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山形左馬編
見送られると体がほかっとする。
一番奥の、真ん中の席に座って、いつもより少しだけ深刻な顔をしてシートベルトをする。
少し先のバス停から、前の社長が乗ってきた。
出発ゲートの、あまりテレビから近くないところで伊藤計劃の映画時評をぬるっと甘読みしていると、背中で煙草と歯磨き粉の匂いが入れ替わり、立ち替わった。
地元の、モリモリした果物を食べてみたかった。
芋煮を頼んで、あけびの天ぷらは初めてだった。
🍉
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ずっと将棋の街に行ってみたかった。
一週間前によっしゃーと思い立ち航空券をおさえた割には、足を使ってよく周れた。
天童市を歩いた。名入れ駒をふたつもオーダーした。届いたらどこに付けるんだろう。
ラメラメした古代文字風駒が愛らしい。撮影禁止だった。
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左の畳の腰掛けがあたたかい。
影が駒の形になっている
雨にも降られた。ほんの少しだけ降られた。
🦵
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天童南駅にまで足をのばして、むらさきのひだりうまを購入すると、それまで彫って塗ってをしていた工場長が車で送ってくれた。
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音楽が要らなかった。
電車の運行する間隔が広い。一両目のボタンを押さなければドアは開かない。無人駅が多く切符を買うことが当たり前だった。1時間以上待合室でまた別の本を読んだ。
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夕飯も要らなかった。
最寄駅からホテルへ、遠く遠くのほうへタクシーでたどり着いた。漫画を手に取り部屋に入ると、しーんと音が鳴っていた。ウェルカムコーヒーを、カフェインを久しぶりにとったことがうれしい。舌は火傷させられなかった。
机の上に置いた『チ。』が唐突におそろしくなってきて、ぶんとテレビをつけると、視聴者参加型のミステリードラマをやっていた。音は消して、目で安心した。
☕️
読んでいる本の対局の描写が、退屈とはほど遠いところにある。上の階の人がものを落とす音に安心しながら、眠気に負けていく。
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