死を、想え。「ペルソナ3 リロード」感想
私にとって高校生時代にプレイした「ペルソナ3ポータブル」は忘れられない作品だった。時はリーマンショックで先行きが見えない世の中に将来が見通せなくて、憂鬱な日々を過ごしていたことを覚えている。あの時点で既にオリジナル版から2年経過していた物語は、それでも全く色褪せておらず、かけがえのない体験だった。そんな思春期の年頃にペルソナ、ひいてはアトラス作品に出会ったことによる後の人生への多大な影響は計り知れない(この後のシリーズはもちろんのこと、メガテンまで遡っていくことになるのだが、それはまた別の話だ)。
あれから15年である。
15年。
気付けば私はあの時の倍近い年齢となっていて、大学に入学し、就職し、結婚し、あれほど将来を不安がっていた高校生もいっぱしの「大人」になっていた。末端ではあるものの役職に就く立場になり、それなりに大きな案件を回すことも増えた。プライベートでも色々と重大な決断を下し、年を追うごとに慌ただしくなっていく日々。「ペルソナ3リロード」が発表されたのはそんな時だった。
15年の月日を経てプレイするペルソナ3は、遊びやすいように改修されつつも驚くほどあの頃のままで、「あのペルソナ3をアップグレードして令和の時代に蘇らせる」という並々ならぬ気概と、「決してあの物語に必要以上に手を加えたりしない」という繊細かつ丁寧な心配りがそこかしこに見られるリメイクだった。
ゲームシステムに関しては、P5Rで成熟しきったバトルシステムをそのまま持ってきているので今さら語る必要はないと思う。弱点を突き、1Moreの行動権を味方にシフトし、続けて弱点を突き、相手のターンが回ってくる前に倒しきる爽快感。そのための直感的なボタン配置とショートカット機能。このコマンドバトルを体験するために人生で一度はペルソナシリーズをプレイした方が良いと言っても過言ではない。この辺のデザインセンスは世のRPGとは一線を画していて、同郷のメガテンですら野暮ったく感じるほど洗練されている。
そして、そんなバトル要素よりも熱中することになるのが学生生活パートである。プレイヤーは月光館学園に通う高校二年生として学校生活を送ることになるのだが、この「学校生活」というのは単なる設定や背景で流されるものではなく、本当に一日ごとに「自由時間をどう過ごしていくか」がプレイヤーに委ねられることになる。クラスメイトとラーメンを食べに行ってもいいし、喫茶店でバイトをしてもいい。図書室で勉強もできるし、お金を払って映画を観ることもできる。そうやって友人との絆を育み、人間ステータスを高めていくことで、新たなスポットが解禁されたり、交友関係を広めていくことができる。
当然、時間は有限だし体は一つしかない。「コミュ」を始めとした無数の取捨選択を日々繰り返し、ふと振り返ったときに見える自分だけのゲーム体験。それがペルソナシリーズの醍醐味である。そしてそれはこのペルソナ3の時点で既に確立されているが、後続作品に比べるとややアンバランスな部分もある。
コミュの配分が昼間に偏っているため徐々に夜の時間が手空きになってくること、学校関係のコミュは夏休み、冬休みなど長期休暇中は停止してしまうところが代表的だ。オリジナル版と比較すると特別課外活動部の追加イベントなどでフォローはされているが、それでも「昼間は体がいくつあっても足りないのに、夜はやることがない……」という状況に幾度も直面した(コロマル散歩がある日に何度救われたことか!)。
そして、コミュがフルボイスになったことも非常に大きい。コミュ自体は異性との恋愛関係という要素もあるものの、基本的にはメインストーリーに対する枝葉、サブ的なコンプリート要素ではある。しかし、それぞれが別れや困難、あるいは死に直面し、苦悩、葛藤する物語が、巡り巡ってゲームのテーマ性に帰依している構造は今遊び直しても見事としか言いようがない。それがフルボイスになったことでメインストーリーとの序列的な隔たりがなくなり、ゲーム体験がよりリニアなものになったと思う。
昔遊んだ時には相手の意を汲んだ選択肢を選ぶ方が好感度が上がるようになっていたことへの違和感があったが、いま改めてプレイすると、プレイヤーのポジションは「相手の言葉に耳を傾け、寄り添い、そっと背中を押してやる」ことだったのだと気付く。人と人の関係はどちらかが一方的に与えるものではなく、共に過ごす時間そのものが人を変える力を持つ。これはやはり、死や別れに面と向き合う話であるペルソナ3だからこそ説得力を持って言えることだ。
そして、ペルソナ3と言えばアイギスである。仲間たちが様々な「死」と直面していく中で、命を持たない戦闘用ロボットを事実上のメインヒロインに据えてきたことが当時は衝撃だったのだが、コミュを含め終盤になって唐突感のある出番も「自我を確立したことで急速に人間に近づいていくアンドロイド」というSF仕草らしくて本当に感心したし、「なるほどなー」な人型ロボットが、共に過ごしていく間に慈しみを帯びた表情へと変わっていく様は本作のキモであると思う。
というか「俺ってめちゃくちゃアイギスのこと好きだったんだな……」と気付かされたのが本当にデカい。ラストシーンが良すぎる。あんな顔をするアイギスを見れただけで、このリメイクは大成功です。本当にありがとうございます。
ペルソナ3リロードをやれ
今までペルソナ3をプレイしたことのない者は幸福である。何故ならこの物語をまっさらな気持ちで楽しめるからだ。過去にペルソナ3をプレイしたことがある者も幸福である。何故ならあの頃の記憶そのままに、最高の手触りでもう一度あの体験をできるからだ。
最近のアトラスに対する不信感もまあわかる。私も「真・女神転生V Vengeance」の発表で盛大にズッコケたのだが、このペルソナ3リロードに関してはマジのガチでこれ一本で問題がない。むしろこれ以上このゲームに何も足さず、このゲームから何も引かないでほしい。そういうギリギリのバランスの上で奇跡的に傑作となったリメイクなのだ。だから、安心してプレイしてほしい。この唯一無二の物語を体験しろ。そして、死を、想え。
【概要】
オシャレなBGMとUI、スタイリッシュで駆け引きの熱いバトル、そして何より一年間の学生生活を通して仲間たちとの絆を育むジュブナイル要素と「メメント・モリ」をテーマに据えたストーリーが今なお評価されているロールプレイングゲームの17年越し(PSP版からだと15年越し)のリメイク作品。
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さっき「これ以上このゲームに何も足さず、このゲームから何も引かないでください」と言ったな。あれは嘘だ。追加DLC、首を長くしてお待ちしています。
(終わりです)