原子力の知識:臨界

原子力発電、という名前はよく登場しますが、実際のところ何をしているのか、よくわからない人も多いと思います。
そこで、本日は原子力基礎講座として、臨界について勉強してみましょう。

原子力発電の発電方法

いわゆる『原子力』には核分裂核融合があり、現在安定して利用できるレベルで実用化されているのも、本日取り上げるのも、核分裂のほうです。
(核融合は太陽の中で起きているもので、発電への利用は実験中の段階です)

ニュースなどで目にする『原子力発電』は、核分裂時に発生する熱水を沸騰させ、その蒸気で発電機を回すことで発電している、と理解いただければ問題ありません。

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エネ百科より)

核分裂とは?

私たちや私たちの身の回りにある物は、原子というごく小さい粒子が集まることで出来ています。
原子にはいくつかの種類があり、種類ごとに大きさが違います。
原子のうち、ウランのようなサイズの大きい原子に、中性子というまた別の粒子を勢いよくぶつけると、原子が割れます。

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ウランが割れて、CsSrになりました。(☆が核分裂を示します)
急に名前が変わって意味がわからないかもしれませんが、今は関係ないので無視してください。
重要なのは中性子をぶつけるとウランが割れる、ということ、そしてもうひとつ

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ウランが割れると大量の熱が放出されます。
この熱で水を沸かし、発電機を回しています。
この過程に燃焼を挟まないので低炭素電源なんですが、ここでは割愛します。

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核分裂を起こす!熱で水を沸かす!蒸気で発電機を回す!
これがざっくりした原子力発電の原理です。

臨界とは?

ようやく臨界の話です。
核分裂で放出される熱は大きいですが、発電に使うためには、核分裂が安定して発生する必要があります。(ヒント:電気は安定して供給される必要がある)
そこで核分裂の、さらにもうひとつの特徴を見てみましょう。

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さきほどは省略しましたが、実は核分裂が発生すると(はじめの中性子とは別に)中性子が2個くらい出ます
カンのいい人はもうわかったかもしれませんね。
ひとつはそのままどこかに行きますが、もうひとつは別のウランにぶつかって、さらに核分裂を起こします

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2個出てきた中性子の片方が次の核分裂を起こし、中性子が2個出てきて、その片方が次の核分裂を起こし…(以下繰り返し)…。

○よくわからないまとめ
  核分裂→熱+中性子

   >熱+水→蒸気
    >蒸気+発電機→電気
   >中性子+別のウラン→核分裂
    >核分裂→熱+中性子
     >熱+水→蒸気
      >蒸気+発電機→電気
     >中性子+別のウラン→核分裂…
      >(以下くりかえし)…

1回の核分裂で2個の中性子が放出されるとして、そのうち1個が別のウランと反応する、というのを延々繰り返すと、長期間にわたって一定の熱を取り出し続けることができます

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このように、核分裂反応が一定のペースで続いているのが臨界状態です。

雑学

以上のように核分裂が一定のペースで起こり続けることが臨界状態ですが、出てきた中性子が2個ともウランと反応すると、超臨界状態となります。
ご想像どおり、1回の核分裂の次に2回の核分裂、その次は4回、8回…と倍々ゲームで反応が加速するため、超臨界状態では発生する熱が急激に増加します。大変なことになります。
これを利用しているのが核爆弾です。(これが起きる直前の状態で飛んでいるのが核ミサイルです)

反対に、出てきた中性子が2個ともウランと反応しないと、未臨界状態となります。
こちらもご想像どおり、核分裂が起こらなければ中性子の供給が無くなるので、反応が収束していきます。
原子力発電を止めるときの状態だと思っておいてください。

臨界事故は最悪

原子力発電所は臨界状態を維持することで発電していますが、当然ながら意図しない臨界(あるいは超臨界)の発生は最悪の事故です。
かの有名なチェルノブイリ事故JCO東海事故意図しない臨界の発生によるもので、多くの被害が出ました。
原子力業界での防災は、意図しない臨界の発生を防ぐことは絶対で、ドカドカとリソースが注ぎ込まれています。(私は末端なので具体的には知りませんが…注ぎ込まれていることでしょう)
基本、設備の設計段階で、原子炉以外では何をどうしようが臨界にできないように設計します。

ちなみに、臨界状態になるためには水が存在することが重要です。
原理は省きますが、今度書く臨界防止設計に関係するので、なんとなく覚えておいてください。

雑学2

核分裂による熱の発生のほか、放射性物質には崩壊熱というものがあります。
長くなってしまうので詳細は省きますが、熱を発しているからといって臨界状態であるとは言えないので、気をつけてください。(何に…?)(詐欺とか…?)(臨界詐欺…?)

まとめ

 ○臨界とは核分裂が一定のペースで起こり続けること
 ○原子力発電は臨界状態を維持することで発電している
 ○意図しない臨界の発生はマジで最悪

なお、以上はものすごくざっくりとした説明をしてますので、わからないところはググったり身近な原子力技術者に確認してください。

あと同業の方、もし核セキュリティ的にダメなことが書いてあったらすぐ教えて下さい。

ご覧いただきありがとうございます! 知りたい内容などあればご連絡くださいね。