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『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』で神話の終わりと始まりを目撃した

私のエヴァ経歴は以下になります。よしなに。


この記事は公開初日にシンエヴァを観た後、『DEATH (TRUE)2』、TV版第弐拾伍話・最終話、『Air/まごころを、君に』、『風立ちぬ』、『シン・ゴジラ』を再視聴した後に書いています。これは別に批評とか考察のためではなく、エヴァと庵野監督の歩んできた道のりを振り返りたいと自然と思ったからで、そうしてしまうほどの「とてつもない何か」に突き動かされたからです。

以下、ネタバレ込みの内容になります。よろしくどうぞ。

一番初めに統括してしまうと、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』ってエヴァとしてはめちゃくちゃヘンテコで、ビックリするくらい優しくて全部説明してくれてる作品なんですよね。しょっぱなから「え?こんなの食べさせてもらっていいんですか? いやいやそんなこと言って後で絶対に裏切るに決まってるでしょ? ……え?え?マジ?」という驚き半分、「ああ、これは本当に終わらせようとしているんだなあ」という感慨深さや寂しさが混じった複雑な思い半分で、エンドロールが終わった後は素晴らしく晴れやかな気分で劇場を後にできました。あのエヴァでですよ。

シンエヴァは設定にしろ人物の心境にしろ、ひとつひとつ丁寧に説明してくれている上に「考えるな、感じろ」でスッと理解できるよう道が舗装されているのがめちゃくちゃ真摯で大人な対応だな、と感じたんですよね。「俺はこういう思いでこんな結末にした」が伝わってくる。すごい分かりやすい。そして全然エヴァらしくない。

一方で一回ずつ立ち止まって「ここはこういう理由でこうなってる」みたいな設定好きな人間にも応えていて手抜かりがないというかなんというか、めちゃくちゃうまい。どこかじっても味がある。それは言わばQで一切言及されなかった突拍子もない事情とか、辻褄合わせでしかないかもなんだけど、やっぱ25年積み上げてきた歴史としか言いようがない。

単体の作品としては評価不可能で、TV版、旧劇場版、新劇場版序破Qの過去作のエヴァ、漫画版を含めた派生作品群、そして『風立ちぬ』や『シン・ゴジラ』といった庵野監督が関わった作品、そしてQ以降月日が流れた9年という歳月、さらにその間に起きた現実の出来事を総括した「エヴァの名を借りたとてつもない何か」だと思う。この「とてつもない」と感じた部分はこの映画を観た人それぞれで受け取り方は全く違うだろうけど、少なくとも私にとっては「ああ、最後の最後に追いついて、この景色を見られて良かった」と心から思える作品でした。


第三村のはなし

シンエヴァで個人的に一番ヤベーなってなったところといえばやっぱり第三村でしょう。アヤナミレイの視点では日本の原風景というか、人間が本来あるべき理想郷かってくらいキラキラしてるけど、シンジの視点で分かるのは第三村がギリギリのラインで成立している儚い存在でしかないことが露見する。

あそこは理想的な人間社会でもなんでもなくて、人間らしい生活を送れるギリギリの環境なんだろう。映っていたのはまだマシな部分で、農作物をつくっていても配給がなければ生活が成り立たない。医療も物資も技術も不足している。今日生きるために集落全員が何かしらの役割を果たさなければならない、現代社会よりも窮屈で自由のない社会。他者との関わりが避けられない社会。それは間違いなく被災地の地域復興であり、現実と地続きの風景であり、シンジを立ち直らせるために必要な場所だった。

「なんでみんなこんなに優しいんだよ!」→「それは碇くんが好きだから」の流れめちゃくちゃ良くて、「僕に優しくしてよ!」と叫んだ旧劇場版と状況が何もかも違うとはいえあれは紛れもなく碇シンジの心の声だし、というか旧劇場版は悪条件が揃いすぎててそりゃあ詰むよなって思う。

どこかで読んだ第三村でのポカポカ農家パートは、ある種アヤナミレイの子育て物語だというのはすごい腑に落ちていて、シンジを親のように慕うアヤナミレイという構図はそのままゲンドウとシンジの関係だし、遂に最後までアヤナミレイに名前を付けられなかったシンジが、父と向き合って落とし前をつけるために奮起するという流れはものすごく説得力がある。

大人になった同級生たち、黒波の田植え、Qでは不在だった人々の営みと、何より困難を跳ね除け生きようとする希望。従来のエヴァにあって欲しいと思っていながら、絶対にありえないだろうと諦めていたものが第三村にはあった。エヴァなのにこんなに福利厚生が行き届いてていいの???


