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牡蛎フライ光と四天王つゆ

夜の田舎道は暗い。しかし街中は眠ることがないようにいつまでも明るい。街灯、コンビニの照明、飲食店のネオンサイン、車のヘッドライト等々。
人々がひたすら明るくして恐ろしい闇を駆逐してしまったような。日が暮れてから調理していると、ふとそんなことを考えた。


材料

牡蛎 大粒8
卵 1
大豆肉 (粒状) 適量
米粉 大匙4
塩 適量
揚げ油
水 適量

電気という光がない時代、鬼や妖怪という魔を退治してくれるのは神ではなく、特別な能力を持った人という伝説や説話がよく伝わっています。
具体的には剣術の達人は飯縄使いと呼ばれ、宮本武蔵にも姫路城に潜んでいた刑部姫を鎮めたという伝説。
令和の今はあまり聞かなくなりましたが、昭和の頃まで力士は力人と呼ばれ、超人的な力の持主ということから、力士に抱いてもらった赤子は丈夫に育つと言われていました。


塩水で洗った牡蛎の水気を切り、しっかりとキッチンペーパー等で拭く。

1000年以上も前の平安時代。夜の闇は今とは比べ物にならない深さであり、そこにはもしかしたら本当に魔の眷属が潜んでいたかもしれない。そうした者達を退治してくれる存在として語り継がれたのが源頼光。よりみつという名前ですが、音読みしてライコウと呼ばれることもあります。彼と特に武勇に優れた家臣四人は四天王と呼ばれ、魔族を退治した話が今昔物語集等によく出ています。
渡辺綱、坂田金時、碓井貞光、卜部季武が四天王。

卵と米粉をボウルに入れて混ぜる。

渡辺綱は茨木童子という鬼と遭遇して、鬼の片腕を切り落としたという強者。坂田金時とは足柄山で山姥に育てられたという伝説の人物。つまり足柄山の金太郎です。
主君である頼光は清和源氏の三代目で、摂津源氏の祖。土蜘蛛や宮中に巣くう狐を退治したという伝説の武人。

水を徐々に混ぜて、固めの衣を作っていく。

彼等の魔物退治でもっとも有名なのは、大江山の酒呑童子退治。
酒吞童子という鬼が夜な夜な都に出没、貴族の娘などが攫われる事件が頻発。安倍晴明の占いの結果、頼光と四天王が退治に行くことに。
途上で神の使いに遭い、神変鬼毒酒という酒を授かります。人や神が飲んでも害はないが、鬼が飲むと金縛りに合うという代物。
山伏に化けた一行、首尾よく大江山のアジトに潜入。

牡蛎に衣を付けていく。

酒盛りに持ち込み、ついに神変鬼毒酒を口にした酒呑童子は思うように動けず、頼光らに討ち取られます。
その首は都に持ち帰られ、平等院の宝蔵に収められたといいます。

後は粒状大豆を纏わせてから、油で揚げていく。
(写真を撮り忘れた)

暫く置いて油を切る。

酒吞童子というのは、もしかしたら鬼ではなく盗賊だったのかもしれない。都で女性が攫われていたのは人身売買が目的?

酒吞童子が鬼だったにしろ、盗賊だったにしろ、闇に潜む存在を倒してくれる超人。つまり源頼光と四天王は平安京のゴーストバスターズ?
ほぼ同じ時代に生きていた安倍晴明も陰陽師という特殊な存在であり、式神という物を使役する超人。
今昔物語集や御伽草子によれば、大略、以上のような話として伝えられています。

今回、作った牡蛎フライ、米粉を使っていて、パン粉の代わりに粒状大豆肉を衣にしています。つまりグルテンフリー。
タルタルソースや中濃ソースもいいのですが、これに合う漬け汁を発明。

材料
大蒜 一欠け
生姜 一欠け
醤油 
出汁つゆ(麺つゆ)

大蒜と生姜は擦り下ろし、醤油 3:出汁つゆ 2:水 2の割合で混ぜ合せる。
水を除けば、4種類の材料ということで、四天王つゆと命名。

牡蛎フライ光と四天王つゆ

魔物退治の話が伝わる四天王ですが、笑い話のような話も今昔物語集に記載。
平貞道(碓井貞光?)、平季武(卜部季武?)、そして坂田金時らは賀茂祭りの見物に借りた牛車に乗って出かけることに。しかし普段は馬にしか乗らないので作法も知らず、前後を反対に乗ったり、揺れる車の中で酔ってしまい、道々、吐いてしまったりとか散々なことに。
彼等の目当ては祭りの行列だったのですが、すっかり気分が悪くなり、牛車の中でぐったりと寝たきりになり、それも見られずじまい。
慣れないことはするものではないと語ったと結ばれています。
魔物退治の達人として持ち上げているかと思えば、こき下ろしているような?

つゆを掻けて食べる。

米粉と大豆肉の衣、あっさりした感じで、四天王つゆがよく合う。
牡蛎には亜鉛やタウリン、大蒜にはアリシンという強壮成分。
生姜は体を温める効能があるので、冬場にはよく食べたい食品。

現代人はすっかり闇を駆逐してしまい、見えない物への恐れも克服した気になっているかもしれません。しかし、闇の中にはもしかしたら本当に魔物がいるかもしれない。目には見えなくても存在しているかもしれない。或いは魔を装った人間が潜んでいるかもしれない。何にしろ、用心や畏れという感情が欠落しつつあるのではないか。そこに少し危うさを感じてしまうこともあります。
そんなことを考えながら、四天王つゆにつけた牡蛎フライ光をご馳走様でした。

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