見出し画像

生活保護と扶養義務

お盆休みに突入。被補助人さんとお墓参りに行ったりと、お盆らしくなってきたこの頃。わずかに暑さが和らいだ気がするのは気のせいか、暑さに慣れただけなのか。不明でございます。写真は、このお盆休みに読もうと思っている「ミッキーマウスの憂鬱 松岡圭祐著」。盆休みのお供に手にとってみた。文学作品ではないが、リラックスして読むにはちょうど良さげ。

さて、今回はタイトル通りの話。この話題が気になる人はごく少数だろうが、扶養義務を検討する必要が生じたのであらためて学んだ次第。参考・引用した書籍は、「生活保護ハンドブック 池谷秀登著 日本加除出版」「生活保護手帳2023 中央法規出版」である。
さて、現実とはケース概要を少し変えた上で、学んだこと・検討したことを記したい。

 被保佐人のAさん(女性)は高齢者。今年で80歳になる。私が担当して1年程度になるが、この人には50歳前半の子がある。その方を仮にBさんとする。障害のあるBさんは、昨年までAさんと同居していたのだが精神的に不安定でもあり、Aさんとの同居がお互いに良い状況とはいえなかった。よって、現在は障害者のGHに入っている。Aさんは年金収入のみであり、貯蓄は100万円にも満たなかった。Aさんは資力及び関係性の理由からBさんを扶養することはできないため、Bさんは市外のGHに移動後、生活保護を受給。もちろん別世帯になった。私がAさんの保佐人に就任後、Aさんが持っていた不動産が意外に高値で売れるのでは?ということになり、不動産屋に依頼。そして、まとまった金額が入ってきた。金額は600万円。さて、この収入があったことで、AさんはBさんの扶養義務を果たせる、または果たすべきだと言えるのかどうか。

生活保護に優先する扶養義務


生活保護法第4条には、補足性の原則が記されている。

第4条 保護は、生活に困窮する者が、その利用しうる資産、能力その他あらゆるものを、その最低限の生活の維持のために活用することを要件として行われる
2  民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3  前二項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。

つまり、扶養義務者の扶養は、要件ではなく「優先」とされている。生活保護行政実務の例として、東京都では、「生活保護法上の扶養の扱いは、民法の規定により扶養が行われたときに、その援助された額を収入認定するという意味であり、実施機関に扶養の履行を強制する権限はない」と解説されているらしい。学説上も、このような考え方が多数。ということは、Aさんがまとまった金額を得たことのみではBさんの保護が廃止になるとは言えないと思われる。あくまでAさんがBさんに金銭的援助をした際に、その金額が収入認定されて保護費が減額となる、ということ。
しかし、77条では以下のように定められている。

77条 被保護者に対して民法の規定により扶養の義務を履行しなければならない者があるときはその義務の範囲内において、保護費を支弁した都道府県または市町村の長は、その費用の全部または一部を、その者から徴収することができる。
2  前項の場合において、扶養義務者の負担すべき額について、保護の実施機関と扶養義務者の間に協議が整わないとき、または協議をすることができないときは、保護の実施機関の申立により家庭裁判所がこれを定める。

あれ、どういうこと?となる。この77条については、現行法ができた1950年の家族観が反映されていると言われている。現在では現実的ではないようだ。

扶養が保護要件になりうることがある


 上述した4条にある、「その他あらゆるものの活用」に、扶養は含まれないのかという問題がある。『生活保護手帳 別冊問答集』によると、どうやら要保護者の努力だけで資産とはならないという「扶養」というものの性質から、「その他あらゆるもの」には含まれないと解されれている。が、扶養義務者に資力があり、養う意思もある場合には問題になる。家庭のさまざまな事情がなく要保護者が単に拒んでいるのみの場合は、保護の要件の問題になり、却下等の不利益処分が生じる可能性がある。

平成25年法改正について


平成25年に新たに条文が設けられた。

24条 
 8  保護の実施機関は、知れたる扶養義務者が民法の規定による扶養義務を履行していないと認められる場合において、保護の開始の決定をしようとするときは、厚生労働省令で定めるところにより、あらかじめ、当該扶養義務者に対して書面を持って厚生労働省令で定める事項を通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが適当でない場合として厚生労働省で定める場合は、この限りではない。
28条
 2  保護の実施機関は、保護の決定もしくは実施または第77条もしくは第78条の規定の施行のため必要があると認めるときは、保護の開始または変更の申請書及びその添付書類の内容を調査するために、厚生労働省令で定めるところにより、要保護者の扶養義務者もしくはその他の同居の親族または保護の開始もしくは変更の申請の当時要保護者もしくはこれらの者であった者に対して、報告を求めることができる。

扶養義務者に報告を求めることができるわけだが、厚生労働省は、通知や報告を求める対象となる扶養義務者とは、福祉事務所が家庭裁判所の審判等を経た費用徴収を行うことになる蓋然性が高いと判断された場合や明らかに扶養が可能と判断された場合に限られるとされている。

この「明らかに扶養義務を履行することが可能と認められる扶養義務者」とは誰なのか。生活保護手帳によると以下のとおり。

当該判断にあっては、局長通知第5の2による扶養能力の調査の結果、①定期的に会っているなど交際状況が良好であること、②扶養義務者の勤務先等から当該要保護者に関わる扶養手当や税法上の扶養控除を受けていること、③高額な収入を得ているなど、資力があることが明らかであること等を総合的に勘定し、扶養義務の履行を家庭裁判所へ調停または審判の申立てを行う蓋然性が高いと認められる者をいう。

ということで、報告を求められるケースはレアだろうと思われる。

扶養照会と判断

紹介については、さらっと流す。扶養照会(調査)は、収入の聞き取り等で行われるのだが、それにより扶養能力の判断がなされる。判断については、例えば10年以上音信不通のものや70歳以上の高齢者は扶養能力がないものとして取り扱っている。

ということは・・だ。Aさんがその程度の所得を得たということのみで、Bさんの保護廃止にはならない。報告等がなされる可能性も、Aさんは高額の定期的収入があるわけでもなく、扶養義務を調停等の申立てを行う蓋然性があるとは思えない。さらには、Aさんが扶養したいと申し出るはずもない。同居が不可能になったという事実から察していただきたいのだが、関係性は良好とはいえないのである。尚且つ年齢は70歳以上だ。

扶養義務の履行を求めることは関係性の問題(DVなど)もあり、簡単なことではないようだ。福祉行政側が義務の履行を求めることで余計に関係が拗れたら元も子もないため、慎重にならざるを得ないのだろう。家族観の変遷も、1950年代と比べると大きいようだ。家族とはいえ、無闇に扶養義務を振りかざされると「共倒れ」ということになりかねないケースをいくつもみてきた。とはいえ、現在は1950年代と比べて、家族という小集団にとってよい時代と言えるのだろうか。地域のつながりどころか家族の繋がりさえも薄れている現在。少し寂しくもある。

noteに記入することを思い立ったのは良いのだが、正直疲れた(笑)まだまだ学習不足。頑張らねば。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?