マリさんのこと

マリさん、"外"からやってきた人間としてエヴァという物語の始まりから終わりまで見届けた上でシンジを"外の世界"へ連れ出していくの、あまりにも完璧すぎてぐうの音もでない。

マリとシンジの絡みはごくわずかしかない。名前だって最終決戦前に知ったばかりだし、そもそもマリはどういった目的でエヴァに乗っているとか、ゲンドウやユイや冬月先生とどういった関係なのかは結局明確にはされなかった。それでいいのだ。マリさんは新劇場版で突然生えてきた正真正銘の赤の他人なので、自分の居場所を他人の中に見出せるようになったシンジが彼女の手を取るのは全く持って当然のことだ。知らないのならこれから知っていけばいい。ものすごく前向きであっけらかんとした振る舞いは、そのまま観客へのメッセージとして届けられる。

まあ驚愕のラストだったんですけど、考えれば考えるほど納得しかないというか、新劇場版からエヴァに入った身としてはレイもアスカもミサトさんもヒロインとしては人格がアレすぎて正直「御免蒙る」としか思えなかったので、マリがシンジくんを迎えに来てくれたときは「そうだよ!この詰んでる世界からシンジを助け出せるのはあんたしかいないじゃん!!」ってなったよね。ある意味「俺たちのシンジくんをどうか救ってくれ」という願望が形になった存在というか。


神話の終わりと始まり

こうしてエヴァの物語は終幕を迎えたわけだけど、おかげで今までのエヴァを振り返って「こんなの、絶対変!!」ってデカい声で叫べるようになったのがめちゃくちゃ嬉しい。いやだっておかしいでしょ。おめでとうENDとかクソデカい綾波とか、絶対変でしょ。ねえ、ねえ!!

シンエヴァが人生初めてのリアタイで体験できたエヴァになったから、エヴァから卒業というよりいつでも帰って来れる場所がひとつ増えた気持ちでになってしまった。一番好きなエヴァ。というか、清々しすぎる後味と14年という広大な余地とヘンテコな味わい深さのせいで居心地が良すぎて入り浸ってしまうので卒業どころじゃない。定期的に観返したいリストに入ってしまった。助けてくれ。

それもこれも完結してくれたおかげでようやく自分の一部になったというか、今までは遠い位置にあったものが遂に自分の血肉にできた感動がある。きっとこれまでの人生で、大なり小なりエヴァから影響を受けた作品なんてものは数えきれないほど観て経験してきただろう。その本家本元をこんなにも好意的に捉えられた自分で本当によかったと思う。

本当に、本当にありがとうございました。これからもたまに遊びに来ます。ありがとう、エヴァンゲリオン。そして、さよなら。



以下、単発の感想

・序盤のパリ作戦、クレーン固定カメラ視点のアングルとかめちゃくちゃ良いしピアノ線(ピアノ線ではない)で護衛艦吊り下げてるの「ウワーッ!特撮!特撮撮影だ!!」って大興奮した。

・お神輿ゲリオンとバッテリーゲリオン、エヴァから人間性を剥奪しすぎて最初何なのか全然分からんかった。エヴァをオモチャにし過ぎでは?

・アヤナミレイ農家スタイル、めちゃくちゃ和むし可愛い。こんな形で綾波レイの新しい側面繰り出してくるの恐ろしすぎる。

・田植えの解像度がすごすぎる。何これ本当にエヴァ?

・トウジとケンスケ存命!存命でした!!それだけで泣きそうなのにめちゃくちゃ良識ある大人になっていて二度泣く。いやマジで良かった……。

・アスカが無理やりレーションを食わせるシーン、鬼気迫る作画とカメラアングルで緊張感がすごい。なにあれ誰かの実体験ですか?

・加持リョウジ14歳、シンジにとっては14年経過した世界での初めての友達なんだよな。最小の尺と会話で「いいやつ」だと分かるのすごすぎる。

・加持さん、故人なのをいいことにバカデカい外付けロケットブースター搭載されてたのめちゃくちゃ面白いんだけど、趣味のスイカ畑と日本海洋生態系保存研究機構から地球生命の保全まで繋がるの納得感があるのが悔しい。でも断絶していた破とQの間を繋げてくれた立役者だし、何より旧エヴァの去り際みたいにみんなに心の傷撒き散らさずに、残された人間に道筋を残してくたのが本当に良かったな……。

・元ネルフメンバーの出番がミサトさんに全部吸われてしまった件、おそらく空白の14年の間にいろんなドラマがあったことは想像に難くないので何かしらの形で日の目を浴びさせてほしい。旧エヴァだとただの被害者だったので……。

・護衛艦を盾にするのはまだいいとして、ケツにでっかいブースター取り付けて丸ごとミサイルにするのは頭おかしいと思う。無人在来線爆弾に味を占めすぎでしょ。

・腕だけゲリオン、今までの敵の中で最高クラスに厄介な雑魚的でビビる。腕と肩のウエポンラックだけとかもうそれはエヴァじゃないよね。どこまでエヴァという存在を解体してんだ。正気で言ってんの?

