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M&Aを見据えて 株式譲渡これだけは!

 いざ、M&Aを行おうとする場合に過去の株主変遷が問題になることは非常に多いです。
 スムーズなM&Aの実現のために、身内・親しい間での株式譲渡を行う場合でも、株券発行会社における株券の交付、株式譲渡承認決議及び金銭の授受は必ず行ってください。


M&Aの株式の変遷で問題になる点

 M&Aの株式譲渡スキームにおいては、株主の変遷を必ず確認します。このときに、必ず買主から指摘されるのが以下の点です。そのため、少なくともその点について対応しておくことで、株式の変遷等に関する特別補償条項等の設定を行うことなく、株式譲渡契約書の調整を行うことができ、スムーズにM&Aの実現ができます。

1.株券発行会社における株券の交付
2.株式の譲渡承認
3.領収書等の代金受領の証跡

1.株券発行会社における株券の交付

 株券発行会社においては、株券を交付することが株式譲渡の効力発生要件です(会218)。株券発行会社かどうかは、登記事項証明書で株券発行する旨の定めの欄に株券を発行すると記載があるかどうかで判断ください(株券発行会社・株券を発行しない会社については、別の記事で記載します)。
 そのため、株券発行会社であるにもかかわらず、過去の株式譲渡の際に株券が交付されていなければ、厳密には株式譲渡が生じていないと考えられます。この点において、M&Aにおいては譲受企業から高い確率で、過去の株式譲渡に関する株券の交付のやり直し(実際は、確認書等の取得を行います。)を求められることがあります。当該過去の株式譲渡の売主が、死亡している場合や退職した従業員である場合には、株券の交付を再度行うこと、確認書を受領することは非常に困難です。場合によっては、この対応ができないことにより、案件がブレイクすることもあります。
 よって、親族間の株式譲渡であっても株券の交付は必ず行っておく必要があります。

2.株式の譲渡承認

 中小企業が発行している株式は、ほぼ譲渡制限株式です。この譲渡制限株式を譲渡するには、発行会社の承認が必要です。承認は、原則、取締役会設置会社では取締役会、取締役会設置会社でない会社においては株主総会で決議します。しかし、親族間の株式譲渡ではこの承認を行っていないことが多いです。また、取締役会においては、株式の譲渡人又は譲受人が取締役の場合、当該取締役は特別利害関係人として議決権を行使することができません。
 M&Aにおいて、過去の株式譲渡において譲渡承認がなされていない場合、譲受企業から改めて譲渡承認決議をするよう求められます。株式譲渡契約書において、過去の株式譲渡に関する譲渡承認と当該承認をおこなった議事録をクロージング日に提出する旨を定めることになります。ただ、親族間での株式譲渡等において、譲渡承認ができないというケースはないでしょうから、単に議事録と作成すればよいだけですので、1.のように案件ブレイクにつながることはありません。なお、この譲渡承認は、あくまで現時点において追認するという扱いであるため、議事録の日付は、バックデートするのではなく、現時点での決議日の日付を記載します。

領収等の証跡

 株式が誰から誰に譲渡されたのかは、株式譲渡契約書とその売買代金受領が分かる書類を調えておくことが必要です。しかし、親族間の株式譲渡では、株式譲渡契約書を作成していることはまれです。株式譲渡契約書がないと株式譲渡が成立しないわけではありません。
 株式譲渡契約書がなく、あっても日付の記載がなかったりすることも多く、この場合、株式譲渡があったかどうかをどのように判断するのかというと領収書や振り込み履歴で判断することになります。
 金銭の授受があったことが分かれば、株式譲渡が成立していたと考えられるためです。

まとめ

 M&A仲介業者は、M&Aにおいては、かならず株式譲渡契約書を整えるだけではなく、株式譲渡承認の手続き、株式の名義書換手続き、役員変更の手続きまでを見届け、適切かつ有効に株式譲渡の効力が発生し、その対抗要件が具備されたことを確認する必要があると考えます。
 一方で、親族間で簡単に株式譲渡をしようとする場合でも、少なくとも上記3つを整えてください。これにより、スムーズなM&Aが実現できます。

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