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オイラーからのメッセージ

数学を愛する人が無限解析を学ぶ際に直面せざるをえないさまざまな困難のうち,おおかたの部分は,通常のレベルの代数をほとんど習得しないうちに,あのはるかにレベルの高い技術に向かおうとする姿勢に起因する.私の目にはしばしばそのような情景が映じた.その結果がどのようになるかと言えば,単にいわば敷居のところで立ちすくんでしまうというだけにとどまらず,補助手段たるべき概念である無限についてゆがんだ観念を形成するという成りゆきになってしまう.無限解析のためには通常のレベルの代数の完璧な知識が要請されているわけではないし,これまでに発見されてきた技巧の数々のすべてに通じることが求められているわけでもない.しかしまたそこには少なからぬ諸問題が存在し,それらの解明作業には,あのはるかに崇高な学問へと歩を進めていくうえで学ぶ者の心構えを作る力が備わっている.ところがそれらは通常の代数の教程ではすっかり省かれていたり,あるいはまた十分に念を入れて取り扱われていなかったりする.私がこの書物に集めた事どもには,この欠陥を補ってあまりある力が備わっていることを私は疑わない.実際,私は無限解析が絶対的に要請する事柄を,通常なされるよりもはるかに細密に,しかもはるかに明瞭に説明するように努めたが,そればかりではなく十分に多くの問題を解明した.この解明を通じて,読者は無限の観念に徐々に,それと気づかぬうちに親しみを寄せるようになっていくことであろう.

レオンハルト・オイラー

「オイラーを写したことがある」

ある数学者の方がそのようにおっしゃっていたのを読んだことがある。その言葉を聞いたその瞬間だった。「私もやりたい!」と欲求がほとんど爆発的に沸き上がった。とは言うものの、オイラーの著作など簡単に手に入るのだろうか。原著はラテン語と聞いたことがある。さすがにラテン語での写本は難しい。

ところが、である。

あったのである。邦訳が。しかもラテン語からの直訳であるらしい。これまた、飛び上がるほど驚いた。それがこちらである。

ちなみに、訳者はこちらも邦訳されている。

この2冊を合わせると、私にとっては値段も飛び上がるほどだ。
でも迷わなかった。
手元に届いたときにはどれだけうれしかったか。

三年前のことである。


オイラーの全集を編纂しようという企画が起こったのは20世紀に入ってからだそうだ。全集は今もなお編纂中であり完結していない(翻訳公刊2001年当初)。完結すれば全88巻に達するという。

オイラーのすべてに通じる者は今日の世界にひとりもいないと見なければならない

訳者はそう言う。

そんな偉大な数学者の著作など理解できようはずもない。勝手にそう思っていたが、それはオイラーに対してあまりにも失礼な考えだったかもしれない。オイラーは、そんな独りよがりな数学者などではない。それは本書に訳出された『緒言』にも明らかだ。

数学を愛する人が無限解析を学ぶ際に直面せざるをえないさまざまな困難のうち、おおかたの部分は、通常のレベルの代数をほとんど習得しないうちに、あのはるかにレベルの高い技術に向かおうとする姿勢に起因する。<中略>私がこの書物に集めた事どもには、この欠陥を補ってあまりある力が備わっていることを私は疑わない。』 

そう。オイラーは、無限解析そのものだけでなく、無限解析への道のりをも示している。本訳はラテン語原典からの訳出だという。しかも、1748年に刊行された原書初版である。その初版を探しだすのも容易ではなかったようだ。原書初版の訳というだけでも驚嘆に値するが、その訳はとても読みやすく、そして美しい。

冒頭の引用は本書の『緒言』である。少し長い引用となってしまったが、できるだけたくさんの方にこの訳に触れてほしかった。何度読んでも心が震える。

タイトルの「無限解析」であるが、私にはオイラーというと無限級数の印象が強い。
無限級数を自在に操る人。
いったいどうやったらこんな無限級数が思い付くのかと不思議に思っていたのだが、それが、なんと、実に簡単なのである。
例えば

$${\cfrac{1+2z}{1-z-z^2}}$$

は次のような無限級数に展開できる。

$${1+3z+4z^2+7z^3+11z^4+18z^5+・・・}$$

この展開がなんとも簡単なのだ。
そうか。
オイラーはこうやって無限級数を生み出していたんだ。


さて。
肝心の「写オイラー」であるが。

なかなか時間が取れない(笑)。
この写真は解析幾何の方を書き写しているところ。

ま、いいか。
のんびりいこう。
オイラーは待ってくれよう。
私の老後の楽しみだ。

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