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相続放棄と死後の利用料支払い(考察)

梅雨が明けたのか?明けたっぽいような気がする今日この頃。地域によっては夏祭りが始まり、1年間でもっともテンションが高まる時期。皆様いかがお過ごしでしょうか。上の写真はバーで飲んだジントニック。酒が美味しい季節です。

今回のテーマは、目下悶々と悩んでいることについて。結論はイマイチ出ていないため、あくまで考察として記載する。なお、ケース概要は一部変えている。

被補助人Aさんが死亡したらどうするか問題

 施設入所中のAさん(70歳代)。認知機能低下は軽度である。この相続人を仮に娘Bとする。このBさん、生活保護ではないが資力がない。ギリギリの生活を送っている。Aさん自身にも多額ではないが負債があり、おそらく亡くなる時点まで完済は難しいとみている。(ちなみに自己破産は認められないと思われる)
 このような場合でAさんが死去したと仮定する。Aさんの貯蓄・現金はこの時点で合計30万円あるとする。貯蓄は全くない娘Bさんは無論相続をする気はない。となると、本人死去後に財産を動かす(処分する)ことはできないため、最後の月の施設利用料はどうなるのか、火葬の費用はどうするのかということ。

 もし、Aさんに負債がなければ、BさんはAさんを相続し、補助人の私としてはBさんの了解を得て、相続財産から一部報酬も受け取り最後の施設利用料を支払い、残りをBさんに渡して終了という流れ。
 しかし、現実は上記の通り、そうではない。Bさんは相続しないのだ。ということは、相続財産を処分してしまうことができないということになる。

民法921条 次に掲げる場合には、相続人は単純承認したものとみなす。
 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

 ちなみに、そもそも論ではあるが、私が財産を処分する権限はさらさらないのである。

民法873条の2  成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかな時を除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第3号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済
 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)

ということで、上記は成年後見人のみの規定。保佐人・補助人にはなぜか死後事務の権限がない。この点は、保佐人、補助人であっても応急処分義務又は事務管理に基づき死後事務を行うことが否定されていないため、できなくはないという解釈。だが、そもそも誰のための事務管理か。相続人のため?と思われるのだが、どうなのだろう。

相続財産の処分?保存? 


 私が気にしていたのは、相続人Bの単純承認にあたってしまわないかということ。上に書いた民法921条には「保存行為」は認められるとある。例えば相続財産を棄損しないように、建物を保存する行為とか。この保存行為に、施設利用料などの支払いが含まれるかどうか。この点、ネットで調べてみると、回答する法律家により答えが違う。保存行為に含まれるのかどうか、明確な回答は難しいそう。判例などから判断するしかないのだろうが、明確な判例はないのではないかと、私の事務所の司法書士。
 なお、葬祭費用については、常識の範囲内の額ならば認められるとある。これは判例に基づいているようだ。
 

明解な結論は出ず・・・


 私が事務管理として行なった行為がそのままBの単純承認にあたるのかどうか。なんとなくだが「否」だろうと思う。さらに、例えばB自身が相続財産から施設利用料支払いを行なったとしても、私としては施設利用料支払いは「保存行為」として考えられていると思いたい。
 そもそもAさんの債務支払いは優先順位を考えて支払わねればらない。つまり税金等の滞納からとなるが、施設利用料を支払わないと2度と私のケースを受けてくれない気がするし、私個人に請求が来てしまうだろうと思う。保証人欄には、保証人という言葉を二重線で消して「補助人」としているのだが。

すっきりはしないが、司法書士が良いアドバイスをくれた。「Bさんが相続放棄したとして、『施設利用料支払いが単純承認にあたる』と言って訴えを起こす債権者がいるとは思えない。だから判例もない。」と。なるほど。

 これまで死後事務の経験はあるのだが、相続人が確実に放棄するであろうケースに当たったことはなかったので悶々と悩むことになった。民法の条文などを振り返るいい機会にはなったため、よしとする。
葬祭費用についても、よくよく考えると悩ましいのだが、これは別の話。


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