見出し画像

.556のオンナとベストゲーム

古来から、水は憑き物を落とすなどの浄化の意味で使われることが多い。

「着いたら全部洗い流して、土曜からの神宮に備えようね」
そう誓って、私たちはサウナの扉を開けた。

分厚いガラスの向こうで、最近映画化や舞台化された絵本の作家でもある芸人が、その独特な人生観を、女性お笑い芸人たちに囲まれて話している。
シーズン中はテレビといえば野球だし、スポーツニュースだし、1日の締めはプロ野球ニュースだし。
地上波のお笑い番組を見るのは、いつぶりだろう。
サウナストーン越しという特殊な環境だからか、はたまたどうでもいい中身だからか、内容は頭に入ってこない。

チラ見する時計がまだ30秒も進んでいない。
テレビどころか、サウナにすら集中できていないではないか。
サウナハットを目深に被り、もう一度瞼を閉じて浮かんできたのは、レフトスタンドから見上げたあの放物線だった。

19時過ぎ、今年もう5度目になるこのメンバーでの観戦。
「私たちといえばココだよね」と事前にファミチケアタックする日にちを割り当てて臨んだ結果、無事4名席を確保。

レストランアサヒなので当然アサヒビールが出てきます

乾杯を済ませ、「球の速いカツオ」と評されるルーキー・山下輝の投球を見つめる。
その老獪ともいえるピッチングは一時逆転を許すも、直後の6回に青木オジサンと長岡秀樹という親子と言ってもいいくらい歳の離れた2人がそれぞれタイムリーを打っての再逆転。
レストランスタッフさんに、 声をかけられる。
「4点も取れるなら大丈夫ですよ」

イヤな予感はした。

「セーフティーリードは12点だぞ」とひとりごちる。
2021年シーズン、ルーキー・山野が立ち上がりを乱しての9失点降板。その後の打線の奮起で11-11の引き分けに持ち込めたはいいが、山野自身はそれ以来登板ができていない。そして、来季からは育成契約への変更。
そう、野球の神様は、いつも気まぐれだ。

9回アウト3つをキッチリ取るまで、本当に何が起きるかは誰にもわからない。

確かに、マクガフの登板間隔は空いていた。
そして去年の日本シリーズでもサヨナラ負けを喫した京セラドーム。
本人が思い出さないわけはないが、ファンに出来ることは彼を信じること。
両手を合わせ、早く終われとだけ祈る。

固まる4人組。
声は一言も出ないまま、時が過ぎる。
ただ、吉田正尚が塁間を一周するのを、何か遠い世界で起きた出来事のように、網越しに見つめたまま。

網の向こうのセカイ

3塁からホームに戻る中、ヘルメットはマウンドのあたりまで投げ飛ばされた。
あまり見たことのない、感情を爆発させた吉田正尚。
ゆっくり両足で踏んだホームプレートを仲間が確認し、水と何かしらの液体が今日のヒーローにザバザバかけられる。ほとけの顔も三度までというが、仏様のような笑顔は何度見てもいい。

そう、この試合の相手がヤクルトでなければ。

スタンド超えて打球ははるかな夢へと…は続かなかった。
代わりに超えていったのは、吉田正尚の一振り。

肥後より携し力…も、発揮されなかった。
求められた力で困難を乗り越えたのは、吉田正尚。

1年間信じて使い続けてきた守護神以上のピッチャーはいない。
土曜日からの第6戦でも、同じ場面になれば、また同じように私は手を合わせるだろう。

「明治神宮様、マクガフをお守りください」と。

最後に、なぜこれがベストゲームなのか。

ビジターのもあるけど行き過ぎでは説

画像の分+10/27オリックス日本シリーズ勝利を見届け、2022年通算オリックス観戦勝率 .556。
オリックスにとってのベストゲーム、でしたとさ。

#ヤクルトスワローズ #Enlightened #swallows