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労働人口減少に向き合うドイツと遅れる日本

80年代に日本で働いていたことがあるというバングラデシュ人の方にお会いした。

バブル経済で絶好調だった当時の日本企業は、拡大するビジネスを賄える十分な労働力を集められず、あちこちの国から労働者を集めたがっていたらしい。為替や賃金の問題も大きな要因だろうけれど、労働力不足というのが後押しして企業の海外進出が進んでいた。それと同時に多くの企業が実際に外国から労働者を連れて来ようと、かなり積極的に動いていたらしい。でも、何としても日本政府は外国人労働者受け入れを認めず、労働力を得られない企業は事業を拡大できないどころか、事業を畳まざるを得ないようなところも少なくなかった。間に入って色々交渉していたその彼は、なぜ企業活動を停滞させるようなことを政府がしているのか、全く理解が理解ができなかったという。(当時不法滞在者を隠れて雇用し、社内ビルの中に匿まい、社内で生活させて働かせるなどと言うような、日本企業もあったらしい…)

それから30年経ち、労働人口が減少する一方の現在の日本では、人手が足りないから、事業を縮小せざるを得ないというような企業も少なくない。2030年に人手は644万人不足するという予測され、やっと外国人労働者が公に増やされることになったけれど、まだまだ数は少ないし、日本にやってくる外国人の権利が守られる雰囲気はあまりない。労働力人口がだいぶ不足するのはずっと前から予測されていたことなのに、動きを起こすのが遅すぎたのではないか。


ドイツの出生率も日本に負けず低く、高齢化は急速に進行しており、労働力不足が予測されている。2015年のある研究所の推測では、2050年まで毎年27万人から49万人くらいの人口を受け入れなくては、労働力が不足するとされている。

今は子供をたくさん持つことをよしとする国の移民が大量に流入していることから、出生率が持ち直しているものの、伝統的な白人のドイツ人夫婦から生まれる子どもの数は日本に負けず劣らず少ない。

(子どもが少ないのは、旧西ドイツではカトリック的な思想から、女性は家庭に入って子育てをすると言う伝統的な思考が強く、2000年代くらいまで積極的に共働きの家庭に優しい政策が取られて来なかったと言う背景が後押ししていると思われるけれど、この辺はまた調べてみる)

でも人口が減少するドイツには他のEU加盟国から次々に人が来るし、非EU加盟国からも人が移住しやすいし、移民の永住・その家族の呼び寄せ・家族への永住権の付与というのも柔軟に認められていて、2017年のUNの推計で、人口の14.8%も外国人がいるらしい。(ちなみに日本は2018年で1.76%)

2015年以降、何百万人も難民を受け入れたドイツ。難民にはすべからくドイツ語のトレーニング、職業トレーニングなどを提供し、就業支援をして労働者にする。(人道的に受け入れて何も支援をしないと、そこから社会不安が生まれるし、いつまでも政府の財源で支援をし続けるわけには行かないからこそのトレーニングを提供するのだろうけれど) 私のクラスメイトの家族も、サハラ砂漠や地中海を乗り越えてドイツに8年前に入国し、それからドイツ語を覚えて今は工場でマシンオペレーターとして働いている。

労働力不足だから移民・難民を柔軟に受け入れ、その難民までトレーニングをして労働者・納税者に変える。簡単ではないだろうけれど、そのダイナミックさには驚嘆する。(ドイツの職業トレーニングの仕組みは非常に成熟している - この辺もまた今度)

ドイツの場合は、60年代くらいには今の日本と同じように、「労働力」として他の国から労働者を呼んでいて、彼らの権利など考えていなかったらしい。でも外国人労働者が増え、権利を考えざるを得なくなり、どんどん統合が進んでいったらしい。現状の課題に向き合い、人の権利を守る形で真摯に課題解決に当たる。ドイツはロジカルでフェアなだけでなく、アグレッシブさ、ラディカルな国なのだなということを見せつけられる。


そんな状況を目にすると、日本の政治家・政府が、このままだと経済が回らなくなると分かっていたのに、十分な対策を打って来なかったのは、ただ課題から逃げていただけなのではないかと思ってしまう。今まで外国人受け入れに慎重であったのは、(近年なし崩し的に受け入れているものの)純粋に日本文化として信じられていたものを純粋培養したかったのだろうか。

欧州各地で反発が起きているように、全く異なる文化を持つ人たちに国籍や永住権を与え、元々の文化以外の文化を持つ人口の割合が高まることで自分たちのアイデンティティが揺らぐということは否定できない。自分たちの文化を揺らがせるような決断は容易ではないだろう

でも何かを達成するために変えなくてはいけないこともあるし、困窮が目に見えているのだったら、ダイナミックな改革というのは必要ではないのだろうか。

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