見出し画像

クリスマス・キャロルには遅すぎる #パルプアドベントカレンダー2022


LEVEL 1

 意識を取り戻した広瀬をまず出迎えたのは、磨き上げられた革靴のつま先だった。

「おう、起きたか広瀬」
「田口……」
「久しぶりやな、広瀬、お互い老けたもんやな」

 田口は笑みを浮かべていたが、その目は笑っていなかった。

 広瀬は、自分の状態を確認した。両手両脚を縛られ、冷たいコンクリの床に転がされている。

「俺とお前だけやない、煮懲羅 にこら組も、鮫島の親分もや。俺が二十年ムショにいる間に、みーんな変わってしもうた。……全部見させてもろたで」

 煙草に火をつけながら、田口は転がった広瀬の周りをゆっくりと歩き始めた。獲物に狙いを定める鮫のように。

「シャブもチャカも辞めたらしいやないか。そんなにサツのガサ入れが怖ぁなったんか?」
「……時代が変わったんだよ。今じゃ暴対法で取り締まりが厳しなったし、ガキどもが半グレでシマを荒らし回ってる。海外マフィアの特殊詐欺のせいでカネは外に出る一方だ」
「不甲斐ないなぁ、ホンマに不甲斐ない。これが天下のヤクザもんの末路かいな?」

 ねぶるような歩みを止め、田口は広瀬の顔を覗き込んだ。

「鮫島の親分、昔はギラギラした獣みてえな、おっかない男やったのにな。若い女に溺れて、ガキまでこさえて、すーっかり牙が抜けてしもうた。覚えてるやろ、十八年前、愚零護 ぐれご組の若頭がシャバに戻ってきたときのこと。あいつら、中華料理屋で出所祝いやってたんをな、ミキサー車で突っ込んでな、めちゃくちゃになったあいつらの体の上に生コンおっ被せてな、これが人間のやることかと震え上がったもんや」

 広瀬の身体にも刻み込まれている。愚零護 ぐれご組へのカチコミ。思えば、あの頃の煮懲羅 にこら組は全盛期と呼んで差し支えないほど、人もカネも鮫島の恐ろしさも滾っていた。

「あの後、親分が申し訳なさそうに頭下げて、すまんがムショ入ってくれんか、刑期終えた暁にはカネも地位も用意するって、頼んできてな、俺ァここで断ったら次は自分の番やとちびりそうになってたんやで」

 しかし、煮懲羅 にこら組の暴虐な行いは目に余りすぎた。あの日以降、煮懲羅 にこら組への締め付けは強くなり、カネ回りが滞り始めると傘下の組織も次第に離れてゆき、少しずつ身を削られるようにやせ細っていったのだ。

「ところが、ようやく出られた思たらカネどころか出迎えすらなしや。俺はもうホンマに打ちのめされたで。これが、ヤクザの、やることか?なあ?大概にせえよ、オラァ!」

 上等な革靴のつま先が脇腹にめり込み、広瀬は苦悶の声を上げた。

「……フゥー。まあ、そんなわけで、ムショ出た後探ってみたわけよ。そしたらシャブもチャカも引き上げて、代わりにサンタ・ビジネスやと? いつからや?  いつから俺らは地域の見守り活動するようになったんや?」

 サンタ・ビジネス。煮懲羅 にこら組最古参となった広瀬も、初めに聞いたときは耳を疑った。クリスマスに来日するサンタクロースの代わりに、シマの子どもたちのリストを提供する、もしくはプレゼント配達を代行する。馬鹿馬鹿しい話だ。広瀬もそう思う。思ったのだ。

「クリスマスプレゼントの次はイースターで卵を配るんか? それともハロウィンで仮装でもするんか? 感謝祭ではターキーでも振る舞うか? バカバカしい。本当に、これが、あの鮫島の兄貴がやることなんか? ……ちゃうやろ。パリっとしたスーツ着て、ピカピカの革靴はいて、カネでバカの頬叩いて走らせて、肩で風切って街中を歩く。それが一人前のヤクザの証やったやろ」
「馬鹿が! 今はそんな時代じゃねえっつってんだろ!」
「だったらヤクザなんて舌噛んで死ぬべきやろ! てめえら命惜しさにみっともなく這いつくばってんじゃねぇよ!!」

