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『モンドリアン展』

『モンドリアン展』
SOMPO美術館



謎の緊急事態宣言下で美術館の休館が余儀なくされていた期間を経て、会期残り6日間だけOPENするとのことで、逃すまじと思い行って参りました。

5月、どこにも美術館に行けなかったので久しぶりに「本物」を見れる時間、改めて至極…の体験でした。はぁ、最高。


さて、モンドリアンですが、なんかわからへんなこの絵と最近まで全く興味がなかったのですが、この展示があるからせっかくなら勉強しようと思い、わたしのオンラインサロン「アトリエ遠藤」で、みんなで彼の3つの作品をじっくり見比べてみるということをしてみました。彼の一番有名な三原色と非色と線で構成された抽象絵画に至るまでの変遷だったり、このスタイルに辿りついてからの試行錯誤について想いを馳せるうちに、オランダ生まれの天才系おじさんだと思っていた印象がガラッと変わってもしかしてめちゃ人間味溢れるやつなんじゃねぇのか…と俄然興味が湧いたわけです。


本展ではまさに、モンドリアンがみんなの知るモンドリアンになるまでの作品が中心に展示されているのですが、やっぱり思った通り、努力の人だったんだと知ることができました。


今までいろんな画家の作品を見てきましたが、画風がコロコロ変わる人ってあまり多くない印象があります。コロコロ代表と言えば「青の時代」「薔薇色の時代」「キュビスム」「新古典主義」「ヴァロリス期」などなどを経て14万点ほどの大量の作品を生み出したピカソが思い浮かびますが、モンドリアンもその比じゃない。

ハーグ派やヴァルビゾン派に影響されて描いた風景画からはじまり、印象派、キュビスム、点描画に影響されるなど、あのモンドリアンになるまでの右往左往がすごい。

ただ、ピカソはどの時代でも「今のおれの今の最高値がこれ」みたいな感じで作品1つ1つに着地点と自信が感じられるのですが、モンドリアンはいつまで経ってもどんな画風にトライしてても「これは実験やから」みたいな感じで彼の最高値を感じる作品が1つもないように思いました。「私にしか書けへん絵や表現ってなんなんやろか」ってこの人めちゃくちゃ悩んできたんとちゃうやろかって思いました。ずっとずっと実験してる。

彼はプライドが高い人やと思ってたのですが、もしかしたらそうじゃないのかも。プライドが高かったり自分への期待が高すぎると、同時代の流行ってる絵を真似するのってなんか自分が惨めになりそうな気がするやん?新しいこと吸収するのも意固地になってしまいそう。でもモンドリアンはめっちゃピュアに新しい技法だったり思想だったりに影響されてそれを自分のものにしようと一生懸命描いてる。

すごい画家ってもう最初から「もう私は白と黒とでしか絵を描かへんのです」とか「決めました。私は風景画しか描きません」みたいな感じで天から降りてきた「自分らしさ」みたいなものがあると勘違いしがちやけど、モンドリアンの変遷はまじで努力でしかない。そしてめちゃくちゃ柔軟。いいものどんどん吸収したい!という無邪気さすら感じる。そしてとても真面目だからすぐに「あーやーめた」って投げ出すことなく継続することができるしめちゃくちゃ勉強してる。意外すぎる性格が垣間見えて、モンドリアンの印象がガラッとかわりました。

この人絶対笑わへんやろ、みたいなアー写があるのですが、本展に笑ってる写真が展示されてて、なんかめちゃうれしくなりました。


そしてモンドリアンが50歳近くになってたどりついたコンポジションシリーズの作品「大きな赤の色面、黄、黒、灰、青色のコンポジション」を目の前にして、わたしはてっきりそこで彼の最高値「私のスタイルはこれや!ドヤ!」「このギリギリに保たれた美、最高やろ?」を感じることができると思っていたのですが、まだそこには「実験中」の3文字が浮かんで見えて、なんなんや、この人の自信はいつ生まれるんや。満足感はどこで得ることができるんや。なんのために絵を描いてるんや。やっぱり変人なんか?と怖くなりました。

北斎が「73歳にしてようやく動植物の骨格や出生を悟ることができた。まだまだこれから。」って言ってるレベルでモンドリアンも私はまだまだ感がすごい。

しかもなかなか絵が売れへんから、傍で花の絵や肖像画を描いて売ってたり絵の先生してたりして生計をたてるのもギリギリやったことを思うと、それでも絵を描くこと、追求することをやめられへん気持ちっていうのはどこからやってくるんやろか。今の私たちが安定ではないことに怯えて未来に焦り過ぎてるだけなんやろか。

ものを作っていると、わたしはこの先どうなっていくんやろか、わたしらしさとはなんなんやろか、どんなものを作っていけばいいんやろかと度々考え不安になるのですが、彼の一連の作品から「ただその時に描きたいものを辞めずに描き続けていくしかない。その先は知らん。」という姿勢を見せられたようで、今の自分にすごくぐっとくる展示内容だったように思います。


本展にはありませんが、モンドリアンはこの後70歳ごろに第二次世界大戦から逃れるためにニューヨークに移住するのですが、そこで彼が描いた作品「ブロードウェイ・ブギウギ」(1943)という作品があります。ニューヨークに移ってから彼の絵の評価が爆上がりして余裕が生まれたのも理由の1つだと思いますが、彼が何か今まで背負っていた大きなものから解放されていいコンディションだったんだろうなというのが伝わってくる、晴れ晴れとした気持ちが前面に溢れた絵になっています。

コロナあけたらMoMAにこの作品を見に行きたいなと思いました。この絵を見たらついに彼の自信を感じられるんやろうか。楽しみです。



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