#2 アメーバ

河原の小石のようにバラバラの個体のまま生きることを許されてきた小・中学生のクラスメイト達の殆どと高校入学時に分かれ、隣町の進学校へ入学したはいいが、驚くべきとことにここにきて急に「女子高生のコード」が出現した。

高校の3年間でわたしが一番困ったのはクラスメイト(特に女の子)の見分けがつかず、一人一人の識別が出来ないことだった。
卒業するまでに、2割・・1割の生徒の名前も覚えられていたか怪しい

わたしの暮らす山深い町より繁華な場所から集まった女の子達は、過疎地の子供よりはまだましな文化的資本力を元に、微妙なトレンドの移り変わりに各々目を配りながら理不尽な校則の縛りの厳しい地方の学校の女子高生として許される範囲で、自身のヘアスタイル、制服の気崩し方、靴下の丈の長さ、シャープペンのブランドに至るまで、この「暗黙の内に了解されているイケている女子高生のコード」から是か非かを照らし合わせ、こと細かく入学時から既にそのスタイルを踏襲仕切っていた。(そしてこのコードが誰のどういう美意識から作られどういう伝達方法で共有されていたのかは、未だによく分からない。当時の10代の女の子達のファッションから生活に至る迄のトレンド、校則の縛り、各メディアから伝達される「女子高生像」等複雑に絡み合い関係し合った結果が生身の学生の表層に現れて来るのであろう)

入学前の制服の採寸時から、彼女達は寸胴に見えない校則ギリギリ許されるサイズを細かく業者に指定しているのをわたしは目撃した(わたしは何も考えず採寸係の計るままに制服を作ったので言うまでもなく3年間野暮ったかった)。
クラスメイトの女子の8割が、髪形から制服の着こなし方から(これは偶然だろうが皆同じくらいの背丈と体形だったため)明言化されている訳でもない暗黙のコードを遵守していたため、この女子の定型から外れた生徒は悪く言えば悪目立ちし、更に悪く言えばまるで存在しないかのように、積極的な係わり合いを持たれる事無く何となく無視されていた。

出だしから躓いたわたしは、後は学生で女であること以外自分がこの世界でどういう属性の人間に分類されるのかを掴みあぐね、(絵を画くことは好きだけどオタクでもないし、文化資本の貧しさと自分の気質から美術の世界に勝手に疎外感を感じていたためアート志向にも振り切れず)勝手に意識の外で作られた暗黙のコードを守っていないために疎外されることに毎日何かが腑に落ちない感情に苛まれ、踏まれれば踏まれるまま凹み、吹き込まれれば膨らみ、小さな悪意一刺しで破裂し、四散した細胞をつど拾い集めては何となくグチャグチャした不定形な体を留めることに必死な、アメーバのような女子として滅茶滅茶に、寄る辺なく生きていた。

けれども彼女達に理不尽さを感じながらも、暗黙のコードを器用に読み取れないでモタモタしている自分の鈍くささをちょっと恥ずかしく思ったし、そういったことに気が回らない自分の社会性に不安を抱くようになった。

そして多数者に気安く同調したくない自分と、他人の視線を過度に気にする自分の相反する感覚が同居する気質にも激しく振り回されていた。

続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?