 田口は声を荒らげて再び広瀬を蹴った。二度、三度、四度。五度目の蹴りが広瀬の顔面に突き刺さり、そこでようやく田口の暴力は止んだ。

「……ここで問題や。ここにな、とびきりのクリスマスプレゼントがある」

 暴力を振るって満足したのか、田口は先程より幾分か和らいだ声で告げ、机の上に置かれたものを愛おしそうに撫でた。それは真っ白な布袋に覆われ、ちょうど子どもの大きさ程度の輪郭であり――。

「お前、まさか……!」
「せや。お前らが血眼になって探しとった親分の娘。まさか普通のガキとおんなじように登下校させとるとは思いもせんかったで。適当な男雇ったら簡単に攫えたわ。いやー、拍子抜けにも程があるやろ、ホンマに」

 広瀬は身体から血の気が引いていくの感じた。最悪の事態を食い止められなかった自分を悔やんだ。間違いなく、今夜、人が死ぬことになる。

「鮫島の親分が本当に腑抜けになったかどうか、こいつで試したる」
「おい、それだけはやめろ……! 戦争になるぞ……!」
「バカヤロウが、こっちはもう火ィ着いてんねん。ガキ一人で、何が戦争や? お前一人で何ができるんや?」
「お前は何も分かってない! そいつがガキだから戦争になるんだ! 擦り傷ひとつ付けただけであのジジイが飛んでくるぞ!」
「ほお。センセイでも雇ったんか。こっちはいつ来ても大歓迎や。最も、この隠れ家は俺以外だーれも知らんがーー」

 直後。天井を突き破り、目の前に隆々とした肉体が落ちてきた。広瀬の目には、それが赤い衣装を纏い、顔じゅうに毛むくじゃらな白髭を生やした男に見えた。

 サンタクロースだった。

「話は鮫島から聞いた。お前が田口とかいう男か」

 流暢な日本語であった。田口は泡を食った顔で瞳を白黒させている。

「なんや、おどれ、どこのシマのもんじゃ? ふざけた格好しよってからに、アア?」「お前たちの事情に介入する気はない。だが、子どもを巻き添えにするなら話は別だ」

 バカヤロウが、と田口は叫び、拳銃を引き抜こうとしたが、そこまでだった。サンタクロースは田口の間合いに飛び込み、左手で拳銃を払い除け、丸太のような右手で田口を吊り上げた。のだと思う。紫色に変色していく田口の顔をぼんやりと眺めながら、広瀬は眼の前で起きたことを頭の中で反芻した。子どもからおもちゃの銃を取り上げるかのような手際だった。

「こいつの処遇は俺に預からせてもらう」

 泡を吐いて気絶した田口を米俵のように担ぎ上げながら、サンタクロースは振り返った。

「あっはい」

 広瀬は我に帰り、深々と頭を下げた。

 根も歯もない噂話だと誰もが笑っていた。広瀬も目にするまでは実在を疑っていた。サンタ・ビジネスの主役にして顔役。
 彼らがどういった組織なのかは一切分からない。ただ、この老人との取引を始めた折に、クリスマスが近づいたら子どもたちは丁重に扱え、もし乱暴するようなことがあるなら命はない、と親分は神妙な顔で組員に告げたのだった。

「どうもすいませんでした、センセイ。うちのモンのケツ拭いてもらったばかりか、組長の娘まで助けていただいて……」「……子どもは大事にしろ、そして、メリークリスマス」

 広瀬は90度のお辞儀の姿勢を維持しながら、サンタクロースを見送ると、その姿が見えなくなると急いで踵を返し、机の上の袋を解いた。組長最愛の娘、鮫島來未くるみはその中ですやすやと寝息を立てて眠っていた。広瀬は腰が抜けるほど安堵し、しばらくするとスマホで連絡を取る。

「鮫島さん、報告遅れてすいやせん。田口の件は解決しました。娘さんも無事です。……ハイ、ハイ、そうです、例のセンセイが……ハイ、これからそちらへお届けします。ハイ、よろしくお願いします。」

