見出し画像

世界一ウォーカブルな都市バルセロナ訪問レポート


バルセロナは世界一ウォーブルな都市

中村文彦先生が主宰するMaaSの部屋の「歩行者空間化を中心としたバルセロナのまちづくりについて吉村有司先生)」を聴講して以来、ずっと行ってみたいと思っていたバルセロナの訪問レポートです。

吉村有司先生曰く「ウォーカブル政策、市民に車に乗ってくれるなとお願いするからには、オルタナティブの足がキチンと確保されていないと説得力に欠ける。まず私たちが初めにやったことは公共交通の質を確保すること。」という言葉を体現しているバルセロナは、バス路線再編と街路の歩行者空間化を両輪で進める、世界で最もウォーカブルな都市の一つです。

実際に歩いてみて、2018年に訪れたフランスよりも歩行者中心の空間が多いように感じ、フランスのように街の中心の限られたトランジットモールエリアだけではなく、街のいたるところに車が入ってこない通りとテラスがあって、みんなとても楽しそうに過ごしているのが印象的でした。(平日の昼間から飲んでました)
※フランスもコロナを経て歩行者空間化が進んでいると聞くので簡単に比較はできませんが。

平日昼間からみんな飲んでる
行列ができる人気タパス屋の前のテラス席

吉村有司先生の研究では、バルセロナ等の街において、「歩行者中心の街路に立地する小売店や飲食店の売り上げは、非歩行者空間に立地するそれらよりも高い」ことを示しています。この街ならそりゃそうだなと思います。歩行者空間化された街路沿いのお店の前には必ずテラス席があります。お金を稼いでくれる席が敷地外にあるんだから売上は高いでしょう。日本では見つけるのが難しい素敵なテラス席、フランスでも少しは探さないとありませんでしたが、バルセロナでは視界に入らないことがないというレベル。振り切るとはこういうことかと思いました。


まず、バルセロナの都市、バルセロナが進めている政策のおさらいです。

バルセロナとは

バルセロナは、人口160万人(都市圏人口421万人)、面積101km²、ピカソ、サクラダファミリアで有名なガウディで有名な街です。
日本で言うと、海と山がある神戸市(人口160万人、面積557km²)、福岡市(人口160万人、面積343km²)にイメージが近いかなというのが私の印象。ただ人口と面積を考えると川崎(人口154万人、面積143km²)が日本で一番近い街になります(あくまで人口密度ベースで)。

市街地拡張計画

バルセロナの都市は、旧市街地と、1859年の拡張計画によって建設された正方形の街区(一片が133mで1000個、ブロック)が並ぶ新市街地で形成されています。
この新市街地を計画したのは、イルデフォンソ・セルダ(都市計画家・土木技師)さん。当時はこのグリッドシステムは全く評価されず、現代になって「先見の明がある都市、革新的な都市」と評価されているそうです。

出典:http://web.kyoto-inet.or.jp/org/gakugei/judi/semina/s1205/abe005.htm
手前が旧市街地、奥が新市街地(ブロック)
サクラダファミリアもセルダブロックの1街区

バス路線の改良

バス路線の改良計画は上記のブロックを生かして東西方向(水平)、南北方向(垂直)に再編されています(おそらく2010年頃からやっていると思われ、現在完了している)。

これによって、最大でも1回の乗り継ぎで目的地に行くことができます。またバス停は大体400m毎(歩いて5分、ブロック3つ分)に配置されていて、「日本で言う所のコンビニの様な存在にしようじゃないか!」という考え方で計画したそうです。確かにバスに乗っていて、バス停の間隔が短いなぁと感じつつ、これならちょっとそこまでバスに乗ろうという気になるので、この配置はとてもいいと思いました。
以前の私の記事でそんなことを書いていますが、体現している素晴らしい街です。

路線名も工夫されていて、水平の路線はHorizon(水平)の頭文字Hをとって「H20」とか、垂直の路線はVertical(垂直)の頭文字Vをとって「V18」という記号がついています。
ただし、HやV以外にも路線はあり、googlemapが便利すぎて、正直HとかVは気にして乗っていませんでした。(小声)
詳しくはバス路線改良計画を担当した吉村先生のブログを読んでみてください。バス停の設置と広告料の話など、とても面白いです。

南北、Vertical(垂直)の路線
出典:http://blog.archiphoto.info/?eid=1170754
東西、Horizon(水平)の路線
出典:http://blog.archiphoto.info/?eid=1170754
出典:http://blog.archiphoto.info/?eid=1170754

ただ、残念なのは、この改良によって、どれくらい利用者が増えたのか、そもそもバルセロナの公共交通利用者はどれほどいるのか、交通機関分担率は・・・というデータを見つけることができませんでした。データ活用で有名なバルセロナですから、必ずデータはあると思います。見てみてみたい・・・そして日本の都市と比べてみたい。公共交通のサービスレベルで言えば日本の都市は全然負けていないと思いました。

スーパーブロック

スーパーブロックは、バルセロナが2016年から進めている街路の歩行者空間化施策です。133mのブロック9個を1つの大きな街区(スーパーブロック、400m四方)と捉えて、その内部への自動車の侵入を抑制するものです。

Phase1では、一方通行化、制限速度を20kmなどで自動車侵入を抑制し、歩行者を優先する。
Phase2では、車線の変更や制限速度を10km/hにするなどで、域内の街路空間を滞在可能な歩行者空間化する。
特徴はフランスのようにトランジットモール(完全に自動車を排除する)にするのではなく、お願いベースで車に入ってこないでもらう。このためにも公共交通の改善が必要なんですね。そして、とても多くの街区がPhase2になっている印象でした。

