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【開催報告】第7回あざみのカフェレポート(前編)「その連携ほんまモン??多職種連携と協働についてホンネを語る

■はじめに(このnoteはこんな人にオススメ)

・心理学や、心理士という仕事に興味がある人
・さまざまな領域で働いている心理職の人
・心理職と一緒に働いている(いた)人


 2021年12月18日に第7回 あざみのカフェが行われました。テーマは「その連携ほんまモン??多職種連携と協働についてホンネを語る」で「連携と協働」について、さまざまな領域で働く心理職がスピーカーとなり、ライブトークをしました。

 私たちは2019年から「心理臨床・精神分析的臨床にまつわる様々なテーマについて自由に話す空間」としてあざみのカフェを開催してきました。これまでのカフェでは10名を定員として様々なテーマについて参加者とディスカッションをしてきました。が、当初よりガチすぎて“カフェ感”が足りないという指摘を受けてきました。

 そこで今回は思い切ってカジュアルにしようということで、議論には入らずに、聞くだけでの参加(“聞き専”)を導入し、その分、定員も大幅に増やしました。

コンセプトはずばりラジオ形式です。

 これはJFPSPのラジオ風企画「絶対に小難しいことを言ってはいけない、本当にゆる~い、ラジオ的時間」にインスパイアされたものです。コロナ対策としてZOOM開催となったことを逆手に取り、いろんな地域の方たちに私たちのラジオを届けよう、ということでした。内容もりだくさんだったカフェのレポートを、前後編にわけてお届けします!

 後編はこちら https://note.com/azamino_analysis/n/n2bf8ca09180e

▼目次

■「連携」って、どうしたらいいの?
■「気持ちの代弁」に終始していないか?
■心理士の議論には「結論」がない
■大切なのはこころを捉える視点を育むこと


当日は次のメンバーで進行しました。

メインパーソナリティ:岡田美穂子(大宮すずのきクリニック)・岩倉拓(あざみ野心理オフィス)
プロデューサー:小牧右京(川崎市ひきこもり地域支援センター)
スピーカー1:行政の心理職:坂口正浩(川崎市北部児童相談所)
スピーカー2:生活支援の視点から:多田美和(横浜上大岡臨床心理センター)
スピーカー3:医療の心理職:木下直紀(聖マリアンナ医科大学病院)

リスナー 53名!

 職種も心理職だけでなく、精神科医や保健師、作業療法士、精神保健福祉士、社会福祉士、ジョブコーチなどバラエティに富んでいました。多くの方にご参加いただき、まことにありがとうございました。

今回は台本も筋書もなしの一発勝負。流れに任せて「連携と協働」というテーマでスピーカーの3人が思いつくまま、ぶっちゃけトークをします。

脱線歓迎、行き当たりばったり上等の2時間。

 話が広がって新たな繋がりが生まれてめちゃくちゃ面白くなるのか、拡散して捻じれて縺れてグチャグチャの混沌(カオス)となるのか?本当に大丈夫なのか? 聞くに堪えるものになるのか?申し込み時のリスナーからの声には「連携と協働」への不安と悩みが続々と寄せられている。

これはもうやるっきゃない!大丈夫!いざとなったらメインパーソナリティのお二人が何とかしてくれるはず。
そんな感じで当日、12月18日を迎えました。

 さて、ここからは当日の話の流れにそって報告していきます。最初に、プロデューサーの小牧さんが今回の企画について説明します。

まず、「連携」というテーマについて。最近、クローズドの勉強会の時に心理士による連携の失敗例が話題になったことがありました。

話しているうちにこんな疑問がわいてきました。

「連携・協働っていうけど、そもそも本当の連携って何だろう?」
「心理士の独りよがりになっていないだろうか?」

 悩ましいけれど、とてもリアルで面白い。それが今回のテーマになったきっかけです。

■「連携」って、どうしたらいいの?

カフェの参加申込フォームで「連携」というテーマについて知りたいことをお尋ねしたところ、心理士たちの切実な声が数多く寄せられました。

ざっくりまとめると、次の3つになりました。

1 職場や社会のニーズに応えられていない気がする・・・
2 連携・協働のコツ・やり方が知りたい
3 職場に制限があってうまく連携・協働ができない
         ↓
「どのように連携・協働すればいいか?」

それぞれ、具体的な内容は以下の通りです。

1「職場や社会のニーズに応えられていない気がする…」
 例えば「病院で働いているが、職場からは即効性のあるものを求められている。のんきに思われないだろうか」「国家資格になり様々な期待が寄せられているが、実際の実践との間にギャップを感じる」などなど。

2「連携・協働のコツややり方が知りたい」
 例えば、「考え方や感じ方がズレる人とどう一緒に支援すればいいか」
「他職種と一緒に働く中で、心理士の役割が何か分からなくなる」などなど。

3「職場に制限(勤務時間・予算・異動)があってうまく連携・協働できない!」
 例えば、「スクールカウンセラーとして校内の教育相談委員会を機能させるべく取り組んできたが、異動によって委員会の機能が残せなくなるかもしれない」
「放課後等デイサービスでは、ST・OT・心理士との連携が好ましいが、経営に余裕がなく手が届かない」などなど。

 この3つの意見に共通しているのはズバリ、「どう連携すればいいか迷っている」ということでした。
 さて、リスナー(参加者)の皆さんの気になっているところもはっきりしたところで、まず、メインパーソナリティの岡田さんが、今日のスピーカーの坂口さん、多田さん、木下さんの3人に「連携、協働」について自由に思うところを尋ねていきます。

■「気持ちの代弁」に終始していないか?