 続けて部下に車を持ってこさせるよう指示を出すと、広瀬は主を失った廃屋を見渡した。煙草に火をつけ、うず高く積もった床の埃を蹴り飛ばす。

 田口の始末をつけたところで、何一つ変わらないのだ。

 ミカジメが減り、シャブとチャカがサツに押さえられた結果、現代のヤクザはサンタ・ビジネスを手を染め、細々と命を繋いでいた。シマの住民のリストを作成し、サンタクロースに提供する。あるいは、土地勘を活かしてプレゼント配達を代行する。かつてシマを奪い合っていたヤクザ同士が、ネットワークを共有して共配するようになったのは皮肉なことだ。

 サンタ・ビジネスも割の良い仕事でもない。それでも、サンタクロースが落とす外貨は、泥を吸っていないまっさらなカネだ。サツが睨みを利かせている中では生命線にも等しい恵みのカネだった。

 スーツに代わりにサンタ服に着替え、リムジンやベンツではなくハイエースやトラックを転がすヤクザも毎年恒例となった。なってしまった。

 昔ながらのヤクザは、死にゆきつつある。

「田口ィ、てめえはムショの中で死んだ方が、幸せだったよ」

 穴の開いた屋根からちらつき始めた雪を見上げながら、広瀬は独り言ちた。


LEVEL 2

 生暖かい何かが顔にかかり、田口は飛び起きた。

 いや、飛び起きようとしたができなかったと言った方が正しい。頭から下が雪に埋められていたからだ。
 首を振ることもできず、辛うじて視線だけを巡らすと、頭上から巨大な鹿が光のない眼で田口を見下ろしていた。この鹿が田口に向かって唾を吐きかけたのだ。

「目覚めたか」

 背後から雪を踏む音としわがれた低い声。サンタクロースだ。

「テメエ……なんや、これは? 何をする気や? アア?」
「そんなザマになっても、良く吠えるヤクザだ。気骨がある」

 サンタクロースは田口の正面に屈みこんだ。凍てついた氷のようなブルーの瞳だった。

「サンタクロースは古来よりヘラジカにソリを引かせていた。しかし、その気性の荒さからサンタですら一握りの者にしか扱えない生き物だった。そこで躾しやすいトナカイがソリの引き手として主流となった……」

 荒々しい唸り声があがる。獣が吐き出した息が、湯気となって天へと立ち昇った。

「そんなもん知るかコラァ! とっととこっから出せクソガァ!」

 田口はありったけの力で脱しようとしたが、押し固められた雪は岩のように硬く、指先ひとつ動かない。吐きかけられた唾は、顔にへばりついたまま既に凍り付いていた。

「お前の来歴を全て調べ上げた。殺人、薬物売買、売春、賭博、地上げ、銃器の裏取引、官憲の買収……見事なもんだ。だが、全てどうでもいい」

 サンタクロースはリストをくしゃくしゃに丸め、放り捨てた。

「お前のしでかしたことなんざ一ミリも興味がない。関心があるのは、お前の汚い商売に、子どもを巻き込んでいたかどうかだけだ」
「ガキを商売道具にしていたら何だってんだ? アア?」
「サンタクロースは子どもたちを泣かせる存在を許さない。誰であってもだ。そして、貴様はクズだが、これまで子どもをビズのダシにしたことはないことが分かった。今回の件を除けばな」
「……テメエに話すことなんざ、ひとつもあらへん。殺すならはよ殺せや。それともなんや、見せしめの拷問でもやるんか?」
「十周だ」

 田口の言葉を無視し、サンタクロースは重々しい口調で宣告した。

「十周、お前の周りをこのソリで回る間に、雪の中から抜け出せれば命は助けてやる。できなかった場合は、そのまま轢き殺す」

 あまりに一方的な宣告に田口は言葉を失った。
 これは単なる私刑だ。正気の沙汰ではない。しかし、サンタクロースの口調に一切の感情は見られなかった。

 さながら、重罪人に判決を下す裁判長のような――。
 田口は判決を下されたあの日のこと、そして若さもカネも将来も失ったムショ暮らしの日々を思い出した。

 サンタクロースがソリに乗り込み、手綱を引いた。8頭のヘラジカが歩き始め、その後ろから一切の装飾のない、鉄の塊としか形容のしようがないソリが田口の頭のすぐ隣を通過した。

