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「Lucy & Desi」「愛すべき夫妻の秘密」を観た

ニコール・キッドマン主演の「愛すべき夫妻の秘密」をアマプラで見た。
1950年代の大人気アメリカドラマ "I Love Lucy" の楽屋物語。主役の夫婦は実生活でも実際の夫婦なのだが、笑いと愛に満ち溢れた二人の「ホーム」はドラマのなかだけで…って話。

話は飛ぶが、初めてラスベガスに行ったときに気づいたことがある。ラスベガスのスロットマシーンはシンプルな7と$マークの台がほとんどなのだが、時折、アメリカ エンターテインメント界のレジェンド、エルビス・プレスリーとマリリン・モンローの台があったりする。日本のパチスロ台とは違って、レジェンドレベルじゃないとスロットマシーンにはなれないようだ。しかしそのエルビスやモンローと並んでI Love Lucyという台があるのだ。ためしに座ると、知らない陽気なテーマ曲が流れ、知らない女優が知らない決めセリフを言っていた。私の目的はギャンブルで勝つことだけなので、”ルーシー”って誰?とほんの1秒だけ頭をかすめただけだった。

が、一度ルーシーの存在を認識すると、アメリカが”I Love Lucy”にあふれていることに気づいた。特に土産物屋。今までは単なるハートマークがついたマグカップだと思っていたものが、実はI Love Lucyの番組ロゴだった。見渡せばTシャツまである。記念写真の合成背景にいる古き良きアメリカ人おばさんは、名もなきおばさんじゃなく実は”ルーシー”だってことにも気づく。
すごい人気。どうやら”ルーシー”はエルビスやモンローと並ぶレジェンドらしい。私はアメリカの古い映画もまぁまぁ見ていたし、詳しいとまでは言わないけど有名な俳優はちゃんと顔と名前が一致する。それなのに聞いたことがない。
”ルーシー”って誰?

そのルーシー夫妻を描いた映画が公開されたと聞き、私は”ルーシー”が誰なのかを知るべく見てみようと思った。好奇心というよりは、エンタメ教養として知っておかねば、という動機だ。

映画は…どうなんだろうか。正直、詳しく書けば書くほど、悪口ばかりになりそうなので簡潔に五七五で感想を並べてみる。

ルーシーに ときどきジョブスが 乗りうつる
今作は「ソーシャルネットワーク」「スティーブジョブス」の脚本を書いたアーロン・ソーキンが監督なのだが、それを知っていたせいなのか、時々、ルーシーにジョブスがおりてきて、ソーシャルーシー2.0になる気がする。あの乾いた激しさ、シリコンバレー的に相手を詰めていくカリスマが1950年代のテレビ業界に突然降りてきてる印象。
アカ狩りが いまいちピンと こなくてね 危機感 共有できないの
当時は共産党員というのがハリウッドで致命的だったってのは知ってても、どうも感覚的にその危機感が共有できない。何を大騒ぎしてるのかなぁって。喩えるなら、イスラム教信者が豚肉食べちゃったときに立ち会った感じ?もちろん本人的には深刻ってのは理解できるけど、頭の片隅で(私、豚肉、毎日食べてる…)と思っちゃう感じ。
ニコールはバカをやってもクールだよ それでわかったルーシーの才
ルーシーは体の動きがおもしろい素晴らしいって賞賛されてたけど本当だなと実感したのは、ニコールが全く同じシーンを再現してその何もかもがルーシーにそっくりなのに笑えないこと。ニコールから隠し切れない気品がにじみ出ちゃって少々痛々しくさえある。この違いがルーシーが持っている才だったんだなと。落語でいう「フラ」ってやつなんだろう。

そんな感じで悪口ばかり浮かんでしまう映画だけど、ものすごいつまらないとか破綻しているわけでもなくちゃんと面白い。
ただ私みたいに単純にルーシーについて知りたい場合は、同じくアマプラで視聴可能な「Lucy and Desi」というふたりのドキュメンタリーを観た方が良い気もする。ルーシーとデジのインタビューもあるし、ホームビデオの一部なんかも収録されてて盛りだくさんだ。単なる芸能人カップルの伝記にとどまらず、アメリカの初期テレビドラマ作りの変遷がわかって面白かった。

それで驚いたのは、観客をスタジオに入れて撮影するいわゆるSitcomの形態は、夫のデジが小型カメラを導入することで実現可能となり、このI Love Lucyから始まったそうだ。I Love LucyがなかったらFriendsは見れなかったかもしれないとは。
もう一つ驚いたこと。夫のデジがプロデューサーとしてかなり有能だったということ。夫妻はI Love Lucyを製作するためにスタジオを買い上げ「デシル プロダクション」を設立した。そこでデジがプロデューサーとして次々とヒットドラマを世に出していったのだが、そのドラマってのが「スパイ大作戦」とか「アンタッチャブル」といった名作中の名作。
ルーシーとデシは単なる大人気ドラマの出演者というだけではなく、アメリカのテレビドラマ界の礎を築き上げた二人らしい。
そりゃ確かにレジェンドだ。スロットマシーンになるわよ。と納得した。

ものすごい勝手な感想を言うなら、ルーシーとデシの物語はNHKの朝ドラにぴったりだ。二人の生い立ちからしてドラマティックだし(「愛すべき~」の映画では二人の生い立ちは軽く言及されるのみ)出会って恋に落ち、家庭を築いて徐々に壊れていく様とか、テレビドラマ界の変遷とか、そして悲しみや別れを乗り越え大団円で終わる感じとか。シリコンバレーというよりは、NHK大阪製作で半年かけて放送するとしっくりくる二人!と思った次第でした。

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