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最近ニュースで言ってる「原子力政策が方向転換」についてざっくりまとめ

ざっくりまとめ

  • 内閣が開催するGX会議で”原子力を活用する”という方針が示された

  • もともと原子力をある程度使う方針は見込まれていたので、大転換というわけでもないかも

  • 脱炭素的には前向きな変化なので、うまいこと火力を減らせるとよい

GXとは

Green Transformation、略してGX。Digital Tansformationと同じ構造です。
グリーンな社会へ変化しようとすることを指します。
主に気候変動対策のため、温室効果ガスを出さない産業、サービス、暮らし方を増やすことが目指されます。

そして、日本がGXを達成するための方針を決めるのがGX実行会議です。

特に理由のない森林

GX実行会議とは

産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー
中心に移行させ、経済社会システム全体の変革、すなわち、GX(グリーントランスフォーメーション)を実行するべく、必要な施策を検討するため、GX実行会議(以下「会議」という。)を開催する。

GX実行会議(第1回)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai1/index.html

GX実行会議は、内閣総理大臣を議長とするかなり重要な会議です。2022年7月から、12月現在までに5回開催されています。
最近の電力不足やエネルギー価格高騰などを踏まえて、エネルギーを安定供給しながらGXを達成する方法を探しています。
議論のテーマは、エネルギーの安定供給、カーボンプライシング、食料自給に木材活用などさまざま。
今の時点では全体のざっくりした方針を示そうとしているところなので遠く感じますが、”需要側を巻き込んで進めることが必要”と謳っているので、いずれは私たちの生活にもそのうち関わってくる会議です。将来の動向が気になる人は見ておくとよいかも。

特に理由のない猫

原子力についてGX実行会議で言われたこと

やっと本題。
では、そのGX会議が原子力について何を言ったんでしょうか?

原子力を使う方針を明確化した

従来、原子力の利用は”可能な限り依存度を低減する”とされていました。以下は2021年の第6次エネルギー基本計画からの抜粋です。

東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した我が国としては、2050年カーボンニュートラルや2030年度の新たな削減目標の実現を目指すに際して、原子力については安全を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する。

第6次エネルギー基本計画
https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005-1.pdf

原子力への依存度を下げることが明記されています。
対して、第5回GX会議の記載は以下です。(長いので太字だけでよいです)

将来にわたってエネルギー安定供給を確保するためには、ガソリン、灯油、電力、ガスなどの小売価格に着目した緊急避難的な激変緩和措置にとどまることなく、エネルギー危機に耐え得る強靱なエネルギー需給構造に転換していく必要がある。
そのため、化石エネルギーへの過度な依存からの脱却を目指し、需要サイドにおける徹底した省エネルギー、製造業の燃料転換などを進めるとともに、供給サイドにおいては、足元の危機を乗り切るためにも再生可能エネルギー、原子力などエネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を最大限活用する。
福島復興はエネルギー政策を進める上での原点であることを踏まえ、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉や帰還困難区域の避難指示解除、福島イノベーション・コースト構想による新産業の創出、事業・なりわいの再建など、最後まで福島の復興・再生に全力で取り組む。その上で、原子力の利用に当たっては、事故への反省と教訓を一時も忘れず、安全神話に陥ることなく安全性を最優先とすることが大前提となる。

第5回GX会議
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai5/index.html

原子力は、出力が安定的であり自律性が高いという特徴を有しており、安定供給とカーボンニュートラル実現の両立に向け、脱炭素のベースロード電源としての重要な役割を担う。このため、2030 年度電源構成に占める原子力比率 20~22%の確実な達成に向けて、安全最優先で再稼働を進める。

第5回GX会議
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai5/index.html

将来にわたって持続的に原子力を活用するため、安全性の確保を大前提に、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組む。地域の理解確保を大前提に、まずは廃止決定した炉の次世代革新炉への建て替えを対象として、六ヶ所再処理工場の竣工等のバックエンド問題の進展も踏まえつつ具体化を進めていく。その他の開発・建設は、各地域における再稼働状況や理解確保等の進展等、今後の状況を踏まえて検討していく。あわせて、安全性向上等の取組に向けた必要な事業環境整備を進めるとともに、研究開発や人材育成、サプライチェーン維持・強化に対する支援を拡充する。また、同志国との国際連携を通じた研究開発推進、強靱なサプライ
チェーン構築、原子力安全・核セキュリティ確保にも取り組む。

第5回GX会議
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai5/index.html

要するに、現在のエネルギー高騰へ対処しながら化石燃料依存を減らすために、再エネと原子力という脱炭素電源を使おう、という方針です。燃料がいらない再エネと、出力の高い原子力を組み合わせて、安くて安定な電気を供給できるようにすることが目指されます。

はじめに挙げた第6次エネルギー基本計画は2021年10月に公表され、第5回GX会議は2022年12月に開催されました。つまり、この1年で、原子力の利用方針は”なるべく減らす”から”できるだけ使う”へと方針が転換したことになります。
(”できるだけ”と書きましたが、めちゃくちゃ増やすぞ!という方針ではなく、使える分は使おうね、くらいのマイルドさだと思います。)

さて、以上のように方針は変わりましたが、”何をどのくらい使うのか”というのはまた別で示されています。

文章が長かったので柔らかくて甘いものでも見てゆっくりしてください

日本が目指す電源構成

2030年までに目指す電源割合が以下の図で示されています。右側の”電源構成”に注目してみましょう。(左は電気以外も含めたもの)

