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遠く離れた地から愛を

「毎度こんなにもらっちゃって悪いよね」

私の両親からちょっとした贈り物が届くたび、旦那はそうつぶやく。

「そうかなぁ?」

と私は返答する。目の前には大量の手羽先餃子のセット。

そう、私の親は季節ごとに何かしらの品物を送ってくる。春はさくらんぼ、夏にメロン、秋は新米、冬には鍋セット。あぁ、それと今年は秋にブドウも送られてきたんだっけ。


たいていは地元の名産品なのだが、たまに関係ないお取り寄せグルメとかも送られてくる。旦那が言うに、親からこんなに頻繁に食べ物が送られてくるのが珍しいのだそうだ。

だけど私にとっては見慣れた光景になりつつある。上京してからこの12年間、親からの贈り物はずっとこんな調子で続いているのだから。


それにしたって、両親からの贈り物はちょっと豪快だ。2人暮らしなのに手羽先餃子は合計で30個。メロンも大きなものが2玉きたし、新米は5kgが2袋もきた。


贈り物が届くたび、私は両親にお礼の電話を入れるのだが「量が多くてびっくりした」という話を必ずしているような気がする。それと同時にお金を使わせてしまって悪いよなぁと心の底で思っている。


両親は2人とも60歳も半ばなので年金暮らしだ。自分たちの暮らしだって大変だろうに、本当だったらもう30歳を過ぎた娘たちに余計なお金なんか使わなくたっていいはずなのだ。

ましてや私は結婚を機に姉との同居を解消しているので、両親は1年前ぐらいから各家庭に贈り物をするという手間が増えたわけだ。手間も、かかるお金も恐らく倍だろう。


私は母に一度「もう私も結婚してしっかり生活しているんだから、お金使わなくていいよ」と言ったことがある。

すると母の返答は「こっちが食べてほしくて送ってるんだから、遠慮しないで! こうやって何か送るのが楽しみなんだから」とのことだった。


私たち娘2人は大学進学を機に地元を出て以来、ずっと東京住まいだ。両親にとっては、寂しいのかもしれない。ちゃんと聞いたことはないのだけど。


それでも父にも母にも地元に帰って来てほしいとうるさく言われたことはない。むしろ父からは「もう戻ってこないと思ってるから」と言われてしまったくらいである。

娘が2人もいたならどっちかが地元に帰って自分たちの面倒を見ると期待していただろうに。「自分が生きたいように生きるのが一番」と言う両親のなんと懐の深いことか。


「そうか。これも愛情の形なんだなぁ」ともらった手羽先をかじりながらふと思う。

見返りがなくたって離れている娘たちを案じてあれこれ世話を焼く。“これが親ってもの”と言われればそうかもしれないが、やっぱり子どものいない私にはまだたどり着けない境地なのかもしれない。


「毎度こんなにもらっちゃって悪いよね」という旦那の言葉を聞くたびに、両親からの無償の愛情ってのは当たり前じゃないんだよなぁと、そんな普通のことに気づいたりするのだった。


編集:香山由奈

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