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パラリンピックが観客席を満員にしたいらしいので 個人的に好きな競技を羅列

選手たちのベストパフォーマンスを考えると、8月開催には不満がある。しかし、大会に出る選手たちを応援する気持ちには一点の曇りもないため、観客席を満員にしたいという思いは支持する。

そこで、今回は、筆者が勝手に推している競技を紹介したいと思う。


技の応酬がスリリングな視覚障害者柔道

筆者が視覚障害者柔道に嵌ったのは、健常者柔道において、有効であれ指導であれポイントをリードした途端に組まずに逃げ切る試合を見て、勝ち方にモヤッとしていたロンドン大会の時だ。

視覚障害者柔道の選手は全盲かほとんど視力のない障害を抱えているため、試合は両選手が組んだ状態から始まる。試合中の攻防で両手とも離れてしまった場合は、お互いに相手の位置が分からなくなるため中断し、試合開始時の位置まで戻って組み直してから試合を再開する。

その結果、視覚障害者柔道では、健常者柔道のような距離をとって組手を争うという過程が省略され、いきなり技の掛け合いが始まる。

筆者が初めて見た試合は、両選手とも攻め気が強かったため非常にスリリングだった。多少強引な体勢からでも技を仕掛けるし、相手が伏せたらすかさず絞め技、間接技、抑え込み技を狙う。

オリンピックの視聴習慣の延長でたまたま目にした試合だったが、その目まぐるしい展開に「こういう柔道が見たかった!」と筆者は夢中になった。

もちろん、視覚障害者柔道にも相手の攻めを凌いで、凌いだ先の好機を狙う選手がいて、両選手が凌ぐタイプだと焦れる試合展開になることもある。が、全体的に緊張感の高い試合が多いと感じている。

ロンドン大会予選 絞め技で勝つ高橋選手 (Paralympic Games YouTube)
リオ大会3位決定戦で戦う広瀬選手 (Paralympic Games YouTube)



10秒台でトップを争う陸上男子100m-T64(旧T44)

T64 というのはパラ陸上にある クラス の1つで、次のような意味になる。以前は、単に下肢切断として T44 に分類されていた。

T・・・トラック競技。フィールド競技だと F
6・・・競技で義足を使う
4・・・下肢、膝下に切断がある


筆者が 100m - T64 を好きな理由は、シンプルに速いこと。同競技の世界記録は米国の Browne, Richard 選手が 2015年に出した 10秒61 で、トップは10秒台での争いに突入している。

同競技がパラリンピックで11秒を切ったのは 2012年のロンドン大会が最初で、英国の Peacock, Jonnie 選手が 10秒90 で金メダルを獲得。Peacock 選手は、2016年のリオ大会でも 10秒81 を出して連覇を果たしている。

リオ大会 陸上男子 100m - T44 決勝 (Paralympic Games YouTube)


同じ T64 では走り幅跳びの方も見応えがあり、世界記録はドイツの Rehm, Markus 選手が 2018年に出した 8m48cm となっている。ちなみに健常者の世界記録は、米国の Michael Powell 氏が 1991年に出した 8m95cm だ。

リオ大会 男子走り幅跳び - T44 Rehm 選手 (Paralympic Games YouTube)



日本人が世界記録を持つ 400m-T52、1500m-T52

T52 はトラック競技で車いすを使うクラスで、リオ大会で活躍した佐藤友祈選手を見て以来、筆者が注目している種目である。

佐藤選手は、21歳の時に障害を抱えてしばらくは鬱屈した日々を送っていたものの、2012年のロンドン大会を見て一念発起。車いす陸上の世界に飛び込んだ選手だ。

2014年には、大分国際車いすマラソン大会のハーフマラソンで優勝するなど早くも頭角を現し始める。2016年に行われた日本代表選考会では、400m・800m・1500m で優勝して、リオ大会の日本代表を勝ち取る。リオ大会では 400m と 1500m に出場しており、ともに銀メダルを獲得した。

その後も実力を伸ばし続ける佐藤選手は、400m・800m・1500m・5000m と4種目で世界記録を樹立するなど、T52 のトップ選手となっている。

リオ大会 陸上男子 400m - T52 決勝 (Paralympic Games YouTube)


