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鰆しべ長者

魚へんに春と書いて鰆。正に今が旬の魚。身が柔らかく、骨も少ないことから昔から日本人に愛されてきた魚である鰆を料理しながら、昔話を妄想した記録。


材料

鰆の切り身 2切れ
葱     1/4
塩麹    大匙2
胡麻油   大匙1

鰆、さわら、わら、ということでわらしべ長者を妄想することに。
昔、まんが日本昔話というアニメーションがありました。アニメというわかりやすい媒体で、母国の昔話や伝統を子供に教えてくれる良質な番組でした。今はもうこういうアニメはありませんね。というかアニメ自体が子供向けではなくマニア向けになってしまった感があります。ということで、最近の若者の中には「わらしべ長者」を知らない人もいるかもしれないので、まずは物語から。


葱の青い部分と白い部分を微塵切り。

昔、ある所に貧しい男がいました。男は観音様に願掛け。
「どうか、せめて人並みな生活が出来るようになりたい」
すると観音様のお告げ。
「この寺を出て、最初に掴んだ物を持って旅に出なさい」
そして寺から出た男、途端に転倒。立ち上がると地面に落ちていた藁を掴んでいました。溺れる者は藁をも掴む?
観音様が言っていたのはこれかと、男は藁を持って歩き出す。
歩いていると、虻がまとわりついてくる。うっとうしくなったので、男は虻を捕まえて藁に結び付ける。小さな虻を捕まえて藁で結べるとは器用です。
飛ぶ虻を結び付けた藁を持って歩いていると、それを見た子供が欲しがる。
親が譲ってくれないかと持ち掛けてくるが、男は観音様のお告げだから譲れないと返答。
子供は泣いて欲しがり、親は蜜柑と交換してくれないかと提案。それならばと男も交換に応じる。
更に歩いていると、猛烈に喉が渇いている商人。男が持っている蜜柑を自分が持っている反物と交換してくれと懇願。


鰆に切り込み。

反物を持って歩いていると、倒れている馬と侍と家来。男が訳を尋ねると、侍は急いでいるので、馬を捨ててでも先を急がねばならないと語る。どうやら馬は死んでいる風ではない。せっかちな侍は家来に馬の始末を命じて走り出す。
残された家来はどうしたものかと思案。男は持っている反物と馬の交換を申し出る。家来も急いで主人の後を追わねばならないので、渡りに船とばかりに反物と馬の交換に応じる。
男が水を汲んできて飲ませると、馬は回復。男は馬に乗って旅を続ける。
やがて大きな屋敷の前に。そこの主人、これから旅に出なければならないので、馬を貸してくれないかと持ち掛けてくる。旅の間、屋敷を使ってよい。更にもし三年経っても戻らなかったら、屋敷を譲るとの申し出。
結局、三年待っても五年待っても主人は戻らず、屋敷は男の物に。こうして長者になりました。


混ぜ合わせた塩麹、葱、胡麻油を鰆にかけ、30分漬け置く。

わらしべ長者、原話は今昔物語集に収録されています。以前、今昔物語集について書きました。↓

この話、観音菩薩の霊験譚、つまり御利益話であり、仏教説話が多い今昔物語らしく感じます。
また、物語の発端である観音様を祀る寺は大和(奈良県)の長谷寺。
朱鳥元年(686)に僧侶、道明が三重塔を建立したのが始まりという寺伝。平安時代には既に存在していたので、物語の舞台になっているのは頷ける。


漬け置き碁、魚焼きグリルで時々、引っ繰り返しながら2全面を20分位焼く。

昔話とか説話には何等かの教訓が含まれていることが多い。わらしべ長者の教訓とは何か?
観音様を信心すれば長者になれる?という単純なことではなく、ビジネスにも通じるwin-winな関係について説いているのではないかと深読み。
男は相手が欲しがっている物を相手の言い値で交換。欲しがっている相手の足元を見て、高く売ってやろうとかもっと寄越せという風なことは一切、やっていません。
取引をした相手が喜び、自分の持っている物の価値が段々と大きくなっていく。これこそ日本的ビジネスのロールモデルではないか。
昔ながらの欧米的ビジネスは自分がどれだけ多く分捕るかが基本。20,30年前に話題になったハゲタカファンドは典型。弱っている或いは意図的に弱らせた相手を安く買い叩く。あまりこれをやっていると、一時的な利益は得ても恨みを買います。
自分も相手も納得して得をする。これが日本の商売の基本。


鰆しべ長者

青魚である鰆にはDHAやEPAが豊富。味覚を正常に保つ亜鉛や体の基たるタンパク質も。葱のアリシンやビタミンも頂け、栄養もよし。
身も柔らかく、塩麹の柔らかなしょっぱさがよく合う。普通に塩焼きにするよりも、この一工夫が更なる美味を呼ぶ。

win-winなる英語が聞かれるようになったのは精々、21世紀に入ってからのこと。欧米社会でもようやく従来の強奪型ではなく、互いに納得出来る取引の方が関係も長続きして、信用も利益も長期的に大きくなるという方向にシフトを始めたか。
win-winなる言葉が出来るよりも千年以上前の平安時代の日本では、既にそれが確立していた。日本の方が遥かに進んでいたのです。ようやく世界が日本に追いついたか。そんなことを妄想しながら、鰆しべ長者をご馳走様でした。


#春の旬食材レシピ

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