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夢もやりたいこともなかった。でも「原体験」はそこにあった

この記事は、僕の母校「埼玉県立秩父高等学校」の同窓会報に寄稿させていただいたコラムを転載したものです。


 初めまして、2001年卒の浅見と申します。僕は、横瀬町出身で今から4年前にUターンして、地元でホームページ制作やデザイン制作などのお仕事を個人で手がけています。

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 僕が秩父高校を卒業したのは今から20年前。今でこそ、個人事業主でクリエイターとして独立し、自由な働き方をしていますが、高校生の時から、もっといえばそれから10年以上、僕は「夢」も「やりたいこと」も、まったくありませんでした

 今できている、幸せな暮らしは生き方は、決して高校生の時からできていたわけではありません。でも、今の仕事に繋がる「原体験」こそ、秩父高校の生活にありました。この原体験が仕事につながったのは、30歳を過ぎてから。高校生の時に心を踊らせた原体験に素直に向き合えば、もっと若いことから好きな生き方ができただろうな、なんて思ったりもします。

 「将来の夢」なんて立派なものはなくてよくて、ただ単純に目の前のことに心を踊らせたことを大切にしてほしい、そんなメッセージをお伝えしたいと思います。


初めて経験した「企画」の楽しさ

 今の僕の仕事につながる「原体験」。それは、3年生のときに取り組んだ文化祭です。僕がリーダーを務める形で、僕たちのクラスは史上まれにみる規模のお化け屋敷作りに挑戦しました。普通は1つの教室しか使えないルールを、僕らは無理を通して3つの教室をつなげて、史上最大規模・最恐のお化け屋敷を目指しました。

 演出は、日本古来のお化けが出てきたり、お経が謎に流れる廊下があったり、最後の教室なんて教室をまるまる迷路にして、映画スクリームの殺人犯がお客さんを追い回すという、とんでもない恐怖体験を作り出してしまいました。この最恐のお化け屋敷は、終始行列ができるほどの好評ぶりで、僕たちはその様子に歓喜した記憶があります。

 今思えば、この破天荒な企画とクラス全員を巻き込んで形にするというのは、今の仕事につながる原体験だったのかもしれません。

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 企画を考えるのはとにかく楽しかった。「こうしたらもっと怖くなるんじゃないか」「少し迷うけど最後までたどりやすくしよう」とか。ワクワクしながらメンバーと話した覚えがあります。なんというか、この「何かを作っておもしろい!」という感覚は、「クリエイティブ」の仕事そのものだったと思います。



“折り合い”をつけて生きていた社会人生活

 そんな僕も、30歳くらいまではこの原体験で得た「作り出すことの面白さ」を活かした仕事とは別の仕事をしながら、人生を歩んでいました。「安定した仕事の方がいい」「大手で働くことのステータス」という、いつしか“本当に自分がワクワクしたこと”に蓋をして、生きていたのかもしれません。

 大人になることは、現実と向き合って“自分と折り合いをつけていく”、みたいな風潮があります。僕もその風潮に流されました。“なんとなく”大学に進学した方が良さそうだし、“なんとなく”就職活動をした方が良さそうだし、“なんとなく”大手企業で安定した方が良さそうだし。そうして“なんとなく”を積み重ねていた気がします。別に悪いことじゃありません。むしろ幸せなのかも。

 でも、僕の中には高校時代に自分の心を踊らせた「作り出すことがおもしろい!」という原体験が眠っており、折り合いをつけて進んでいる人生に、少しずつ違和感を感じ始めるようになりました。「本当にこのままでいいのだろうか」という思いが募って、30歳を目前に、「クリエイティブへの道へ進みたい」という思いが行動に変わりました。

 一気にその思いが噴出したように見えてしまったかもしれませんが、思いが徐々に積み重なっており、東日本大震災や僕自身のプライベートな変化もあり、それがきっかけになっていった感覚です。“折り合い”をつけて生きてきた人生から、少し外れて30歳でWeb業界に転職。その後34歳で独立し秩父に戻ってきました。

 僕の人生を変えた大きな行動原則は、「いつかやってみたい」と思っていたことを「やってみる」に変えたことです。「いつか」「やってみたい」を封印して、実際の行動に変えていったことで、僕の人生は大きく転換し始めた感覚がありました。


原体験で感じた「おもしろさ」に素直になった今

 今は、秩父高校のお仕事をやらせていただけるご縁があり、ホームページのリニューアルや学校紹介動画の制作、オンライン学校説明会など、様々なクリエイティブで、秩父高校をサポートさせていただいております。もちろん、お金をいただく「お仕事」なのですが、実は僕自身の原動力は「おもしろい」なんです。

 僕がこの秩父高校の文化祭で、最恐のお化け屋敷を作った時と同じ「こうしたらもっといろんな人に伝わるんじゃないか」「この方がわかりやすく面白がって見てくれるんじゃないか」、そんな企画を考え、提案しながら秩父高校の仕事を楽しませていただいています。

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制作させていただいた秩父高校のホームページ

 こうして、僕の原体験が仕事につながるまでにかかった年月は10年以上。今でも、高校の時から、その時感じたワクワクを大切に、クリエイティブの世界に進んでいたら、もっと違う世界があったかもな、なんてことも思います。


今、やりたいことがなくても焦らない

 明確な「夢」を描くには、いろいろなことを知ったり、経験を積む必要がありますが、で高校生の時に十分な経験や知識を得ることは難しいと思います。では、どうすればいいか。それは、今自分が「おもしろい」「楽しい」「好き」と思うことを素直に感じ取ることが大切です。

 もしかすると「自分には好きなことがない」「夢なんてない」と焦っている人もいるかもしれません。でも考えてみてください。3歳くらいまであなたは、なんの目的もなく目に写るあらゆるものが新鮮で楽しくて、ワクワクしっぱなしだったはずです。それが、だんたんと大人になるにつれて、「こうあるべき」という常識と“折り合い”をつけてしまっているだけなんだと思います。

 友達と遊んだり部活をしたりバイトをしたり、いろいろな経験ができる選択肢を持てるようになった高校生は、より自分の「好き」を膨らませやすくなっていると思います。もし明確に「私はこれが好き」って、今わからなくても大丈夫。この先少しずついろいろな経験をしていく中で、それらが今の高校での体験に少しずつ紐づいて、自分の原体験から好きなことが見つかるかもしれません。少なくとも僕はそうでした。

 みなさんが、自分の「好き」を大切にできる人生を送れるよう、祈っております。


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