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詩 『狗の河原』


狗の河原


赤い虹が沈んでゆくのをずっと眺めていて
青黒い夜が降ってきたら星に願いを込めて
ノットスウィートバットビターな
16歳の頃には思う「つよくなりたい」
泣けなくて痛い鼻の奥


流れるBGM「Homeward Board」
あてどなく思う「どうすればいいのか」
握り締めるナイフ「取扱いにご注意下さい」
渡された風俗のティッシュ「made in heaven」


  *


今は帰れない
今のままじゃわたし帰れない
こんなわたしでは
まだ
今はまだ帰る家がない
そう思って人混みの繁華街
うるさい光は妙に暗くて
携帯電話を握り締めて


流れるBGM「センチメンタル・ファッキン」
あてどなく何度も思う「どうすれば良いんだろう」
握り締める剃刀「取り扱いには充分ご注意下さい」
渡された風俗のティッシュ「Girls, made in heaven」


みんなきらいだ


  *


希望都市ヒカリ伝説ココロの電話相談室の
電話番号を押したら繋がって
大丈夫、今いくからね、と云われて
乱暴な狗が迎えにきて、河原へいきました


ごめんなさい、わたし、河原へいきました
家がないと云って、河原へいきました


ごめんなさいなんてなんべん云ったって
わたしは元には戻れない
パパもママもきっと叱らないけれど
流れた血は元には戻らない
だからもう帰れない
今はもう帰る家がない


ちいさく、もっとちいさく、ちいさく、云ってみる、「ただいま」


泡みたいにくちびるから落ちて河原の草のなかにまぎれて見失ってしまった

ただい、ま

ただいま

ただ、いま
ただ、いま、逢いたいひとは、いったい誰なんだろう
ただ、いま、云いたいことは、ほんとは何なんだろう


ただ、いま


白い釣針のような深爪の月が喰い込むように昇る下で天狗どもに蹂躙されながら
ただ、と、いま、を膨らみかけの胸のなか繰り返し唱えて
帰れないんです、帰れないです、と云って泣いてまた蹂躙された


 *


夜明け
水溶性の鈍い痛みを
川に入って流しながら
泣いた


ごめんなさいパパ
ごめんなさいママ


ただ、いま、が何なのか、誰なのか、わからない、もう


ごめんなさいなんてなんべん云ったって
わたしはお家に帰れない
パパもママもちょっとわらって優しい筈だけど
振り返ると全部ぼやけて見える


もう帰る家がない
ただ、いまを云う場所がない


ああ、
朝陽が昇ってゆく


(yuraly)

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