#文舵練習問題その7 問二 問三

問二 遠隔型の語り手

 午前中のコンビニに少年が一人。フードコートで勉強道具を広げている。レジには留学生の女がひとり。煙草を補充したり数を数えたりおでんをかき混ぜたりする。大半は退屈そうに窓の外を眺めている。少年も窓の方を向いて座って、だから二人の視線は容易には交わらない。やがて団体客が入ってくる。軽装。サンダルの足元。店内が途端に騒がしくなる。レジに並んだ男がサラの浅黒い肌色に言葉を投げかける。サラは顔色一つ変えない。男たちに女たちも合流する。女が一瞬値踏みするような視線をサラに送る。鋭い言葉の往復、反復、グルーミングが終わる。団体客がぞろぞろと出て行く。団体の中のひとりの女がおびえたような目でサラを見る。サラはレジの感熱紙を補充する作業を始める。団体客が去った後、手元を止めていた少年が勉強道具を片付け逃げるように店内を去った。サラはまたひとりになる。もうすぐ昼休憩のサラリーマンが昼食を買い求めにやってくる時間だ。じきにまた忙しくなる。サラは目を閉じて少し休む。そうして午前が終わっていく。

問三 傍観者の視点で

 転生したらおでんの白滝だった。コンビニレジ横のおでんブースで温められている。おでんのスープの湯加減は心地いい。ときどきマニュアル通りに店員が大根やたまごをひっくりかえしにくる。スープが補充される。おでんはいい。俺もおでんは好きだ。どうせなら白滝好きの人間に食べられたい。廃棄だけはごめんだ。頼む。
 祈るうちに時間が過ぎる。スープに映るレジ打ちの女の子の顔が一瞬曇る。最低な部類の客がやってきたようだな、とわかる。さっきからうるさいと思ってたんだよ。そろそろ転生者の真価を見せるときがきたのか。特殊能力に目覚めてむかつくやつらに熱々のおでんの汁を浴びせてやる時間がやってきたようだな。差別主義者の顔に熱々のまま襲い掛かってやろうか。けれども、待てども待てども俺が真の凶暴性を発揮する機会は現れず、おでんも動かず、売れるとしても玉子とだいこんばかりで、賞味期限が過ぎ、夕方のシフトのフリーターの男が休憩室で隠れて俺をすすって食べた。
 せめて女の子に食われたかったなぁ。


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