――一。

 田口はあらん限りの力を振り絞って雪から逃れようとしたが、押し固められた雪はコンクリートのように頑強でびくともしなかった。

――二。

 ソリは周を追うごとに加速し、雪はソリ痕で深い轍が何重にも刻み込まれていく。

――三。

 削り飛ばされた雪が渦を巻き、純白の粉塵が風にたなびくヴェールのように舞う。

――四。

 田口は全身から汁という汁を垂らしながら足掻いた。小便すら漏らし、少しでもこの狂った処刑台から逃れようとしたが、天然の拘束具は微動だにしなかった。

――五。

 田口は、もうずっと昔のあるクリスマスの夜に、養護施設にプレゼントを山盛りに置いていった、パリッとしたスーツの男のことを唐突に思い出した。

――六。

 一昔前のアニメのおもちゃや色えんぴつなど、入っていた物は本当に欲しいものではなかったが、それでも、他でもない自分自身だけのプレゼントに舞い上がって喜んだものだ。

――七。

 肩で風を切って立ち去る後ろ姿が光輝いて見えて、あんな大人になりたいと思った。

――八。

(そうか、俺にとってサンタクロースってのは、ヤクザだったんだ)

――九。

 田口は走馬灯を見ていた。

――十。

 視界に、現実が帰って来る。

 田口は、もはや自分が助からないことを悟り、破顔した。

「メリィィィィィ、クリスマァァァァァス!!!」

 田口が最後に見た景色は、向ってくる無数の蹄と黒鉄のソリ、そして冷たい表情のサンタクロースだった。


LEVEL 3

 田口に引導を渡した後も、サンタクロースはソリのスピードを緩めず、灯りのない雪道を疾走していく。

『……怒ってるのかい?』

 ガラガラ声の老婆が通信機越しに声をかけた。

「誰だろうと、人を殺した日は気分が悪くなる」

 それだけじゃないさね、と老婆は笑った。

『かれこれ五十年の付き合いの中で、今日はとびきり機嫌が悪い。何が不満なんだい?』

 老婆ーーサンタ・レディーとは幾多もの戦火を潜り抜けた知己の仲だ。故にどんな隠し事も無用であった。

「いつの間にかクリスマスも世間じゃハッピーホリデーなんて呼ばれるようになっている。そのうち俺もホリデーグランパ(プレゼントおじさん)なんて名で呼ばれるようになるかもしれん」
『続けな』
「……そんなことは別に構わん。俺たちはプレゼントを運ぶだけだからな。だが、いつの時代にも子どもを泣かす連中はいる。……俺はいつまでこんなことを続けなくちゃならない?」
『やれやれ、そんなことも忘れちまったのかい』

 サンタ・レディーは鼻を鳴らした。

『死ぬまでだよ。サンタクロースに引退はない。子どものために命を賭けられないやつは半人前以下の腰抜けさね。あんたは身を張って数えきれない子どもたちにプレゼントを配り、いくつもの人身売買組織を潰してきた。それをいまさら、ヤクザひとり始末しただけで悲嘆するくらい日和っちまったのかい?』

 全てを聞かずとも、サンタクロースはレディーが言うことは分かりきっていた。半世紀もの間、自分はサンタクロースをやってきたのだ。今更この仕事を降りるつもりはない。

 しかし、サンタクロース当人ですら、神聖な降臨祭のはずのクリスマスもまた商業主義の波に呑まれ、何でもない、ただの祝日ホリデーに貶められたのではないか、そんな畏れを抱くほど、ここ最近の時の流れの目まぐるしさは異常だった。情報が行き交い、昼と夜の境界が曖昧になり、人々は馬車馬のように働き、世界全体が生き急いでいるかのようであった。

「すまない、愚痴っぽくなってしまった。もう大丈夫だ」

『だったら次の任務だ。クリスマスまでにお片付けしなきゃならんことが山積みなんだよ』

 ソリの上空にVOL機が飛来し、ソリの前方でハッチを開く。

『乗りな。ヒヨッコどもの前でそんな辛気臭い顔をするんじゃないよ』

 サンタクロースは思い切り手綱をしならせると、ヘラジカたちはその逞しい脚力でVOL機へ跳躍した。鋼鉄のソリがギャリギャリと火花を散らしながらハッチに着地し、若輩のサンタ・スタッフたちが駆け寄ってくる。

