【短編小説】23時30分

他人の夢の断片短編小説

23時30分を永遠と繰り返す夢も見たよ。より


毎日が同じ日の繰り返し。

こういうフレーズをよく目にするが、実際は何かしらの変化があり

全く同じ日ということは無いのが現実だ。

しかし同じ仕事を毎日こなし、毎日同じご飯を食べているとそう思えてしまうのは目標が無いからなのか。


仕事を始めてからおよそ30年ほど経っただろうか。

毎日毎日そこそこ重い銅でできた製品を運び、まとめている。

かなり大きな会社に勤めているのだが下で働く人間たちは奴隷とさして変わらない処遇を受けていた。

毎日同じことを繰り返し、食堂で栄養管理された同じ食事を取る

会社名こそカッパー・ロジスティックスという立派な名前がついていて、全世界の銅製品のシェアNo.1でも末端社員の給料なんて砂を掬った手からこぼれ落ちる一粒の砂程度。

そんな待遇の中で仕事を続けるのは今の世の中なら仕方のないこと。


子供の頃はケーキ屋さんになりたいとかお花屋さんになりたいとか

そんな夢を見ていた気がするけど今となっては夢を見ることすら夢に見る。

女として生まれ、普通に暮らして普通に結婚すると思っていたのだが現実はそうは行かず、いろいろなことが起きて今の仕事に至る。

人生なんて何が起きるか分からないもんだな。

そう思いながら仕事の手を休めずに黙々と作業をする。


ビーッという毎日聞く音を聞き仕事を終わらせる。

他の社員と一緒並んで食堂へ行き、決まった席に座り、並べられたプレートに入った色とりどりの食事に手をつける。

無理やり美味しい感情を起こさせるこの味も毎日食べているので飽きないわけもなく。

しかしずっと同じなのだから飽きるというレベルを通り越して、もう何も無いのだ。


家も仕事場の敷地内にある寮に住んでいるので毎日が同じ景色になっている。


部屋に戻り、作業服を脱ぎ

狭いシャワースペースに入り汗を流す。

休日だろうと平日だろうと誰に会うでもないのにこの体は処理もしていないのにムダ毛もなくスベスベなのはあてつけ以外の何者でもなかった。

明日の仕事の準備を済ませ、洗濯物を干して

ふと時計を見ると23時30分だった

いつも時計を見るとこの時間だった。

そしてベッドに入り、目を閉じる。

瞬きをするかのように気付けば朝である。

毎日がそうなのだ。

顔を洗っているといつものように「ビーッ」という機械音で朝を感じる。


仕事場へ向かい、まず食堂で朝ごはんを食べる

晩御飯となんら変わらないプレートに入ったご飯はなんの気分も変えることなく喉を通る。


仕事がスタートして、また1日の作業が終わる。


食堂でご飯を食べて部屋に帰る。

また色々と済ませて時計を見ると23時30分

規則正しい生活は健全なのかはもうわからない。


そして次の日も同じ朝を迎え、仕事をこなす。

また洗濯物を干して時計を見る。

23時30分である。


電池が切れているわけでもなく、時計を確認すると毎日この時間なのだ。



ある年に人間への医療技術、研究が爆発的に進み

人間100年時代から不老不死時代へと突入した。

全人類への遺伝子組み換え手術により不老不死が確実となった時、多分全ての人が喜び、感謝したと思う。

それこそ私の体も22歳の頃から少しも変わっていないのだ。

私も例に漏れずに喜んだ。


でもそんな物は最初だけだった。


人間は死というタイムリミットがあるからこそやりたいこと、やってみたいことができるのだ。

何もしなくても生きることができ、何もしなくても死なないということは。

何もする必要がないのだ。


死ねない体になったからたくさん勉強ができる。

なんのための勉強?

たくさん遊べる。

なんのために?


死なない体にはなんの喜びも与えてくれないのだ。



全人類が不老不死になったことでさまざまな研究は進んだが

そのうちに全ての研究が止まり、無くなった。


死なないのだから必要がなくなった。



私が働くこの会社もやる必要のないことを無理やり作り出し、製品を別の場所に移して、また移して。

それを繰り返しているだけなのだ。

仕事をするという行動自体が必要であって

仕事をしないと呼吸すらも忘れてしまう

そんな不安と隣同士で生きている。


今日もまた23時30分の時計を見る。


私は永遠に変わらない毎日を過ごす。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?