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おっさんずラブ 牧が黒澤に戦いを挑んだ本当の動機は何だったのか

「会社で公私混同はやめてください」
「手作り弁当なんて重いに決まってるじゃないですか」
「大事なのは長さよりも深さ」
「春田さんの悪いとこ10個言えますか?!」


『おっさんずラブ』第2話の名シーン、屋上での牧vs.黒澤部長の戦い。
何度観ても笑えるし、何度観ても「優柔不断」と「うつ伏せで寝る」しか覚えられない私です。

このシーンに至る経緯は、春田に対する黒澤の異様な執着(業務時間外の連絡、病室での様子、日報の内容)を不審に思った牧が、黒澤のことを春田を巡る恋敵として認定し、戦いを挑んでいった、と説明できるかと思います。

ですが、ドラマを繰り返し見ているうち、牧のこの行動原理に疑問が浮かんできました。


そもそも、牧ってどんな人?

・職場でのオン/オフの切り替えはきちんとできる
・論理的な思考に基づき行動できる(わんだほう閉店事件のときなど)
・人生の節目でたまにカッとなる(突撃!武川OB訪問、春田にバスルーム水浸しキスなど)

以上、筆者まとめ。

「相手が部長だからって絶対に引きません!」
とは言うけれど、これもカッとなってとった行動なんでしょうか。
いくらなんでも短絡的すぎでは?
のちのち仕事に支障が出ることぐらい容易にわかるでしょう。下手すりゃ春田の立場だって危うくしてしまうかもしれないのに…。

話が進むにつれわかってきますが、牧は、自分の幸せより好きな人の幸せを優先する(優先してきた)人です。だから6話のラストであんなに悲しい別れを選択した。うっ。思い出すだに胸が痛い。

そんな牧が、自分の恋心を満たしたいがためだけに、リスクしかない上司への敵対宣言をするでしょうか。好きな人を巻き込んでまで。誰に聞かれるともわからない状況で。どうも納得がいきません。


牧くんは言いました。
「部長に春田さんは守れません」

牧は、春田を何から守りたかったのでしょう。


牧と黒澤の決定的な違い


男同士であること。
同じ職場であること。

これらを理由に、牧が黒澤を春田から遠ざけようとするいわれはないはずです。牧だってまったく同じ立場だから。
年齢差だって、牧くんアナタずいぶん年上の彼と付き合ってましたよね? そこ責めるわけにはいかないですよね?

じゃあ、何が違うのか。

黒澤は、既婚者であること。

ここじゃないでしょうか。牧を駆り立てたのは。


作品を貫く唯一の倫理観

このドラマは、同性同士、異国籍、歳の差など、あらゆるスタイルのカップルをフラットに描いていますが、不倫に関してだけは厳しい目を向けています。
その一貫した姿勢は、「不倫!ダメ!絶対!」という、第2話のまいまいのセリフに集約されていますね。好きになっちゃいけない相手なんていないけど、不倫はやっぱりあかんのです。法に反するし、ぜったい、だれかが傷つくから。

妻と別れるまで待ってほしいと懇願する黒澤、それを伝え聞き「めちゃめちゃ誠実!」と絶賛するちず。

恋愛は自由だし、幸せは人それぞれというユートピアを描きながら、不倫だけはきっぱりと否定するこのドラマの潔さが、私はとても好きです。


牧を動かしたのは、古い傷だった?


もうおわかりでしょうか。

牧は、春田を不倫の苦しみから守りたかったんじゃないでしょうか。
なぜなら、自分も過去に苦しんだ経験があるから。(推測)


牧くんが過去にどんな相手とどんな恋愛をしていたかの詳細はわかりませんが、少なくとも武川との交際は大恋愛だった。これはご本人たちも語っておられますし、本編の端々からもうかがえます。

それほどの大恋愛を経験する前の、まだ自分の真ん中も定まらない、ゆらゆら揺れているハタチ前後の牧くんだったなら…

もしかしたら、相手が年上の既婚男性であっても、熱く言い寄られたら…(牧くんのあの作画なら男もほれる、という大前提で)
コロリと堕ちてしまった可能性も否定できない…


奥さんもいるノンケの人だけど、自分を好きになったと言ってくれる。
必ず、ちゃんとするから、妻とは別れるから、と約束してくれた。
それを信じて待っていた。
だけど、結局ひとりになったのはぼくだった。
あの人が選んだのは、ぼくじゃなくて家族だった。
あの人は、ぼくを守ってくれなかった。


そんな過去が…なかったとは言い切れない…うう…
妄想の産物でしかないモブ不倫おじさんに怒りを!禁じ!得ない!!!


部長は一人で勝手に盛り上がっているみたいだけど、いずれ冷めたときに傷つくのは春田さんだ。
ほかに守るべき人が、部長にはいるから。
あのときの苦しみを春田さんが味わってしまうことがないように。
春田さんを、守るために。

それが、牧を屋上バトルへ駆り立てた動機だった、と私は結論づけました。


これらの理屈を裏付けるかのように、黒澤と蝶子の離婚が成立してからは、牧から黒澤にあからさまに突っかかっていく描写はなくなりました。(春田との交際が始まって状況が変わったという事情もありますが)


第2話時点での黒澤との対峙を経て、自分はせめて独身であるという事実が、牧の恋心に拍車をかけた、と考えるのは、さすがに穿ちすぎでしょうか。

結論:やっぱり、不倫!ダメ!絶対!!




牧の過去について考察したその他のnote。

▼武川との間に何があったのか真剣に推理しました。


▼第1話、突然のルームシェア開始の背景は何だったのか。


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