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M&A株式1-8 株主が死亡したらどうする?

 M&Aの案件進行中に株主が亡くなられることも時々あります。
 株式の共同相続人は、遺産分割協議等により株式の取得者を確定したうえで、株式会社に対して相続による株主名簿の名義書換を請求します。


株主が死亡したときの手続き

 株主が死亡した場合には、以下の手順により、相続人へ当該株式の名義を書き換えます。相続分などについては、別の記事で記載します。

 手順1:遺言書がないか確認する
「○○株式会社の株式は妻に相続させる」とする遺言書があれば、原則、そのとおりに相続が確定します。公正証書遺言以外の場合には、自筆証書遺言書保管制度により法務局に保管されている遺言書を除き、家庭裁判所の遺言書の確認手続き(「検認」といいます)が必要です。

  手順2:法定相続人が誰か調べる
 亡くなった人(被相続人)の出生から死亡までの記載がある戸籍謄本(除籍・原戸籍を含む)をすべて取得し、法定相続人を調べます。
 
手順3:遺産分割により誰が株式を相続するか確定させる
 法定相続人が複数いる場合、遺産分割協議により共有となっている株式について取得する相続人を定めることがあります。

手順4:株式会社に対し相続による名義書換を請求する
 株式を相続する人が確定したら、相続人は、株式会社に対し、相続による名義書換を請求します。相続を原因として株式を取得した場合には、相続に関する書類を添えて相続人が単独で名義書換の請求ができます(会133Ⅱ、会規22Ⅰ④)。株式名義書換請求書に添付する書類は以下のとおりです。

<相続による株式名義書換請求に必要な書類>
①遺言による相続または遺贈の場合
 ・遺言書謄本(法務局に保管されている自筆証書遺言書を除き、公正証書遺言以外の場合は、家庭裁判所の検認済証明書も必要)
 ・被相続人の除籍謄本(死亡がわかるもの)
 ・遺言執行者がいる場合は、その者の印鑑証明書・資格証明書(家庭裁判所の選任による場合は、選任調書も必要)
②協議による相続の場合
・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
・各相続人の戸籍謄本
・遺産分割協議書(各相続人の実印の押印と印鑑証明書付
③調停・審判による相続の場合
・家庭裁判所の調停調書謄本または審判書謄本および審判確定証明書
・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
・各相続人の戸籍謄本

株主が死亡したときの株式会社の対応

 株式会社は、株主に相続が開始したことを知った時は、相続人に対し相続による名義書換を促すことが望ましいでしょう。
 しかし、会社ではそもそも相続人が誰かわからないこともありますので、相続人から名義書換請求があるまでは、株主名簿に従って招集通知等を行っていれば、重大な過失がない限り株主に対して責任を負いません。

遺産分割協議が確定するまでの間は、株式は共同相続人の共有

 遺産分割により相続する者が確定するまでの間は、被相続人名義の株式は、共同相続人全員の共有になります(民899)。たとえば、夫が亡くなり、法定相続人が妻と子1人のときに、相続財産である100株が自動的に50株ずつ相続されるのではありません。
 株式が共有であるときは、株式会社が同意した場合を除き、相続人は、当該株式についての権利を行使する者1人を定め、株式会社に対しその者の氏名を通知しなければ、その株式について権利を行使することはできません(会106)。
 また、株式の共有者となった相続人は、株式会社からの通知、催告を受領する者1人を定め株式会社に対しその者の氏名または名称を通知しなければなりません(会126Ⅲ)。この通知がなければ、会社は、共有者のうち1人に対して通知、催告を行えばよいとされています(会126Ⅳ)。
 なお、共有の株式を譲渡するには、共有者全員の同意が必要です。

相続人に株式を売り渡してもらえる制度

 譲渡制限株式を相続により取得した相続人から相続による株式名義書換請求がなされた場合に、当該相続人が株式会社にとって好ましくない株主であることがあります。
 株式会社は、定款に「相続人に対し売渡請求できる」旨の規定があれば、相続があったことを知った日から1年以内に、相続人に対し、当該株式を株式会社に売り渡すことを株主総会の特別決議により決定したうえで、請求することができます(会174)。
 株式会社から売渡請求を受けた相続人である株主は、株式の売却を拒絶することはできません。売買価格に不満がある場合には、相続人と株式会社ともに、売渡請求の時から20日以内に裁判所に対し、売買価格の決定の申立てを行うことができます(会177Ⅱ)。この申立てがなく、価格の合意がなされなかったときは、売渡請求は効力を失います(会177Ⅴ)。

<相続人に対する売渡請求の要件>
・譲渡制限株式であること(会174)
・売渡請求することができる旨の定款の定めがあること(会174)
 (例) 第○条(相続人等に対する売渡請求)
 当会社は、相続、合併その他の一般承継により当会社の譲渡制限の付され た株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。
・株主総会で当該請求することの決議(特別決議)があること(会175)
相続人である株主は、その者以外の株主の全部が当該株主総会において議決権を行使することができない場合を除き、当該株主総会において議決権を行使することができない。
・株式会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過していないこと(会176Ⅰ)
・相続人に支払うべき売買価格が、その譲渡の効力が生じる日にお
ける分配可能額を超えていないこと(会461Ⅰ⑤)

 株式会社は、相続があったことを知ってから、定款変更により「相続人に対し売渡請求できる」旨の規定を設定することもできます。
大株主に相続が発生し、株式会社が売渡請求を行った場合、大株主の相続人は株主総会で議決権を行使できず、大株主の株式を自己株式とすることになれば、これまでの少数株主の議決権割合が増えます。その結果、小数株主が主要株主になることもありえます。

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