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塚原卜お伝

いよいよ寒くなってきた。そうなると温かい鍋料理の出番ということで、おでんを煮ながら、戦国最強とも言われた剣聖について妄想した記録。


材料

昆布    5センチ
鰹節    たっぷり
醤油    カップ1
卵     4個
大根    1/4
薩摩揚   あるったけ
ジャガイモ 2個
青海苔   お好みで

その他、具は好きな物を入れればいいのがおでんという物。

延徳元年(1489)常陸国(茨城県)鹿島神宮の神官の一家、卜部家の次男として誕生。
鹿島神宮に祀られているのは武御雷神という武神。そのため鹿島は剣術の発祥地とも言える所で、卜部家も鹿島中古流を伝承。初名を朝孝と言った卜伝も幼少から修行。力、技共に優れていることが知られるようになり、塚原城主、塚原安幹の養子になり、名を塚原高幹と名乗り、養父からは香取神道流を学ぶ。よく知られた名前の卜伝は後年に名乗った号ですが、便宜上、ここでは塚原卜伝で統一。


輪切りにした大根に切り込みを入れ、昆布と共に圧力鍋で煮て、柔らかくする。

十七歳の時、諸国修行の旅に出る。向かった先は京の都。
清水寺の辺りで真剣勝負に勝って以来、畿内を巡り、真剣勝負17回、戦場に出ること37回、木刀での仕合は数百度、無敗という戦績。
刀や槍で傷を受けることもなく、矢傷を6箇所受けたのみ。
この頃の勝負で小薙刀の名手、梶原長門との一戦。
梶原は切る前に相手の何処を切るかを告げて、相手が如何に其処を防御しようとも切ってしまうという達人。
対峙した卜伝はそれを逆手に取り、梶原の何処を切るかを先に告げて、その通りに斬り殺す。
「人殺しを楽しんでいる風がある梶原を生かしておいては、多くの者が死ぬ」故に殺したと言った。


茹で卵を作る。

そうは言うものの卜伝自身も武者修行で多くの命を奪っている。
212人というのが卜伝が斬った人数。
盛っているかもしれませんが、これだけの人命を奪うと、幾ら戦国の世、武士の習いとはいえ精神に不具合を生じてしまったのか、卜伝は故郷に帰り、やはり剣豪として知られた松本備前守に預けられる。
行く道に迷う卜伝に備前守は鹿島神宮での参篭修行を勧める。それに従い、卜伝は1000日間、鹿島神宮に籠る。ということは3年近く?
満願の日、白髪の老人が現れ、木刀で打ちかかって来る。卜伝はそれを無意識の内に撃退。これが秘剣、一の太刀誕生の経緯。
二の太刀要らず。つまり一刀の元に敵を退ける剣。戦いを最小限で終わらせる技。鹿島神宮の神、武御雷は力がありながらも出来るだけ話し合いで争いを収める性格の神と言われ、老人はその化身だったのだと卜伝は理解。


ジャガイモも下茹で。

そして卜伝は二回目の回国修行。今回の目的は主に精神の鍛練。
それを象徴する逸話が「無手勝流」
乗合の船で川を下っていると、乗り合わせた若い武士が高名な卜伝が乗っていると知り、勝負を挑んでくる。
相手にしなかった卜伝ですが、あまりにもしつこく絡み、他の乗客にも迷惑が及びかねない状況。
「わかった。そんなに言うなら」ということで、卜伝は船頭に近くの中州に船を着けるように頼む。
足が着きそうな浅瀬にまで来ると、勢い込んで若者は船から飛び降りる。
先に有利な足場を確保するためか。
すると卜伝は自ら櫂を取り、船を島から遠ざける。
「卑怯者、逃げるのか」と相手が幾ら怒鳴っても、
「戦わずして勝つ。これぞ無手勝流」と卜伝は呵々大笑。


醤油と昆布、出汁パックに詰めた鰹節をいれた汁を適度に水で薄めて、具を投入。

父の死を聞いた卜伝は故郷に帰り、妙という女性と結婚。城主の座を継ぐ。
しかし10年後に妻に先立たれると、三度目の回国修行。
今度の修行は自身が編み出した鹿島新当流を世に広める為。いわば宣伝を兼ねた修行と言うべきで弟子を80人引き連れ、乗り換えの馬を二頭、大鷹を三羽連れていたとか。
この回国修行で剣技を伝授したのは高名な武士が多い。
代表的な人物は室町幕府十三代将軍、剣豪将軍こと足利義輝。伊勢国司の北畠具教。
意外な所では今川氏真。
桶狭間で討ち死にした今川義元の嫡男ですが、蹴鞠が得意で父の仇である信長の前でも蹴鞠をしてみせ、格下だった筈の家康に庇護を受けて生き延び、大名家としての今川家を潰したことで文弱なイメージがありますが、卜伝の弟子だったので、個人的にはそれなりに武術を身に付けていた?


20分位煮た。

やがて老いた卜伝は跡継ぎを三人の息子から選ぶことにして、ちょっとした試験。
部屋の戸の上に木枕を仕掛ける。昔、教室の戸に黒板消しを仕掛けたようなものです。開けたら木枕が落下。
最初に来た長男は仕掛けに気付いて、おもむろに木枕を外して部屋に入る。
次男はそのまま戸を開けて、落ちて来た木枕を素早く躱す。
三男も戸を開けて、木枕落下。素早く抜き打ちで真っ二つにしてみせた。
この結果を見て、卜伝は長男を後継者に決定。
周囲をよく見て、事前に危難を避ける。これこそ戦わずして勝つことに繋がる無手勝流。


味がよく沁みた。

卜伝自身にも事前に危機を避けた逸話。
馬の後ろを歩いていた弟子が突如、後ろ脚で蹴ろうとした馬の攻撃を素早く躱した。
一方、師の卜伝は馬の後ろを大きく迂回して歩く。
「馬は急に跳ねることがある。危うい所は初めから避けるべし」
君子、危うきに近寄らずということ。
無益な争いや危難に会わないように、最初から予想しておくのが肝要。


塚原卜お伝

静岡ではおでんに青海苔や出汁粉を掛けますが、それを真似て青海苔を掛けてみたが、これはよく合う。磯の香が加わり、カツオ出汁がより際立つ。
圧力鍋で煮た大根やじゃがいもが柔らかい。
辛子を少し付けて食べる卵もいい。
具材から様々な出汁が出ている。
魚のすり身が原料の薩摩揚、卵からも良質なタンパク質。大根やジャガイモからはビタミンCや食物繊維を摂取。

老境の卜伝、囲炉裏で煮炊きしていると、勝負を望んで来た者あり。
宮本武蔵。
卜伝はまるで構わず、鍋に向かっている。
焦れた武蔵は木刀を振り下ろす。しかし卜伝は鍋の蓋で武蔵の攻撃を受け止める。
鍋蓋仕合として知られる話ですが、これはドリームマッチ。
月岡芳年が描いた錦絵で知られる対決ですが、武蔵が生まれたのは卜伝の死後。有り得ない勝負ということ。名高い剣豪と剣聖の対決を見てみたいという願望が生んだ話。
現代にまで受け継がれる鹿島新当流を編み出した剣聖を妄想しながら、塚原卜お伝をご馳走様でした。

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