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コロナ禍が変えたIngress 〜ハレの日とケの日と〜

2021年。後世から間違いなく"コロナ禍"というひとつの時代の変わり目と言われるであろうこの年。そのコロナ禍も2年目に入り、右往左往試行錯誤しつつも国の施策や医療関係者の尽力、ニューノーマルとも呼ばれる新しい生活様式の浸透と慣れ等も含め、生活はどこかピリピリとした空気を残しつつも少しずつ平静を取り戻し始めたように思う。これまでのライフスタイルや社会や人との接し方の常識を突然に覆してしまったこのコロナ禍で、新潟という地方都市の、都市部分からわずかに外れた都市でないただの地方のAGである自分の目に見えるIngressはどう変わったのだろうか。

結論から言うと、新潟でプレイするIngressに関してはスタイルはほとんど変わらなかった。もちろん変わった人もいるだろう。遠征をたくさんこなすスタイルの人はそれができなくなったし、First Saturdayを始めとする人を集めるイベントは開催できなくなった。当然アノマリー等の公式イベントも無くなったため、少数ではあるが存在するイベントの時にのみ元気になるタイプのAGは元気になるタイミングを失った。あるいはコロナ対応で仕事が厳しくなりIngressから遠のいた人もいるかもしれない。だが大多数の、通勤やお出かけのついでにスキャナを開いたり、毎日のジョギング習慣のように近場で生活の一部のようにプレイする層はコロナ禍においても以前とほとんど変わらず活動を続けていた。新潟市中央区近辺では通勤・通学の電車やバスでのプレイも見られるが、少し外に出れば車から降りる機会がそもそも少ないカーグレスが主流という新潟において、Ingressはそもそも人との直接接触の機会が少ないコロナ的にはローリスクのゲームだった。実際自分もカーグレスがメインで、大きな公園や奥まった神社なんかで車を降りることがあっても人と会うこと自体ほとんどないというIngressなので、コロナ禍といっても基本的にはそれまでと変わらない日常を送っていた。地方の地域密着型のAGにとってコロナ禍は日常のプレイではほとんど問題にならなかった。

ハレの日もあればケの日もある。今触れたのがケの日のIngressだとしたら、ハレはやはりアノマリーやMD、FSといったイベントだろう。作戦もハレのうち。こちらは致命的な影響を受けた。なにしろ人が集まれない。公式イベントは軒並み中止・延期になり、一時期は作戦もまったく行われなくなった。これは新潟に限らず全世界どこでも事情は同じ。最初のうちはイベント中止の報が届くたび残念がる声が聞こえてきた。

それは静寂だった。ハレのIngressがなくなり、淡々とケのIngressが続く。コミュニティの活性も一気に落ち、各自が自分の生活の中に溶け込んだIngressを続ける平らかな日々。個人的には案外退屈はしなかった。新潟では地域密着型のAGの活動は比較的影響少なく続いていたので、日々盤面は変わる。やることはある。むしろイベントで忙しくなったりしない分、日常のIngressに集中できた。かえって心は平穏だ。これはこれで悪くないなと思ってみたりもした。

コロナ禍は人と人の距離の取り方を一気に見直しさせた。職場や取引先との飲み会もほとんどなくなったし、にいがた酒の陣のような巨大イベントは開催されなくなった。地域の祭りや運動会、懇親会といったものもなくなった。もちろんなくなってほしくなかったものも中にはあるだろう。でも職場の飲み会や地域の祭りといったものは案外なくなってホッとしてる人も多いようだ。気疲れする人の集まりや、ただ地元であるというだけで労力を提供しなければいけなくなるイベント。そうしたものに疲れている人も一定数は常にいるものだ。コロナ禍はそうした過剰な人間関係を一度整理し、必要なものとそうでないものを改めて考える機会を提供したという点では社会にとってプラスに作用した面があると思う。

翻って、Ingressではどうだろうか?コロナ禍の前1〜2年ほどはIngress的にはイベントラッシュで、アノマリーこそDPTを最後に開催されていなかったものの、FSや、MDですらほぼ毎月全国のどこかで開催され、そこに多くのAGが集っていた。FSやMDは開催要件が提示され、要件を満たして立候補すればFSはすぐにでも開催できるし、MDもただ待つのでなくNIAにこちらから呼びかけることが可能になったことが大きい。

