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☆My Story☆ Who?③ #彼女とユンギ

ヘッドフォンを外すと、ふぅっとため息をついた。
ヒョン、すげぇ。。脳天まで痺れてる。最高かよ。
頭を左右に少し振って、カトクするためスマホを開いた。
ラスベガスに発つ前に、ヒョンに会わなければ。

ソウルコンを挟んで、ヒョンのスタジオに来たのは1か月振りだった。
ヒョンのMP3を聴いて、脳みそが痺れて興奮したことを伝えた。

「ユンギが気に入ってくれて良かったよ。」 ヒョンも嬉しそうだ。

「いや、まじで。すごく良くて遥か斜め上でした。痺れました。」

まだリリース時期は未定なコラボ曲の編集作業を、俺がソウルコンに夢中になっている間にヒョンが進めてくれていた。
自分ではない他の人に、キメて欲しい音楽のイメージを伝えるのは難しい。
気に入るとかそんな次元ではない、パズルがはまったように感覚が共有できたんだ。

「あとは、ユンギのラップで仕上げだな。」

ここから先は俺の領域だ…ゾクゾクするな。

「録音室、自由に使ってくれ。」

そう言ってくれるヒョンの言葉に甘えて、録音室の扉を開けようとしたら、

「良かったら、夕飯、一緒に食べていかないか?」

思いがけない誘いに、振り向いた。
セナとシウに買い出しに行かせたんだ、と。

「ありがとうございます。お言葉に甘えます。」 

ヒョンとは仕事以外の話をしたことないから、嬉しい誘いだ。
セナとシウ、この前のカトクにもあった名前だ、きっとどちらかが、あの彼女の名前なのかな。
あの時の歌声とコーヒーの香りが、蘇ってきた。

「セナのコーヒー、旨いよな。シウは彼女の弟だ。」  

ヒョンが教えてくれた。

~・~・~・~・~・~・~・~・~

録音室にどのくらいいたんだろう。
ガチャっと開いた扉から、ヒョンがのぞき込んでいいた。

「悪いな、ノックしても全然気づかなかったみたいだから。」

そろそろ夕飯が出来上がるから、キリがつけば、と誘ってくれる。
開いた扉から、温かい、家庭の夕飯の匂いが入ってきた。とたんに、腹が減ってきた。

リビングに戻ると、彼女、セナさんがキッチンにいた。

「まったくシウったら。どこまで買いに行ってるのかしら!」

俺に気づいていないな・・・カウンターキッチンの前までいって

「こんにちは。」 そう声を掛けると

「こんにちは。今日は来てくださってありがとう。」 そう笑った。

「いや、ありがとうは、こっちで…手伝いましょうか?」 と提案する。

「え?ほんとに?」 笑顔がはじける。 あ、でもお客様だわ、と口ごもる彼女。

「いや、嫌いじゃないんで。エプロンありますか?」

じゃあお言葉に甘えて、と、カフェエプロンを渡しながら、手、ここで洗っちゃってください、と、キッチンに誘われた。エプロン、お揃いだ。。

テンジャンチゲと、春らしい混ぜご飯を手際よく料理している彼女。
19時には、出来上がっている算段だったのに、
途中で酒を買いに弟のシウが出かけてしまい、遅れちゃって、と。

チゲの良い香りと混ぜご飯の春らしい彩りに五感が癒される。
あと数日で、また長い間アメリカに行くことになっている。
ここで手料理をごちそうになれるなんて、思いがけない喜びだった。

彼女と並んで、俺はサラダを仕上げていた。

「ただいま~。」 弟のシウが帰ってきた。

キッチンにいる俺に気づくと、目を輝かせて駆け寄ってきた。

「ユンギさん、こんにちは!はじめまして、シウです。」 人懐っこく挨拶してくれる。

「お邪魔しています、シウ君。はじめまして。」

「わぁ~すごいなぁ、本物だ、ユンギさんだ!」 
冷蔵庫に酒をしまいながら、とても嬉しそうにはしゃぐ。若い男の子に感激されるのは、嬉しいぞ。

すみません、手伝いさせてしまって、あと俺がやりますっていうシウに

「シウ! グラスと取皿、お箸お願い!」 弟には厳しい姉ちゃんだ。

ユンギさん、あなたより全然手際がいいのよ、
それよりどこ行ってたのよ、
近くのコンビニになかったから、向こうの酒屋まで行ったんだよ、

姉弟の会話はにぎやかだ。
彼女は、この前初めて会ったときは、幽霊にでも遭遇したみたいにびっくりしてたけど、今日はとても自然だ。居心地がいい。

にぎやかに4人の夕飯が始まった。
ヒョンが改めて、セナとシウを紹介してくれた。
2人はヒョンの親戚で、セナはこのスタジオの世話とヒョンのマネージャーを専従でしているらしい。
シウは、高校を出た後、音響のプロをめざして専門学校に通ってる。
バイトとの両立が大変だって…昔の俺みたいだ。