まず、坂口さんが行政の心理職としての多職種連携について話します。

児童相談所では、それぞれのケースの対応に際して、心理職(児童心理司といいます)と福祉職(児童福祉司といいます)とが組むのがメインになります。
つまり、常に連携の中で動いている。

 しかしながら、福祉領域では役割分担が曖昧な部分も大きいそう。児童福祉司は虐待通告の増加で多忙になっており、川崎市では例えば病院への子どもの通院の同行など、福祉職の領域と思われる仕事を心理司にしてもらえないかという話があるそうです。

 それは一概におかしいと言えないところもあり、児童福祉司は子どもに虐待する保護者たちと向き合わねばならず、職権で一時保護を行った場合、ほとんどの相手は当初対立的で、そこと向き合い、やり合うのは本当にしんどいことであり、また動かなくてはいけない案件を多数抱えているからです。

 そうした福祉職との役割分担におけるプレッシャーのなかで、心理職としての役割やアイデンティティとは何なのかについて悩むことが多い、ということでした。

 次に、多田さんが話されたのは母子シェルターで心理職ではなく、生活支援員として働いていた頃の体験です。当時、ある母子への対応を考えるため、会議に児相の心理士(=児童心理司)を招いたことがありました。

 会議ではケースにどうかかわるか、どう抱えていくかを検討したかったのですが、そのときの心理士は子どもの気持ちを代弁することに終始していました。そういうことをして欲しいのではないと思ったそうです。ちなみに、このときの体験から今後は心理士を呼ぶのはやめよう、となってしまったそうです。 
 実は、この多田さんの体験こそが、今回のカフェのテーマが決まるきっかけとなった「心理職による連携の失敗例」でした。こうした事態が起きてしまった背景について、多田さんは以下のことを反省点として振り返ります。

・会議が何を目指す場なのかの共有ができていなかった
・関係者がお互いのニーズを話し合えていなかった
・心理職に対する漠然とした大きな期待があった


ここで、スピーカーの坂口さんからコメントが入ります。

 確かに多職種連携では全体的な状況を見ていくことが求められる一方、最近の川崎市の児相では、心理士が全体の状況を見過ぎるあまりに、ひとりひとりの子どもの気持ちに留まれない、という真逆の事態も起きてしまっていると感じているそう。子どもの気持ちを大事にするという役割を心理職が果たせていない、と。
 多職種連携において心理職が全体的な状況やその場でのニーズを十分に把握することと、個人のこころに向き合うことのバランスの難しさを象徴しているテーマでした。

■心理士の議論には「結論」がない

 3人目のスピーカーの木下さんは多田さんの言われたことに自分も心当たりがあるということでした。

 木下さんはCOVID-19で職員のメンタル支援にかかわられたのですが、実は、その活動をやって初めて自分が「病院職員の一員」という意識を持つことができたそうです。かつては、病院や他の職員へのコミットは心理士としての仕事に(悪)影響を与える、「良くないもの」として捉えて距離を置いていました。

 つまり、自分も病院職員の一員という意識は乏しかったそうです。あるケースカンファレンスに出ていた医師からの
心理士さんのカンファには結論がない」
という言葉でハッとしたことが転機になりました。

 心理士は見立てなど、結論に至る前提やエッセンスは言うものの、それを踏まえて「どうするか」を言うのは苦手なのではないか?そもそも、傾聴して感じ、考えることが大切であって、「どうするか」を提案するのは良くないという前提があるかもしれない。

 そのために、空気を読むと何も言わなくなるか、クライエントについてのコメントは想いばかりになってしまう…。
 しかし、何をするのかをはっきりと言わないと、周囲も心理士に何を期待したらいいのかが分からない。
 そもそも何をするかという結論がないと、実際やってみてどうだったのかという結果について話し合うこともできません。
 だから、「どうするか」を心理的な理解と合わせて言うことができると面白くなるはずだと木下さんは考えているそうです。

■大切なのはこころを捉える視点を育むこと

 木下さんは精神科の看護師と働くときに、こころに関わるのは心理士だけではないことを意識しているそうです。

つまり、こころに関わるという専門性は排他的なものにはなりえない、と。

 こころには明確な区切り目がないのだから、送り迎えなどの一件具体的なものに思える業務にも確実にこころがかかわっています。その意味で、カウンセリングや心理検査といった具体的な業務の切れ目での分け方では、「こころに関わる」という心理士の専門性は把握しきれません。

 こころをどう捉えるか、その考え方を周囲に伝えられるところを心理士の専門性と考えてはどうかという提案でした。

ここでメインパーソナリティの一人である岩倉拓さんからもコメント。

岩倉さんは現在も東日本大震災の被災地支援に携わられています。その活動の中で、支援対象者との面談でも連携している保健師さんがだんだんと話に参加してくれるようになることを経験しました。

そんなふうに町のなかに心理(こころを見る)の視点が育ってくることが大事だと感じているとのこと。

スピーカー同士のやりとりを中心にだんだん話が盛り上がってきたところで、後編へ続きます!
https://note.com/azamino_analysis/n/n2bf8ca09180e


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