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天然プラネタリウム構文

今世間を賑わせてる、石丸伸二さんという人。
先日の都知事選で完全無所属ながら、蓮舫さんを抑え2位に躍り出た時の人である。若者を中心にネットで票を集め、166万票を獲得したそうだ。

私は都知事選の数日前まで、石丸さんのことを知らなかったのだけどYoutubeに上がってきたショート動画をきっかけに、安芸高田市長時代の議会とのやり取りをいくつか観た。いくつかどころか見始めると止まらなくなって、寝る間を惜しんで1.75倍速で2時間半ぶっ通しで観た。
旧態依然とした議員の言動や議会に対して、効率と正しさを盾に真っ向からぶった斬る姿勢は、漫然と居座るあの世代に対して溜飲が下がるような動画だった。
テレビを見ておらずX(Twitter)もやめてしまったので詳しくないのだが、選挙後特番でのやり取りから石丸さん特有の質問者を論破するような言い回しは、「石丸構文」と呼ばれているらしい。

ところで、私の住んでいる町は人口1万4800人(2024年)。
2020年時点の統計では老年人口が43.3%と、ほぼ半分が65歳以上だ。
議員14名のうち10名が65歳以上。
犬も歩けば棒に当たるよろしく、散歩しててもスーパーでも、どこを歩いてても65歳以上の老人にぶち当たる。

私の夫は町の「地域づくり協議会」に参加している。
「地域づくり協議会」とはいくつかの集落を集めたやや大きな自治会で、地域課題や問題をみんなで考え解決しようではないか、という組織である。
組織員はほぼ65歳以上。45歳の夫は最年少だ。
そんな「地域づくり協議会」で、昨夏(2023年)夫が出席した際の会議の様子を以下に書き出してみたい。

会長Aさん(以下A):コロナも収束してきて、そろそろこの「地域づくりセンター」(という名の古い小さな会館)を使ってもらえるように人を集めなあかんと思っとるんや。そこでわしが考えたアイデアがあるんやが…。もうすぐサッカー女子のワールドカップが始まるやろ。パブリックビューイングいうて大きなスクリーンを観ながら応援したいところやけど、みんなで一箇所に集まるのはコロナが気になる。そこでその反対のプライベートビューイングいうのを思いつきましたんや! 地域づくりセンターにテレビを設置して、みんなでサッカーの試合を見るんですわ。

Bさん:ほぉ、それはいいアイデアですな。食べ物・飲み物は各自持ち寄りにしましょか。

Cさん:そしたらこういうのはどないでっしゃろ。最近は「クールシェア」いうのがあるらしいですわ。平たく言うたら一台のエアコンを一人で使わんと、涼しいところに集まって涼しさを共有する、そういう取り組みですわな。せやから、地域づくりセンターで「クールシェア」しながらプライベートビューイングいうのはどうでっしゃろ。

Bさん:なるほど! 妙案ですなぁ! ほななんか持ち寄って「クールシェア」しながらみんなで、なでしこを応援しましょ! ま、みんな言うても、コロナの手前上知ったもん(知り合い)だけの集まりになりますけどな。

全員:ワハハハハハ、ええですな…ええですな…


夫は30分ほど続いたこの話し合いを「ほな誰かの家でよろしいやん」と思いながら眺めていたそうだ。
「家のテレビがそもそもプライベートビューイングちゃいますのん」
その言葉を、ずーっと喉元に溜め込みニヤニヤと帰ってきた。
組織員の方々は、真剣に話し合って大いに盛り上がったそうだが、その場に石丸さんがいたら卒倒しそうな話である。


先々月だったか、業務スーパーでおばさんとご高齢のお婆さんがふたりで買い物をしていた。お婆さんが、段ボールいっぱいに入った新たまねぎを掴んでカゴに入れようとすると、おばさんがすごい勢いで走り寄ってきて言った。
「ちょっと待ってちょっと待って、なんで新玉買うの!? 今朝畑から玉ねぎ引いた(収穫した)ばっかりやんか!」
「いやぁ、土のついてない玉ねぎがあんまりキレイやから」


私が結婚の挨拶のため、夫の住む町へ行った日。
山々に囲まれた自然豊かなレストランで食事をした帰り道、キラキラと瞬く星空を見上げて義母がうっとりと言った。
「プラネタリウムみたい♡」
即座に「逆じゃ!」と夫に突っ込まれていたが、義母はなんのこと? と、キョトンとしていた。


私はこういうことを見聞きしては一つひとつ、自分の心のジュエリーボックスに大切に保管している。

かの村上春樹は、エルサレム賞を受賞したスピーチ「卵と壁」で

もしここに硬い大きな壁があり、そこにぶつかって割れる卵があったとしたら、私は常に卵の側に立ちます。


と述べたが、もし「ユーモアのない効率」と「ユーモアのある非効率」があったとしたら、私は常にユーモアの側に立ちたい。
非効率で時間がかかるとしても、ユーモアを持って「天然プラネタリウム構文」と対峙したいのである。
(もちろん「ユーモアのある効率」でも可)
既存の権力と戦い、論破していくのは痛快だが、ユーモアのないやり取りを見ているのは傍痛いのだ。

今、私の手元にある「地域づくり協議会便り 7月号」には、こういう見出しが躍っている。

パリオリンピック間近!
今年もやります、プライベートビューイング!

何かが起こりそうな予感を、感じていただけるだろうか。

最後に、隣町の地域づくり協議会が主催した今年の「案山子コンテスト」の様子を掲載してこの文章を閉じたい。





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