中1の赤ちゃん返り
わたしはひとりっこなので、赤ちゃん返りという言葉とは無縁だ。と、思っていた。
しかし最近になって、「もしやあれは一種の赤ちゃん返りだったのかも?」と気づいたことがあるので、懺悔として書いておく。
中学一年生のとき、父のお付き合いの関係で、ブラジル人留学生の女の子を預かることになった。彼女は高校二年生だった。3ヶ月ずつ4ファミリーが順番に預かることになっていて、我が家は責任重大な第一ファミリーだった。
ひとりっこのわたしは、外国からやってくるお姉ちゃんをとてもとても楽しみにしていた。到着の数ヶ月前から手紙のやりとりをした。当日はドキドキしながら空港へ迎えに行き、自宅までの車中は覚えたての英語でおしゃべりをした。ここからの3ヶ月は、特別にすてきな時間になる、はずだった。
はじめの1、2週間は様々な手続きであわただしく過ぎて行った。そして、気がついた時には、あんなに待ち焦がれていた彼女のことが、わたしはだいっきらいになっていた。
もちろん、何かされたわけではない。彼女に非はない。ひとりっこでぬくぬく育った中一は、メンタルがおこちゃまだった。それまでの13年間わたしだけを見てくれていた父が、母が、祖母が、わたしより彼女に気を遣った。彼女を優先した。それが、許せなかったのだ。
父母が彼女を大切にするのは当然だ。お預かりしている大事なお嬢様なのだ。しかも外国からの。さらに言うなら彼女のおうちにはプールがあって、庭にサルが住んでいると言っていた。
でも、わたしにはそんなこと関係なかった。しゃべりたくない。顔も見たくない。一緒に写真に写りたくない。家族で観光地へ出かけても、彼女から離れて歩いた。
彼女は、私がそういう態度をとる理由がわからないみたいだった。「WHY? AYUMI??」と言われた。
そうこうしているうちに、あっという間に3ヶ月経ち、彼女は次のファミリーのところへ移った。最後までわたしの態度は変わらなかった。引っ越しの時もわたしは学校に行っていたので、まともなさよならもしなかった。
いま振り返って、本当に本当に本当に申し訳ないことをしたと思っている。地球の裏側からひとりでやってきて、どんなに心細かったろう。時間を戻せるなら、あのときのわたしに怒鳴ってやりたい。
もし、死ぬまでに彼女に会えるチャンスがやってきたら、心から当時の非礼をお詫びしたい。
そんな中一の赤ちゃん返りだった。
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