出典:バルセロナ市HP スーパーブロック
黒線が自動車、黄・緑が歩行者優先

このスーパーブロック計画によって、車道を減らし(912km/1484haから355km/815ha)、オープンスペースの面積を増やす(230haから852ha)ことを計画しています(下記4つの図参照)。車道とオープンスペースの面積を逆転させる試みを進めているのです。そして本当に計画通りに進んでいる姿を見て、その実行力に脱帽です。

道路ネットワーク(2019年)出典:https://www.vox.com/energy-and-environment/2019/4/11/18273896/barcelona-spain-politics-superblocks
道路ネットワーク(2030年)出典:https://www.vox.com/energy-and-environment/2019/4/11/18273896/barcelona-spain-politics-superblocks
オープンスペース(2019年)出典:https://www.vox.com/energy-and-environment/2019/4/11/18273896/barcelona-spain-politics-superblocks
道路ネットワーク(2030年)出典:https://www.vox.com/energy-and-environment/2019/4/11/18273896/barcelona-spain-politics-superblocks

実際に歩いて撮った写真をいくつか紹介します。

トランジットモールではなく車が入ってこられる。速度制限のため車はとてもゆっくり。いろいろなモビリティが共存しているシェアドスペース的な空間になっている。
商業区(飲食店の前)ばかりではなく、居住区の中。住民の団欒の場になっている。
ここでも車は入ってくるがとってもゆっくり。
スーパーブロックとスーパーブロックの境界
スーパーブロックの真ん中にあるサクラダファミリアの前も歩行者空間化されている

最後に公共交通などへの感想

公共交通のデザイン

バルセロナの公共交通は、地下鉄、バス、フニクラ、シェアサイクル(公共交通というかさておき)と多様なものがありましたが、車両や施設など多くを赤でカッコよくデザインされていました。赤を見ると公共交通!ってなるのいいですよね。
ちなみに、世界中で物議を醸しているシェアキックボードはバルセロナでは見かけませんでした。パリでも無くなっているようですし、昨年レポートしたヘルシンキでも削減しているようです。日本はどうするのでしょうか・・・

地下鉄。ベンチも赤い!
連接バスも赤。手前の自転車はシェアサイクル。
バスの車内。乗っている人の服も赤い!そして若者、子供がたくさん乗っているんです。
シェアサイクルも赤い。

バルセロナ・フラワー

バルセロナ市のシンボル・マークであるバルセロナ・フラワー。バルセロナ市の公共物や、土産物、ポストカードなどでよく目にします。市のシンボルマークが歩道に埋まっているのもいいですよね。ウォーカブルが市民の身近なものに。

バルセロナフラワー(左のフラッグ)
バルセロナ・フラワーのタイル
バルセロナ・フラワーを使ったエコバック。お土産に買いました。

バスのバリアフリー化

バスって段差があってベビーカーを乗せにくい。日本でバスに乗る時いつもどうにかしたいと思っていました。けど歩道の改修ってかなり大変だよなと悩んでいました。そんななか、バルセロナでは、車道潰して後付けで段差を解消していました。なるほどこういうのでもいいんだなと目から鱗でした。

車道を潰して盤上げして段差を解消している。
自転車道に盤を張って、バス停の段差を解消する。優先すべきは歩行者。

最後は公共交通の運賃施策

バルセロナの公共交通には共通のICカードT-mobilitatがあります。しかし利用者登録などして後日郵送などと手続きが大変で旅行者向きではないので手に入れられませんでした。

その代わり、T-casualという10回分の紙の回数券を購入。一回2.4ユーロのところ、10回分で11.35ユーロと割引率約50%。
バルセロナのバスは結構遅れ気味なので、高い割引率で回数券への転換を促して現金支払いを減らし、現金支払いによる遅延を防止するにはとてもよい策だと思いました。
またT-casualで地下鉄、バス、フニクラ、トラム、鉄道などどれでも乗れるのも分かりやすくていい感じです。運営者がATM(Autoritat del Transport Metropolità:都市輸送公社)と一社なのでできることだと思います。
滞在中、地下鉄、バス、フニクラ、トラム、とほとんどのモードを制覇し、10回使い切りました。

T-casual

さらにバルセロナは、脱車へのインセンティブとして、「マイカーを廃棄すれば、公共交通機関の使用が3年間無料になるT-verda」を支給しています。
まさに、「市民に車に乗ってくれるなとお願いするからには、オルタナティブの足がキチンと確保されていないと説得力に欠ける。」に応える施策と言えます。
いやすごいですよね、どこまで振り切るんでしょうか。今後のバルセロナが更に楽しみです。

以下の理念も素晴らしい。

「都市圏での交通費が3年間無料」とだけ聞くとメトロやバス会社の財政が少し心配になるが、公共交通機関は利用者数に関わらず一定の運行を続ける固定費であるため、運営会社にとって無料ユーザーが増えることは大きな問題ではない。

むしろ、道路の摩耗や事故による損傷など、交通量の多さに伴う道路の修繕費を節約できるため、全体で見れば、行政にとっては環境保全以外の面でもメリットがあるのだ。

https://ideasforgood.jp/2021/12/23/barcelona-t-verda/


2023.9.14追記
この度の後悔は動画を取らなかったこと。X(旧Twitter)によさそうな動画あったので追加しておきます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?