ソウルコンは3人で、このスタジオでプロジェクターと贅沢なスピーカーで楽しんだと。羨ましい、ここのオーディオ環境で俺も観たい(笑)

ヒョン、セナさん、シウ、それぞれのソウルコンの感想を聴くのがとても楽しかった。みんな好きな曲のツボが違う(笑)
なによりも、3人とも、会場に座っていたアミたちが、秩序を守って健気に応援してくれた様子に胸を打たれたと言ってくれた。
俺たちもそう、本当にそう思って、心から感謝している。
もし自分だったら、ここまで出来るだろうかと、
ステージから見ていて感動すらしたんだ。

用意された食事はすっかりみんなのお腹に収まり、ヒョンと俺が音楽談義に花を咲かせていると、セナさんが美味しいコーヒーを淹れてくれた。
シウはまだお酒に不慣れなのか、それほど飲んでいなかったようだけど、ソファで気持ちよさそうに寝てしまっている。

録音したラップ、確認されますか? と、ヒョンに聴くと、

「楽しすぎて随分呑んでしまったから、確認は明日でいいかな?」 と苦笑する。

もちろんです、俺もとても楽しくて、こんな風にヒョンと話ができて幸せでしたと、本心からお礼を言った。
そしてセナさんにも、美味しい料理をふるまってくれたお礼を言った。
寝ているシウ・・・また、きっと会えるな。

ビルの下でタクシーを拾うという俺に、人どおりもあるから面倒になったらいけないからと、ヒョンも降りてきてくれた。
ちょうど吸いたくてさ、とうまそうにタバコを口にしながら、

「2人は同じ年かな?セナは、93年生まれだ。」 

はい、僕も93年です、と応えると、ヒョンがぽつぽつと話を始めた。

セナが中学生、シウが小学生の時に、両親が交通事故で亡くなったこと。
姉弟2人一緒に引き取れる親戚がなくて、児童養護施設に入っていたこと。
高校を卒業したセナが先に施設を出て、進学せずに働いて、シウと暮らすために頑張っていた頃、ヒョンもアメリカの仕事を引き上げてソウルに拠点を戻したことから、2人の後見人になって、シウも施設を出たこと。

「うちの近くのアパートから、シウは高校に通ったんだ。セナにも進学するよう言ったんだけど…」

社会人として仕事をするのが楽しいと言って、そのまま。
2人とも両親と突然別れて、夢や進路をたくさん諦めたと思うんだ。
施設でも辛い思いをしたと思う。まぁでも、2人はたくましいよ。
俺は、見守ると言いながら、逆に、励まされていることのほうが多いんだ。

ヒョンの話に、じっと聴き入っていた。
言葉少なだけど、姉弟が経験した辛さを思いやる気持ちが溢れていた。

セナさんがひとりで歌う誕生日の歌、コーヒー、料理、シウの人懐っこい明るさ、ヒョンの包容力。
3人が家族になってきた日々に、俺は思いを巡らせていた。

「つまらない話をしてしまったな。」 ヒョンの言葉で我に返った。

「あ、いえ。そうじゃないんです。」 

言葉が軽々しくなってしまったら嫌なんですけど、と前置きして

「2人と、友達になってもいいですか。」 ヒョンの目を見て言った。

ありがとう、ユンギはやっぱりいい男だな、そう優しい目をして笑った。
世界のミン・ユンギにこんな身の上話をして、俺も酒が弱くなったなぁ、と笑う。

「2人は、ユンギの大ファンだ。俺もだ。ずっと応援しているよ。」

「俺もヒョンの大ファンです。一緒に仕事ができて光栄です。」

そう応えると、ヒョンは嬉しそうに笑った。

まだ浅い春の夜は、ずいぶんと冷えていたけれど、心は暖かかった。

【つづく】

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