とりあえず右の”電源構成”だけ見ればOK

この図からわかることはなんでしょうか。
まず、2019年から2030年で、発電電力量自体が減っています。これは省エネをめっちゃ頑張ろうということ。
そして、再エネ(緑)が18%から36~38%に増加しています。倍増させる計画です。ある調査では2021年までに22.4%になったとのこと。
そしてそして、原子力(青)は6%から20~22%に増加しています。4倍近い増加ではありますが、2019年に6%しかないのは、ほとんどの原発が停止していたためです。なので、原発の再稼働が進めば20%は達成できます

そういう意味では、”なるべく減らす”方針だった頃から、ある程度は原子力を使う計画になっていました

顔のいい鳥

方針転換というか矛盾の解消

じゃあ今回の方針転換には意味がなかったのかというと、そうでもありません。

こちらもニュースになっていましたが、原発を使っていい期間は運転開始から40年(申請すればもう20年)と法律で決まっています。

そして、多くの原発は1980年ころに作られているので、2030年や2050年には、寿命を迎えて運転終了する原発が増えてきます。つまり使える原発の数が減ることになるので、電力の20%を原子力で賄うという方針は達成できなくなってしまいます。
なので、原子力を”なるべく減らす”と言いながらも、20%くらい使うのならいつか再稼働、新設が必要という、矛盾した状態にありました。

なので、今回の方針はこの矛盾を解消して、電源構成の目標と政策の方針を合わせるものであったと思います。
日本は資源が少なくて、脱炭素を急ぐなら原子力を20%くらいは使わざるを得なくて、そのためには再稼働や新設が必要……という状況を踏まえて、それに合うように国の方針を整えた、という感じ。

個人的な印象では、内閣として原子力使わないと厳しいのはずっとわかっていて、今回のエネルギー危機/電力高騰を受けて(今なら言い出してもええんちゃうか……?)ということで、夏頃から岸田総理の指示という形でじわじわっと原子力の話をして、世論がそこまで過激な反応をしないことを確認して、じゃあ正式に出そう!ということでGX会議でまとめた、という経緯なんじゃないかなーと思います。

パン

今後はまだわからない

さて、そういうわけで電源構成の目標と方針を合わせることができました。

しかし、方針だけでうまくいくわけではないのが社会の難しいところ。
原子力業界はまだまだいろいろと課題があります。
もうだいぶ長いので簡単にだけ触れておくと……

  • 原発をずっと作ってないので現場のノウハウが薄れてきた

  • 原発をずっと作ってないので原子力関係の事業をやるメーカーが減った

  • 原発をずっと作ってないので人材が減った/高齢化した

  • 放射性廃棄物の行き場が十分でない/決まっていない

などでしょうか。
海外では、アメリカが久しぶりに作っている原発の工期が延びて大変です。国際機関であるIEAからは「原子力は気候変動対策の役に立ちそうだけど、もっと安くしないとダメだよ」と指摘されています。
プロジェクトの規模が大きいため、単純に管理が難しいですし、トライアンドエラーがしにくくてノウハウが貯まりにくいのが悩ましいところ。

廃棄物に関しては、技術的にどうしようもない不確かさをどう評価するか、そしてどうしても割り切れない感情をどうするか、というあたりが難しさ。
その辺は業界が頑張るところなので頑張ります。

頑張り

原子力20%は”必要”なのか?

よくある構図として、

再エネ100%”を目指すべき VS 原子力を活用すべき

という対立があります。
(本来、そんな極端な二項対立にすべきではないんですが、メディアは文脈をわかりやすくするためにそうせざるを得ないのかもしれません。)

上では、国の方針を引用して”原子力20%が必要”というのを前提としましたが、「そもそも再エネ100%を目指すべきで、原子力は不要」という反論はありえます。
長くなってしまうので端折りますが、個人的には、導入速度が100%到達を目指せるほど早くないこと、生産プロセスのボトルネックが国外にあること、拙速な導入がバブルを呼ぶリスク、面積の不足、それらを解消するための経済的なリスクがあるので、再エネ100%は”選択肢としては存在するけど危険度の高いルート”だと考えています。

バランスのために原子力の欠点も挙げときましょう。
ステークホルダーがやたら多いので意思決定に時間がかかり、最近の事例では工程遅延が多くあり、許認可プロセスでも予想外の遅延が起きやすく、核セキュリティの維持が必要で、放射性廃棄物が邪魔で、廃炉に手間がかかります。

なので、原子力をもっと増やそう!どんどん増やそう!という主張には頷きづらいところがあります。
再エネも原子力もバランスよく使って、なるべく火力を減らしていきましょう。

酸素の薄い山

おわり

なんだかんだ言ってきましたが、原爆や原発事故を経験した日本で、”原子力を活用する”という方針が打ち出されたのは、大きな変化です。内訳を見ていくと大転換というほどではないなーと思うものの、前向きな変化であることは間違いありません。

あとは、原発建設の経験がある人がリタイアしきる前に、新しい案件を動かせるかどうかですね。

原子力以外についても簡単に触れようと思ったんですが長いので一旦やめまーーーーす!!!!

ご覧いただきありがとうございます! 知りたい内容などあればご連絡くださいね。