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遺言5

なんでこんな状態で出社するのか?

おばあちゃんが出社する前から、もう、おばあちゃんは生きられない。と、周りから聞いてました。そんな中、出社してきたおばあちゃん。

液体の抗ガン剤を常に投与している状態で、機材が入った転がる荷物入れを転がしながらの仕事。もちろん、元気なんかありません。喋れますけど、昔のような流れもありません。

そして、この抗ガン剤。私は投与されてる訳ではありませんが、おばあちゃんの近くにいるだけで、目眩を起こしそうになります。それほどに強力な薬を打ちながら今、会社にいます。

なんでこんな状態で出社するのか? 本人は「やり残した事がある」と話して、仕事してます。触れた事のない仕事であっても、貰えれば中身を理解して、私がなんとかする。なんとでもする。

そんな状態で毎日ではありませんが飛び飛びながら、出社を繰り返しました。居られる時間も当初からだんだん短くなっていきました。もう、いつ、その日が訪れても不思議ではない。その日々の中、ふとした瞬間、それを言われました。


「この会社を、頼んだよ…」


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おばあちゃんの葬儀に参列しました。おばあちゃんの話に出た「あの人」である一番偉い人も参列しましたが、なんか、退職金? がどうのこうのとか、誰かと話しながら、さっさとどこかへ行ってしまいました。

かくいう私も乗り合わせで来たので、そこまで長居は出来ませんでしたが、なんか、ここまで会社に尽くした人の葬儀がこれでいいの? とは思いました。

正直言って、この会社はクソだと思う。あんな強烈な抗ガン剤を打ちながら出社してきているのを、阻止しない。末期ガンのおばあちゃんが居ないと動かない仕事があるとか、組織としてどうなの?、と。

おばあちゃんから引き継いだ仕事、特にイベント事は準備に関わらない人が、準備不足で何か起きた時、あーだこーだ言ってきて相当にストレスです。言うならそもそも、準備手伝ってくれても良いんですよ?

こういう体制だから、おばあちゃんも今までずっと1人で、最後の最後まで、常識的に考えられない体の状態で出社したんでしょう。そんな1人の想いを、大して汲み取らない会社、どうでもよくねぇか?

とも、考えました。が、私は遺言を選びました。

今までずっと、1人でやってきた、おばあちゃん。そこにふっと湧いてきた若造。おばあちゃんが亡くなる前に別の人から聞いた話ですが、おばあちゃんはシゴキがきつく、それで辞める人もいたそうな。

けど、私もここに来るまで、それなりにそれなりな残念会社を体験しているので、食い付いていけたのでしょう。後から聞いて「そういえば…」と感じた程度で、それよりも、相当に可愛がられていた、と言う感覚の方が強く、最後に近付くにつれて色々思っている事も聞いてきた。

直接聞いた訳ではありませんが、おばあちゃんは後任を見つけるべく、あえてシゴキをしていたのではないか、と。

おばあちゃんへの会社の態度と、おばあちゃんの仕事を引き継いだからこそ分かる、おばあちゃんが、どんな想いをして仕事をしてきたか。

それらを考えると、この会社ダメかな、です。

だけど、私はどうしたいか?

私はこうしたい。

「この会社を、頼んだよ…」

これを継ぐ。

正直、おばあちゃんの様には出来る自信はない。おばあちゃんは他の人なら止まってしまうような仕事を、軽くこなしていく人だった。そこまで出来るとは思えない、けど、100%トレースが出来ないにしても、出来る限り真似して、この会社がぶっ壊れないようにしていければと思う。

おばあちゃんの仕事をしてるから分かる。これは誰も助けてくれない。おばあちゃんがそうしてきたように、私もそうしていく事になるだろう。けど、おばあちゃんは見抜いていたのかも知れない。そう言う部分も耐性がある事を。一時期、自営で生業をしていた時期もあって、独り成分が多い。おばあちゃんへ話はしなかったけど、普段の仕事ぶりから感じていたかも知れない。

遺言のゴール地点は分からないけど、この遺言を守るために、行ける所まで行こう。

それから約10年、今に至り…

--------------------------------------------------------------------------------------次回に続きます。


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