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うたがわきしみの宇宙Ⅱ

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140文字では収まりきらなかった、うたがわきしみの世界観。コラムやエッセーやうわごとじゃない。あくまで、なにかしら、きしみの宇宙を匂わす作品になっているものたち。主に詩。ギャグ系…
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2017年3月の記事一覧

『地獄の沙汰』

病葉宗一郎《わくらば そういちろう》、 お前は生前、うっすら、微妙に 悪い奴だったようだな。 よって……それ相応の報いを受けてもらう。 お前の罰は、毎日日替わりで、 必ず歯に何か挟まって、 舌先でつんつんほじっても 歯をゴシゴシ磨いても絶対にとれない、 という罰だ。 半永久的に。 そこはかとなく慎んで、罰を受けるがよい。 まずは今週のメニューを発表する。 よくきけ。 月曜日はほうれん草。 火曜日は豆もやしだ。 水曜日はトウモロコシ。 ……少々、無難すぎるな。担当者

『うたうみなも』

ふっと 力を抜いて 緑から青へ 泳いでく そっと 吐息が揺れて 薄桃色に 咲いている いのちの谷間をすべる 朝と夜と 月は溶けて 星が泣いて 太陽は白い紙になって胸ポケットへ 銀河の底には詩人の死骸がいっぱい 赤い光を見つめて 桜色のびいどろが星雲を創る さんざめくさざなみ 些細な言葉で救われて 風に灯がともる 壊せない宇宙の群れ 夜干玉色の常闇は シルクの手触りで行き過ぎて にわかに粒だち ときめく黄金 すべてを赦され 生まれたる うた ※夜干玉色(ぬばたまい

『きしみ』

「きみ」が 「きしみ」の 「詩」を詠むとき 「きみ」は 張り裂け 軋むだろう きみ――「き」と「み」が張り裂け 軋み その体に「詩」が入り 「き 詩 み」となる それは 張り裂けた きみの 「き 死 み」でもあり もうひとりの き死んだ ボクでもある 言葉の河から 詩(うた)が生まれるとき そこには必ず うめき声にも似た軋み――き死み――がともなう 歌え 唄え 謳え 謡え 詩え、もうひとりの き詩みたちよ 詩河 軋(うたがわきしみ) https://no

『寂しさの正体』

“寂しさ”かあ。 まあ、人それぞれ自分だけの寂しさレンズを持ってるだろうし、 レンズによっちゃ、なんでもかんでも寂しく見えちまうだろうが……w そうさな、乱暴にくくっちまっていいなら、 寂しさには二種類あるんじゃねえかな。 1つは、タチの悪い友人みたいなヤツで、 普段なにげなく過ごしてるときにはとんと顔を見せない。 そのくせ――たとえば学校帰りだ。 公園で友達と暗くなるまで遊んでいたとする。 「○○ちゃん、もうお夕飯だから帰るわよー」 「はーい! 今日のごはんは何かなあ?

「お空さんも悲しいことがあったんだね」 娘のリウが降り始めた雪を見上げてつぶやいた。 どうしてそう思う?と尋ねると「リウね、お母さんが死んで悲しかったとき、ハサミでお手紙をたくさんチョキチョキしたの」 「そうか…」言って私も空を見上げた。 バラバラになった手紙が飽かず降り続けた。

『もちねこの…』 もちねこ。モチのネコ。 白くてモチモチして。引っ張っちゃう。 ぬあーって。 わ。こY。なんかこYよ。 でもやめられない。ぬあーって。 あ、うんち!? するんだ、うんち。てかナニコレ綺麗。 ピンクのジェリービーンズみたい。 うんちものびるのかな。 ぬあーって…

『肉食ですまない。』

まずあんたが来い。 んで抱け。 あたしを狂ったように抱きしめろ。 チューもしろ。 おもむろに舌も入れてこい。 あたしを貪れ。 存在を欲しがれ。 回した手は腰から尻に「あん💓」 そうだ。さぼるな。 揉め。撫で回せ。 いつくしめ。 こら、胸がお留守だ。 顔をうずめんかい。 窒息しろ。おぼれろ。 話はそれからだ。

帰るべき場所ってのは……本当は、場所じゃない。人だ。いや――君だ。君がいるところだ。そこに、僕は帰る。帰らなきゃいけない。そう、君をこの手で殺せたとき、僕らはきっと、初めてわかりあえる。二人で暮らそうと思ったとき、僕らは死んじゃう系。二人でお互いを孵してあげよ。まっさらな宇宙に。

魔神が地球の1/3を滅ぼした頃、僕はそれを横目にあっつあつのたこ焼きを頬張っていた。ソースは辛口。悪くない。本当に好きな下北のたこ焼き屋さんはつぶれちゃったけどね。ここのはタコも大きいし、なにより外がサックサクで中がとろっとろで、一口でいくと口の中で転がせないほどボリューミー。

ふいに野性に返り咲いた犬歯が濃い口の表面をがっと穿つと氷砕船の如き荒々しさで容赦なく分け入り、あられもない香ばしき大陸を粉々に打ち砕いた。睦み合う謂れを失った醤油色の瓦礫が未だ独立性を懇願しながらも後続の歯牙共に矢継ぎ早に噛み砕かれ、憐れな藻屑と化していく。歯が煎餅を襲ったのだ。

うちな、あんたが死んでからやっとわかってん。うちはずっと、こんなに豊かな宇宙の隣におってんなって。それがもう二度とないねんなって。あんたが残したもんだけが、今のうちの棲みかやわ。宇宙一綺麗な宇宙。おおきに。喧嘩もようけしたけど、今でもうちはあんたの夢の奴隷や。せやろ? ほなまた。

『青い歌』

今日から僕は あなたたちのものでは なくなってしまう トランクにつめたはずの空が 瞳からこぼれていく 今日から僕は あなたたちのものでは なくなってしまう 自分の海に 嘘がつけなくなったから 今日から僕は あなたたちのものでは なくなってしまう 取り残された白い患者たちは全員死ぬだろう それでも背中を押してくれた 夜明け前に遠ざかる白い家が 一歩一歩朽ちていく 独りの道は 時間が止まったように静まりかえって 物音ひとつ聞こえない 見渡す限りの青い世界で 誰