9/25日曜討論(脱炭素社会をどう実現するか?)を振り返りつつの雑記

出演者みたいなタイトルですが、ただの視聴者です。
テレビを見て駄弁るおじさんです。

経緯

9/25放送の『NHK日曜討論』で脱炭素施策に関する議論が行われました。
全体として「脱炭素せねばならんのだ!」という雰囲気だったので、「やらないといけないんだけど、現実的な速度でやりましょうよ」という主張をしていた側がしんどそうでした。
で、番組で言い足りなかったことを書いているのが上の記事。

いろいろ意見があって面白いな~…と思いつつ、以下は原子力分野の人間としての私見です。

前提として、正解はない

何度でも書きますが、「どうやって脱炭素を達成するか?」という問いに、”正しい答え”はありません。言えるとすれば、なるべく可能性が高い方を選びたい、というくらいです。

なお、”可能性が高い”というのは、以下2つを合わせて考える必要があります。

  • 脱炭素化できる(脱炭素化しないと世界が困るため)

  • 経済が回る(脱炭素化しても経済が落ち込むと人が死ぬため)

確率のとらえ方が人によって違う

  • 再エネ100%にすべき/再エネは可能な限り増やすべき/現行の政策ベースです滑るべき

  • 火力は即時廃止すべき/CCUS付き火力発電を多少は使うべき

  • 原子力は即時廃止/原子力は気候変動対策として多少は使うべき/原子力も全力で使わないと足りない

など、様々な意見の対立があります。
このような対立は、誰かが正解を言っているわけではなくて、それぞれ”可能性が高い”と思っているものが違ったり、前提として重視する価値観が違っていることを反映しています。
再エネ開発が上手くいくと信じていたり、経済が発展しないと気候変動対策もできないと考えていたり。あるいは旧来の技術を嫌っていたり、保守的な価値観を持っていたり。

このあたりは合意するのが非常に難しいポイントですが、お互いの主張のどちらが正しそうかを競うよりも、ひとつ視点を上げて、お互いが何を前提にしているか、何が重要だと考えているのかを明らかにする必要があります。

イデオロギー闘争してる場合でもない

未来がどうなるかわからない中で確率計算ばっかりしていても仕方がないので、再エネを増やすこと、省エネを進めること、原子力を活用することなど、それぞれの技術を具体的に実装するためのアクションを起こして、未来を確定させていくことが大事です。

私は再エネ100%は経済的/時間的に厳しすぎると考えているので、原子力活用を仕事にしていますし、再エネの実装を進めている人や研究している人には頑張ってほしいな―と思います。
で、それぞれの進展や持っている課題などを明らかにしていくと、未来が確定して、「再エネもっと頑張れそうだね」とか「火力はやっぱもっと減らさないとダメだね」ということがわかってきます。

私は末端エンジニアなので、視座が低いのかもしれません。
が、前回の日曜討論はあまり踏み込んだ議論ができず、二元論的に終わってしまいました。もう一歩踏み込んで、どういうところが課題なのか、どこで協調できるのか、という部分に触れられるようになっていくと、もう少し具体的な未来像が描けると思います。
そのへんは論者というよりも場組みをする人の技量と視野だと思うので、がんばれ日曜討論。国営放送のパワーを見せてくれ。

脱炭素はせねばならん

気候変動については、国際機関であるIPCCが気候学者を集めて世界中の報告書を読み漁ってパブリックコメント(なんかおかしいところあったら連絡してね、というやつ)も一通り回答したうえで現在の状況を整理した結果、人間活動によって気候変動が生じていることは疑いの余地がない、と結論付けられました。

気候変動による災害の増加については、まだデータが充分でないため、はっきりわからない部分もあります。が、理屈のうえでは、気候変動を放置していると、どんどん悪化する可能性が高い、と予想されています。
温暖化が進むと気温が高くなるので、それによってさらに温暖化が進みやすくなるという悪循環もあります。

