いけど、それ以上に何何が凄い的な感じが売れてるのかなあ、と。
島人:なるほど……。
とり:ただ、よくよく見てみると、それ、戦術パラメータがパラメータ化されてないだけだな、と。マッチョなんですよ笑 なんというか、俺つえー系って、お勉強系マッチョ感がすげえあるんですよ。
島人:魔法科高校の劣等生とか? アニメぐらいしかわからないけど。
とり:あー。いや、概ね、大抵そうかな、と。幼女戦記はコメディなので、そこら辺を笑いどころにしてる感じかな、と。
島人:幼女戦記ってコメディだったんですか? 旧ドイツ軍ノスタルジー&魔法ものってとらえてましたw
とり:戦術的な成功はしてるんだけど、戦略的(安逸な人生を送る)に確実に失敗していくっていう。え?あれ、コメディじゃないんですか?
島人:まあ、笑えるけど…
とり:軍オタで、社会批判意識もあるし、コメディもいけるってすげえな、と思いながら見てました。
島人:幼女にはなりたいけど、ターニャにはなりたくないって思わせる感じはギャグですね
とり:そうなのかあ。あれは、俺つえー系のパロディなんだろうな、と。ひたすら、おじさんにモテているけれども、本人に自覚がない感じとかも含めて。勘違いと考え事からくる難聴スキルもありますし。
島人:ああ、逆ハー的…?
とり:そうですね。まあ、ちょっと話を戻しましょうか。俺つえー系の全てがそうではないですが、一部にはお勉強系マッチョがあるなって感じですね。で、これは、島人さんのお話ともかぶるな、と。学校ってマッチョなんですよ。筋肉マッチョ的なルートとお勉強系マッチョ的なルートが男性にはあるって感じで。
島人:ああ、どっちにもなれなかったですね。なれないどころか、中学時代は落ちこぼれ扱いが普通でした。
とり:これは、さっき島人さんが言ってた「上下関係だったりとか、養える能力とか、そういう物差し」に繋がっているのかな、と。で、マッチョであるってのは今の社会の働き方に適合するってことなのかなあ、と。思うのは、バ美肉やMMOでの女性キャラが癒しなのか、解放なのかってポイントです。
島人:せめて、物語の中では、好きに生きたい。
とり:なるほど。
島人:あるいみ厨二病
とり:もう少し、そこはこだわってみたいです。
島人:理想は女性の体を手に入れて、マッチョやホモソーシャルじゃない所で評価を得たいけど、現実では無理、みたいな。自分自身の男性性に違和感を持ってないのに、女性の体が欲しいというねじれというか矛盾。
とり:義体が一般化してる世界とかならハッピー的な感じです?
島人:かなり理想ですね。素子はマッチョだけどw
とり:まあ笑
島人:テクノロジー的に少しずつ進んでいるんですよね。TRPG→MMO or なりきりチャット→バ美肉

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