これは一見盛り上がっているように見えるが、その熱の裏で実はかなりの疲弊と軋轢を生んでいたと感じる。それはイベント準備のほとんどをゲームのプレイヤーであるAGに任せるというNIAのやり方に原因がある。AGが自分たちで企画し、場所等の準備をし、場合によっては自治体や企業、地元商店街等々と調整を行う。Swagも作ったりして、そしてそれらに付随する費用ももちろん基本的にはAGが持つ。スポンサーを募るのもその労力を出すという意味でAGが費用を持ってると言っていい。AGのほとんどは当然Ingress専業ではなく普通に仕事があり、家庭もあったりする中で時間も金銭もやりくりしてイベントを企画・運営する。アノマリーでは多少の手助けはあるものの、FSやMDではNIAはただ承認をするだけで準備に労力や金銭を提供するわけではない。完全にAGたちのIngressへの情熱と愛で保っているシステムだ。

こういうやり方は成功とともに大きな達成感・充実感を呼び、一時的にそのコミュニティを盛り上げる代わりに、長期的に見た場合は人員の疲弊を生む。AGが多くの仕事をこなすということは、その過程において労力の提供以外にも様々なトラブル、特に対人トラブルに巻き込まれることも多い。それがまた疲弊を呼んだり禍根を残したりすることもある。全国を転々と開催するから目立たないが、転々と全国の人員リソースを少しずつ食い潰しているとも言える。これがこのままあと数年続いていたら、もっとはっきりとイベント運営に対する疲弊が目に見えて出てきただろうと予想する。

コロナ禍は形としてはそこに一旦ストップをかけ、イベントのあり方を見直す機会を与えた。先に例に出した職場の飲み会や地域のお祭り等と同様、NIAも今後のイベント運営に際してコロナへの配慮はもちろん、AGの労力にここまで頼らないイベント運営のあり方を考えるべきではないだろうか。Ingressを新規に始めるプレイヤーが頭打ちである今、Ingressが持続可能であるためには今いるAGを使い潰すようなやり方は見直した方がいい。

その点、個人的にはコロナ禍で生まれたVFSが好きだ。この手軽さがいい。運営の負荷も大きくないし、参加する方も身構えずとも自宅から、あるいは出先からでも、スマホ1つあれば気軽に参加できる。運営は企画等頑張りたいなら頑張ればいいし、最低限の要件だけ満たしてのんびりやりたいならそのようにすればよく、また参加者もどこにいてもどこにでも参加できるから自分の好みに合ったスタイルの開催地を選べるのが実にいい。

自分はVFSはいつも西条に参加している。新潟の自分は四国は遠いし、なんなら実は四国には行ったことがない。それでも参加できてしまうのがVFSのお手軽さだ。そして西条は基本的に何もしないのがとても気に入っている。リチャとデコードはもちろん要件だからやるのだけど、Zoomの参加は自由だしそのZoomも基本的に何かをやってるわけでなく、特に話題が決まってるわけでもなく、ただダラダラ飲みながら話してるだけ。無音の時間もあったりするし、その無音の時間に誰かのいびきが延々と聞こえてきたりもする。でもその何もしないゆるさがいい。色々企画を頑張ってるところも楽しそうだなとは思うんだけど、でも疲れそうだなとも感じてしまう程度にはコロナ禍の静けさに心身が慣れてしまって。だがこういうゆるいイベントが開催できるのもまたVFSの魅力。ゆるくても画面越しでも、ちゃんと人とつながれる。Ingressは長くやってると結局人とのつながりが魅力になってくるので、こうした少ない労力で人とつながれるイベントはいいなと思う。

そしていつかコロナ禍が明けたら、アノマリーにはまた是非参加したい。アノマリーに関しては先に述べたAGとNIAの労力バランスの他にも密の問題やそもそも今のスキャナがアノマリーのような局地負荷集中に耐えられるのかという話もあって、なかなかこれは簡単にはいかないと思っているのだけど。アノマリーもしんどいイベントではあるのだけど、自分は結局FSやMDよりもちゃんと相手があるイベントの方が燃えるのだろう、そのしんどさも含めて楽しい思い出ばかり。アノマリーを通じてたくさんの人とつながれたし、そのつながりが今度は別の機会で新しい楽しみを生んできた。アノマリーの現地でたくさんの仲間、たくさんの相手陣営と、ポータルを奪い合ってシャードを追いかける、あの熱い時間をもう一度味わいたい。そして一緒に戦った仲間たちと、最高のお酒を飲んで盛り上がりたい。今はまだその日は見えないけれど、いつかきっとその日は来ると信じて、さあ、今日もまたスキャナを開こう。

追記:この記事はIngress & Wayfarer Advent Calendar 2021企画の12月15日分として書いたものです。読むのはきっとIngressのAGばかりだろうということで、ゲーム自体や用語の細かい説明は特にしていません。もし何のことかわからず読んでしまった方がいらしたならごめんなさい。でも興味を持たれたなら是非スマホにIngressをインストールして街に出てみてください。きっと景色がいつもと変わって見えるはずです。Ingressの合言葉はまさにそれなのですから。

The world around you is not what it seems.

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