 こちらに敬礼する者、ヘラジカを牽引する者、ソリの点検を始める者たちでにわかに活気づいた機内で、サンタクロースは想いを巡らせた。彼らが直接現場に携わるには、まだ後三十年から四十年の訓練が必要になる。その頃には果たして幾人が残るだろうか。

 サンタクロースはヘラジカ一頭一頭の頭を撫で、ねぎらって回った。ヘラジカの首にはそれぞれイースター、ヴァレンタイン、マザーズデイ、レインディア、サマーズ、ハロウィン、サンクスギビング、スノーマンと刻印されたドッグタグをぶら下げている。いずれもサンタクロースとは幾年ものクリスマスを共にした戦友だ。

 その時、切羽詰まった様子のパイロットが、機内放送で叫ぶようにアナウンスを行った。

『本部より緊急連絡。かねてから計画していた極秘任務が承認された。全サンタクロースは至急指定されたポイントへ急行、ターゲット並びに該当施設を完全に無力化すること。座標は北緯55.7521389度、東経37.6173806度。各員、早急にポイントを確認せよ――』

 共有された座標を見て、サンタ・スタッフたちの動揺がさざ波のように広がる。ヘラジカたちですら、その張り詰めた空気を感じ取ってかおとなしく嘶いた。

 それは歴史上最も困難なミッションであり、影で暗躍していたサンタクロースらが遂に表舞台へ出てまで介入しなければならないほど、状況が逼迫していることを示していた。

 その地におわすのは赤の城砦の主であり、残虐雷帝であり、狂った王であり、幾万もの子どもたちを苦しめる全サンタクロースの敵である。

 サンタクロースは、機内の一角に被せてあった白い防護布を引き払った。

 布の下には三点射アサルトライフル、短砲身の中折れ式ショットガン、軽機関銃、ミサイル・ロケットランチャー、ハンドガン、手榴弾、そして、ありったけの9mmパラベラム弾の弾倉。それら一つ一つを、サンタ服の下に身に纏っていたコンバットベストとバックパックに納め、最後に防護布で体を縛り付けた。サンタクロースは、サンタクロースになった。

「いいか、よく聞けヒヨッコども。この世のすべての良い子にプレゼントをくれてやること、それが俺たちの使命であり、存在理由だ。カラフルなおもちゃ、イカした最新型ゲーム機、おしゃれなアクセサリー、そして最高のクリスマスの夜――どんなものだって用意できる。そう、どんなものでもだ。ところが、世の中には俺たちサンタクロースから子どもたちを遠ざけようとするクソッタレな連中がいる。そんな奴らはどうしたらいい? プレゼントをくれてやるんだ。何しろ俺たちはサンタクロースだ。何処にだって入り込んで、誰にだってお望みの物をくれてやれる。人身売買組織、テロリスト集団、ヤクザやマフィアの類、そして気の狂った独裁者。いいか、相手がヤクザだろうが王様だろうがDV野郎だろうが、俺たちにとっちゃあ関係ない。We wish your merry Xmas!全ての子どもたちに幸福を、子どもたちを泣かす大人には死を!

We wish your merry Xmas!全ての子どもたちに幸福を、子どもたちを泣かす大人には死を!

 サンタ・スタッフは鬨の声をあげた。VOL機が高度を上げる。ヘラジカたちが身を震わせ、馬鎧を打ち鳴らす。機内が再び活気づき、クリスマス前夜のような慌ただしさが帰ってきた。

『演説、ご苦労さん』
「フン、ちょうど俺もあのヒットラーの尻尾をぶん殴ってやりたい気分だったんだ」
『……激しい戦いになるね』
「子どものために命を賭けられないやつは半人前以下の腰抜け、だろ?」
『ああ、そうさ。――ほら、さっさんハッピーニューイヤー花火を打ち上げてきな』

 サンタクロースは次の戦場へ向かう。子どもたちの未来のために。


(We wish your merry Xmas…)

明日12月22日はカーチス野郎さんの『セカイがオワルまでは』です。お楽しみに!

ここは記事下のサポートエリア!わたしをサポートしたいと思ったそんなあなたに、わたしのamazonほしいものリスト! https://www.amazon.jp/hz/wishlist/ls/1XCLS13WI5P8R?ref_=wl_share