剝き出しの僕を見てほしい
波風を立てないのが僕の信条なのに軽率だった。もしかしたら事件かも、なんて考えずさっさと帰ってしまえばよかったのだ。
「あれ、北村くんじゃん。帰り道こっちだった?」
橋梁下にはクラスメイトの姫川さんが立っていた。雲一つない晴天の中、彼女が着ているレインコートはひどく場違いに思える。
「え、何してんの」
後ろに見えるのはぶよぶよした肉付きの中年の男性のようで、一糸纏わぬ姿で頭からビニール袋を被せられ手足を結束バンドで縛られている。
「これ? その辺ほっつき歩いてた不審者」
「じ、じゃあホームルームで言ってた不審者狩りの話って」
「うん、私のこと」
何で、という一言は、彼女の口から出た言葉に上書きされた。
「ねえ。私と一緒に不審者を狩るか、不審者みたいに狩られるか、どっちがいい?」
彼女は見たことがないくらい満面の笑みを浮かべた。ペち、ペち、とバールで軽く尻を叩かれている獲物は小刻みに震え、ビニール袋の中で何事か口ごもった。
「北村くんボッチだから誰かにチクったりしないと思うけど一応秘密にしてることだからさー、見られたからにはタダでは帰してあげられないわけ。だからここで口封じされるか、それとも私に付き合ってもらうかどっちか選んで欲しいなー」
「口封じだってそんな、冗談で、しょ……」
姫川さんは無造作にバールを振り下ろした。野太い悲鳴と共に、レインコートに鮮血が飛んだ。
「か、狩り、ます」
ろれつが回らず、もう一度言った。
「うん、狩ります、はい」
「じゃあ、はいこれ」
体液が滴り落ちるバールを手渡され、僕はふらつきながら前に歩み出した。
「頸椎の辺りを狙って振り下ろしてみて」
姫川さんの手がそっと添えられ、二人の手で握られたバールが持ち上がり血を流し痙攣する肉塊に狙いをつけた。まるでケーキカットだ。僕の頭は沸騰した。
そんな僕のことを知ってか知らずか「よし、じゃあやってみよう」と彼女は無邪気に笑った。
【続く】
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