・ゲンドウ、ヒトをやめた癖に脳みそ拾って頭に戻すのジワジワくるし、次のカットで特に説明なく傷一つ無くなってるの面白すぎる。

・冬月先生の強キャラ感すごい。最終的にゲンドウもユイもマリも全員フォローして回ってるの何?マリが来るまでLCL化耐えてたのすごすぎませんか。超人ですか。

・北上(ピンク髪の人)がシンジにニアサーの責任を糾弾する下り、もし第三村であったなら間違いなくバットエンド直行だったけど覚悟完了したシンジにとってはもはや推進剤ブーストにしかなってなくて、破での「これ以上男前のシンジは見れんやろ……」を軽々飛び越えて主人公としての”格”見せてけてくるのヤバすぎる。

・鈴原サクラさん、1周目はなんやこの女……って気持ちだったけど、Qでの「エヴァにだけは乗らんでください」の台詞が重力より重い一言だったのが分かるの怖すぎる。改めて見るとビンタの迫力がすごい。ビビる。

・鈴原サクラさん、命の恩人で親の仇で兄の親友でニアサーの原因で孤独な14歳の少年に対する憧れと憎しみと同情と思慕がぐっちゃぐちゃになってるの旧エヴァでよくあったドロドロの情緒なのでゾクゾクする。シンジの意識が戻るまでに感情を煮詰めすぎ。怖い。

・ゲンドウ量子テレポート、一瞬でシンジに追いつかれたので全く意味無くなってるのめちゃくちゃ面白い。テレポートやりたかっただけじゃん……!

・「シンクロ率無限大です!」分かるけど!分かるけどさあ!初めて見るのに既視感がすごすぎて笑ってしまう。今まで触れてきたものが全部エヴァに還ってきてると感じてニッコリしてしまう。

・ミサトさんと和解できたの本当に良かったんだけどそのまま槍宅配特攻カチコミ仕掛けるの、あまりにも公私の「私」が滅却されすぎて「ええ……」ってなった。サードインパクトが引き起こされるくらいならNERV本部もろとも爆死する精神じゃないですか……。

・というかヴンダーめちゃくちゃダメージ受けてたのに最後までちゃんと浮いてるのガバガバすぎじゃないですか?あんな細っこいのにすごい堅牢。

・マイナス宇宙での第三東京都市のミニチュアで「虚構!虚構じゃん!ヘンテコな実写使わなくてもちゃんと現実と虚構の説明できてるじゃん!100点満点!」って言って100点満点ボタン押した。

・過去最高レベルで来歴をカミングアウトされたゲンドウ、ものすごくありふれた人間過ぎて質感がリアルすぎるでしょうこのおっさん。

・カヲルくんのことは結局最後まで分からなくて、共感が完全に欠落していたんですが、そんな彼にさえパーフェクトコミュニケーションを叩き出したシンジくんがもう大地母神レベルだし涙を流しながら微笑むカヲルくんがあまりに美しすぎて死ぬかと思った。

・14歳のアスカはシンジが好きだったんだろうけど、今のアスカとケンスケの関係は異性愛でも親子愛でもなく、アスカにとってはやり直しのスタート地点で、未来のことはまだ何も分からない、でももう孤独じゃないってシンジが示してくれたのが何よりも……何よりも良かった。EoEの赤い海から遂にここまで来たのかという感慨。マジで良かった。良すぎる。

・「碇君がもう、エヴァに乗らなくていいようにする」ために14年間初号機の中にいた綾波レイ、その生き様があまりにブレがなさ過ぎて泣く。

・槍で貫きゲリオン、「ここでエヴァを終わらせる」という絶対的な意志がバリバリ伝わってくるけどそのせいで過去最高にシュールな絵面になってしまってほとんど神話の領域。常人の発想ではない。めちゃくちゃ好き。

・最終回で1話のリフレインやタイトル回収をされると条件反射で叫ぶオタクなので「ネオンジェネシス」で死ぬかと思った。死んだ。

・旧劇場版は純度100%の庵野監督作品だとしたらシンエヴァは庵野監督を100%再現した超高性能エミュレーターが100点満点叩き出した映画って感じ。そうじゃないとこんなに面白い映画にならないと思う。

・シンエヴァ、マジで面白すぎるのでQの内容と14年の空白も含めて全4時間ディレクターズカット版とか出してほしい。無理かな?無理ですか……。


ふせったーでつぶやいた感想はこちら


(終わりです)


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