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【感想】パラレル日本で繰り広げられる情け容赦ない妖怪退治ー『妖怪処刑人 小泉ハーン』

「そ、そんな……。幽霊が……銃殺されていく……!」
ハーンがどんな小説かと聞かれれば、この一言に尽きる。

本兌 有, 杉 ライカ, トレヴォー・S・マイルズセンセイらによる『妖怪処刑人 小泉ハーン』が超絶面白かったので、興奮冷めやらぬ間に感想を書きました!

・史実と異なる日本で繰り広げられる、妖怪退治物語

時は19世紀末。未だ江戸幕府は健在であり、永世中立都市となった京都・神戸を挟み、倒幕に失敗した薩長同盟幕府が睨み合う日本。
両者は諸外国の支援により近代化・軍備拡張を押し進め、一発触発の機運が高まる中、取り残された辺境の地では未だ妖怪なる魑魅魍魎が蔓延る。
そしてこれは妖怪狩人の最後の一人であるラフカディオ・ハーン、またの名を小泉八雲が主人公の、血も涙もない妖怪ハント・ダークファンタジー時代小説である。

もはやここまでの時代設定だけで刺さる人にはブッ刺さるキーワードが山盛りなわけで、あらすじにピンと来た人は間違いなく読むべきです。絶対後悔しない。

・ガッツとグリッドー齢五十のハーンが持つ真の男の姿
ラフカディオ・ハーン、またの名を小泉八雲といえば、日本各地の怪談を編纂した文学作品を執筆した、ギリシャ生まれの日本民俗学者ですが、そのハーンを妖怪ハンターにするというブッ飛びの極みのような設定の上で本作品は成り立っています。そのため、ハーンは数々の対妖怪武器で武装し、コートと山高帽を被り、極めつけに「半」の文字が縫われた眼帯で片目を覆った、隻眼の偉丈夫として描かれています。絶対に強い。

ハーンは妖怪狩人としてすでに凄腕の域にいますが、あくまで人間であり、彼に残されているのは狩人としての誇りだけです。しかし、かと言って彼が時代の波に取り残されていきつつあるのかといえばノーであり、近代化により様変わりしつつある日本が舞台だからこそ、堕落せず、狩人としての信念を貫くハーンの姿が強く心に響きます。
物語開始時点でハーンは齢五十歳を数え、壮年を過ぎつつある年齢に差し掛かっており、エピソードの節々にも彼が今まで経験してきた数々の戦いや冒険が仄めかされてされています。それら過去の物語が今後語られることがあるのかわかりませんが、それらがハーンをガッツとグリッドを備えた魅力あふれるキャラクターに仕立てたことに違いありません。
そして黒の軍馬シャドウウィング。ハーンの相棒として常に傍らに居続ける彼女(そう、彼女は牝馬だ)も素晴らしい登場人物の一人です。というかメインヒロイン。

イザベラ・バード、ブラム・ストーカー、トーマス・エジソン、柳田國男に坂本龍馬など、聞き覚えのある歴史上の人物たちも知られざる姿や驚きの設定を備えて登場する点も魅力の一つです。

・怪異から暴かれた妖怪ー体系化され、狩られる立場となった化物

妖怪たちについても、西洋の悪魔とは根源的には同一的な存在であると物語内では解釈されており、ノッペラボウ、カマイタチ、野槌なども世界各地に同様の伝承として存在し、日本の妖怪も地域特有の亜種として扱われているのも特徴です。かといってただ生き物然としているのではなく、根源的な闇から生まれ、常人では対抗できない存在であり、ハーンとはじめとする狩人がいかに特殊な存在化を際立たせています。

ハーンが怪異としての妖怪を己の経験と知識で分析・体系化して、狩りの対象とする姿は、ともすれば信仰の対象となる存在の神秘や不可思議のベールを暴き、「妖怪が不可思議な存在ではなく、実体を持ち、殺害することができる存在である」ことを証明し、妖怪退治が単なるクリーチャーハントに留まらない説得力を持たせています。

・『断片』と挿絵、巻頭漫画に見られる工夫を凝らした構成

面白いのがエピソードの合間に挟まれる『断片』で、日記や証書の一部など、話としては文字通り断片的ですが、本編とは異なる切り口でハーンの世界観を知る手がかりとなっています。本書を読み終えた後に見返すことで新たな発見が見つかるかもしれません。

そして久正人センセイの表紙や巻頭漫画や挿絵がねえ…すごいいいんですよ。アメコミの作画風でありながら、神話・伝説や特撮ヒーローにも造詣が深く、コマ割りにもこだわりが見えるのが久正人先生の特徴ですが、ハーンの作風にもとってもマッチしています。というかこのままコミカライズして欲しい(贅沢なお願い)。

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ただでさえハーンが妖怪たちと殺し合いをするだけでも最高なのに、幕府・薩長同盟のせめぎ合い、その対立を代理戦争に仕立てる諸外国、そして妖怪を人工的に生み出し兵器として運用せんとする邪悪な人間の存在、そしてハーンを裏切ったヤナギダなど、物語の異常なくらいの深みがニンジャスレイヤー同様、この小説が勘違い日本を舞台にした面白翻訳小説ではないことを完璧に証明しています。

実際本書を読み進めると「小泉八雲が妖怪ハンター」という突拍子もない設定を補完するのに補って余りあるパズルのピースの埋まり具合に思わず唸ること間違いなし。アー!続き気になる!読みたい!読みたい!

そしてもし本書を読んで気に入った方で『ハーン・ザ・ラストハンター』をお持ちでない方はこっちもぜひ読んでほしい。『ハーン・ザ・ラストハンター』には言わばプロトタイプ版ハーン(漫画でいう読み切り版に近いが、本作としっかり連動している)が収録されており、のっぺらぼうの怪談が鎖付きハープーンによって一瞬で血みどろダークファンタジーに変わるパラドックスを感じてほしい。ほかにもエミリーとかウィルヘルムとか面白い短編がいっぱい収録されてるよ!

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この本、タイトルは『妖怪処刑人 小泉ハーン』ですが、見ての通りタイトルで巻数に触れてなくて、「えっ!めっちゃいいとこで終わったのに1巻終わっちゃうの!?」と一瞬思ったのですが、英題として『HEARN THE LAST HUNTER and the Esoteric Seven vol.1』とあり、続刊可能性は十分ありそうですね。というかあの次回予告は期待しかないので正座して待っています。なのでチョー面白いからみんな買ってぜひ読んで欲しい。

本兌 有, 杉 ライカ両センセイからデジサインをいただきました!多謝!

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