ちなみに、今度の東京大会では行われない種目もあるが、パラ陸上で日本人が世界記録を持っている種目は以下の通り。

山本篤選手
・男子 200m - T63 26秒64 (2019-06-01)
佐藤友祈選手
・男子 400m - T52 55秒13 (2018-07-01)
・男子 800m - T52 1分51秒57 (2019-01-21)
・男子 1500m - T52 3分25秒08 (2018-07-01)
・男子 5000m - T52 12分27秒54 (2019-01-22)
鈴木徹選手
・男子 走り高跳び - T64 1m91cm (2019-06-09)
大井利江選手
・男子 円盤投げ - F53 26m62cm (2006-09-30)
湯口英理菜選手
・女子 100m - T61 19秒06 (2019-07-20)
・女子 200m - T61 46秒69 (2019-06-01)
藤井美穂選手
・女子 走り高跳び - T42 1m38cm (2013-10-26)
齋藤由希子選手
・女子 砲丸投げ - F46 12m47cm (2015-07-04)

                    ( World Para Athletics より)

IPC 陸上競技世界選手権大会走り幅跳び - T42で2連覇、アジアパラ競技大会100m - T42で2連覇を果たしているパラ陸上界のレジェンド・山本篤選手や、円盤投げの世界記録保持者でリオ大会に68歳で出場した大井利江選手など、陸上には気になる選手が多い。



チェアワークにも注目したい車いすテニス

パラリンピックでは様々な形の車いすが登場するが、トラック競技用よりはずっと見慣れた形の車いすを使うのが車いすテニスだ。

2バウンド以内に返球するという点を除き、他は健常者のテニスと同じルール・同じコートで行われる車いすテニスは、観戦初心者にも解りやすいスポーツだろう。

車いすは構造上、前後にしか走れないため、横へ移動するには方向転換が必要となる。そこで重要になってくるのがチェアワークで、選手たちはコートを縦横無尽に走り回るために様々なターンを駆使している。

チェアワークは 車いすバスケットボール車いすラグビー も面白いのだが、5対5、4対4とコート内の選手が多いため、筆者は車いすテニスを推している。

ロンドン大会決勝で戦う国枝慎吾選手 (Paralympic Games YouTube)

国枝選手のターン練習が写っている動画
国枝慎吾 ドキュメンタリー 5分版 (WOWOW公式 YouTube)



解説付きで見たい、妙技と駆け引きのボッチャ

ボッチャは、重度脳性麻痺や四肢機能障害を抱えている人たち向けに考案されたものだが、健常者も楽しみ易いことからパラリンピックの紹介でもよく見かけるスポーツだ。

赤チームと青チームに分かれてボールを投げ合い、的となる白いボール (ジャックボール) に最も近く寄せた方がポイントを獲得するのだが、相手のボールより近くにある個数分がポイントになるなど、ルールは冬季オリンピックのカーリングに近い。

カーリングを解説付きで見ると、選手が考えている作戦やこれから投げるストーンの狙いについて理解が深まるように、ボッチャも解説付きで見ると面白さは倍増する。選手の意図を解った上で見ると、選手がジャックボールに自分のボールを寄せる技術の高さもより深く理解できる。

ボッチャの紹介では、NHK-BS で放送された『みんなdeボッチャ!』が一番いい番組だと思っている。企業チームにボッチャ協会のチームを加えて企業対抗の大会をやっているのだが、オンデマンドも終わっているのが残念だ。代替としては、武井壮さんがボッチャに挑戦している動画が、解りやすくまとまっているように思う。

武井壮!ボッチャで真剣勝負 (NHK公式 YouTube)



後記

オリンピックの方は NHK も民放もこぞって放映するのに対して、パラリンピックになると NHK やスカパー、ネット配信頼みになることを、筆者はずっと不満に思ってきた。

筆者は、たまたま目にした視覚障害者柔道をきっかけにパラリンピックを見るようになり、冬季ではチェアスキーによるアルペンスキーのファンとなったのだが、どの競技も想像を超えた戦いで面白かったからだ。

NHK が『超人たちのパラリンピック』というドキュメンタリーシリーズを制作しているが、まさにその通りだと筆者も感じている。

パラリンピアンたちの挑戦がどれほど高いところでの競い合いに到達しているのか、その為にどれだけの準備をしているのかは、もっと広く知られて良いはずだ。

筆者にとって、あの時の視覚障害者柔道の試合は、人がどこからどの高みまで行けるのかを考え直させる出会いだったと思う。

ソチ大会 滑降 座位 狩野亮選手 (Paralympic Games YouTube)

(了)






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