エネルギー問題の難しさを踏まえたうえでどういう立場を取るのか

温暖化問題とエネルギー問題はコインの裏表であり、国際エネルギー情勢、地政学、経済、国民生活への影響等を総合的に考えなければならない。温暖化対策を推進すれば、環境にも良いし、経済成長もするという良いことずくめの議論があるが、それならば温暖化問題がかくも深刻化することはなく、筆者が関与してきた温暖化交渉がかくも難航するはずがない。

https://agora-web.jp/archives/220930072231.html

気候変動対策が必要だと言うのは簡単ですが、ものすごく多くのステークホルダーがいて、嘘みたいな数の要素が絡み合った問題であるため、「脱炭素せねばならん!」という一本槍では話が上手くいきません。
「正しいことをしなさい!」と言えばどうにかなるものではない、というのは多分共通認識としてあって、「それでも言い続けるのだ」という立場と、「早く現実を見よう」という立場がぶつかっているような気もします。

主張を引いたら実現できるものも小さくなってしまう……と考える人は、原理主義的な主張に突っ込みがちかもしれませんね。

原子力嫌われがち

筆者は再エネについてはネガティブな考え方は持っていないが、再エネを推奨する人の多くが原発を頑なに排除していることを強く批判するものである。

環境系の団体は、もともと原子力発電によって生じる放射性廃棄物などが持続可能でないとして批判してきたので、気候変動問題の重要度が高まったとしても方針を転換しない、という印象があります。
私は、気候変動のほうが、放射性廃棄物や事故リスクの問題よりもずっと大きいと思うので、原子力活用しようよ~と思っています。優先順位の問題なので、なかなか一致はできなさそうです。

再エネの価格競争力はどうなんだろう

「再エネは安くなっている。再エネと原発が同じ土俵で戦ったら再エネが勝つ」という平田仁子氏の主張であるが、再エネ導入拡大をけん引してきたのは固定価格買取制度という間接補助金による官製需要である。

再エネがそれほど安くなったのであればこうした補助金も不要のはずだが、今後、「切り札」とされている洋上風力はkwhあたり29-36円と太陽光を大幅に上回る買取価格が適用される。あたかも再エネが支援なしで独り立ちできるようなコメントをするのはミスリーディングではないか。

再エネへの補助は、ビジネスモデルが確立されていない中で事業を立ち上げるためのスタートダッシュ的なもの、と理解しています。が、たしかにまだまだ補助を受けている事実がありますね。
そもそもインフラ関係が何がしかの補助を受けているので、そういう意味ではインフラ事業は市場での競争に向いていない、という話なのかもしれません。

「世界では再エネが最も安い電源になっている」という主張もありますが、それが国土の狭い山がちな日本でも同様に成立するのか?というのはまだ疑問です。
大陸の国々と比べると、材料の輸入費や土地開発、技術開発などでコストが増してしまうように思えてしまいます。

あと、再エネは原子力と戦わずに火力と戦ってください。

立場のグラデーション

再エネを推進しようとする人でも、

  • 「邪魔さえなければ再エネ100%は達成可能!経済も発展する!」と信じている人

  • 再エネ100%はさすがに厳しいとしても立場上そんなことは言えない人

  • 未来が不確定だからこそ目標は高くしたい人

  • 環境配慮アピールしたい人

  • 特に何も考えていない

など、複数の立場が(表に出ないにしても)あると思います。
反対に、火力や原子力も必要だと主張する人でも、

  • 気候変動を信じていない人

  • 気候変動とか言っても大したことないでしょ?と考えている人

  • イデオロギーの暴走を抑えて現実路線を作りたい人

  • ゴリゴリ保守

  • 特に何も考えていない

などなど。いろいろです。
あまり単純に二元論でまとめてしまうと、いろいろな不幸が起きるので注意が必要。
やっぱり前提や背景や目指すところやその方法や美学や正義や好きな酒についてしっかり話したうえで乾杯して握手して明日からも頑張ろうなって別れても好きな人でいるのがいいと思います。

あ、陰謀論的なことを言えば、その業種から利益を得ているから守りたいんだろう!というのもあります。
利益を得ている人が自分の産業を守ろうとすることは、ときに不誠実であることもあるんですが、「自分の利益を守りたいだけならNG」というのはいささか厳しいと思います。
社会情勢が変わって急転換する際に、たとえば数万人規模の産業をいきなりぶっ潰していいのか、といえば(その数万人を守ることを考えるなら)Noです。
なんかこう……黒幕的な悪いオッサンが一人で利益を吸っているなら潰したほうがいいですが、普通に頑張っているひともたくさんいるので、落とすにしても軟着陸できるように時間と制度はつけたいですね。

まだいろいろ書きたいことがあった気がしますがそろそろジムにいかないといけないのでこのへんで……
燃えろ俺の上腕二頭筋

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